10話 ある夜のこと
その日、私はお母様やお姉様に連れられて、オペラを鑑賞して帰ってきたところだった。
「シンデレラ!!何をグズグズしているの?こちらに来て早く出迎えなさい!」
怒鳴りつけるように、お母様が言う。
しばらくの後、エラは何度も頭を下げながらおずおずと姿を見せた。
「申し訳ありません、奥様、お嬢様方」
「召使の分際でお茶のひとつも出せないの?この役立たずが」
ラビニアお姉様が、高飛車な目線を落とす。
「申し訳ありません」
震えながらエラは頭を下げ、台所へ向かっていく。
――こんな時に、何もできない自分が歯がゆい。
お茶を入れて戻ってきたエラに、お母様とお姉様は容赦ない罵声を浴びせる。
「遅すぎるわよシンデレラ!なにをグズグズしていたの?」
「お茶が冷めちゃったじゃないの?こんなお茶いらないわ!」
そう言って、ラビニアお姉様はエラにお茶をぶちまけた。
「申し訳、ありません」
俯いて泣きそうになりながら謝るエラが、あまりにも気の毒で。
――ここは私が出るしかないわ。
「お母様、お姉様。エラには私の部屋の掃除をしてもらうわ。お茶は他のメイドに入れさせて頂戴」
そう言って私は、エラの手を取った。
「さあ、行くわよ、エラ」
「分かりました、ジュリアお嬢様」
そう言ってエラは立ち上がり、私の後についていった。
自分の部屋に連れてきたエラは、まだ震えているようだった。
「エラ、もう大丈夫よ。楽にしてごらんなさい」
私はエラの頬を伝わる涙をぬぐう。
「ジュリアお義姉様――わたし――」
エラの瞳から、ぽろぽろと涙が流れ出す。
「寂しかった――!」
エラは、私に抱きつき、泣きじゃくった。




