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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

NTRされた時に書いた短編集

あなたの隣人

作者: きょん八丈島

私は古道具屋を見て回る趣味があります。

その中に一つ、中古のHDDを買うと言う悪趣味も。

サルベージソフトを使い、他人の保存したファイルを覗き見します。

沢山の人生。

色々な人間。

その一端に触れる。

深く暗い秘密の遊びです。

今回。

一番ドキッとしたサルベージファイルを、編集して公開いたします。

『序章-愛のはじまり-』


四畳半一間。

このデザイン住宅が立ち並ぶ街では、より貧相な様相が際立つ。

時世にも合ない物であるし、時勢にも負けた建築物だ。

窓を開け放ち外気を取り込んでも、すぐにカビの匂いが立ち込める。

砂壁の表面は黒ずんでいる。

ここで、私と君は暮らし始めた。

昨夜、バーカウンターで意気投合した私達は、そのまま暮らし始めたのだ。

激しい恋に落ちたのだ。

君は言った。

「運命の人に出会ったの」

その言葉に私は酔い痴れる。

痴れ者である私が酔い痴れるなど滑稽の極みだろうが、それでも私の心は熱く燃えた。

純白のシーツを泳ぐように身体を重ね、君の言葉の全てに酔い痴れ、そのまま朝を迎えた。

曰く、「このまま離れないで」曰く、「もう貴方しか見えない」曰く、「私を一生捕まえておいて」曰く、「小さくなってポケットの中に入っていたい」。

もう言葉はいらなかった。

君は言ったのだ。

運命の人だと。

私はとうに決めていた。

朝を迎えるまでの数時間、何度も繰り返し思考を重ね、誓ったのだ。

君を生涯愛すると。

言葉はいらなかった。

これからは永遠に一緒だ。

私も君を愛する事にしよう。

愛しているよ、君。


私は君の首を切り落としカバンに詰めた。



『愛のくらし1』

棚の上に君の首を置く。

血液は粗方流れ出したはずだが、それでも念のため防水シートを敷いた。

何度か交換が必要になると思うが、血液が流れなくなったら、可愛い柄の布を買ってきて敷いてあげよう。

それから君を連れて帰る道すがら購入した花を飾る。

君の髪に一輪。

君の周りに首元を隠すように。

赤い薔薇と白い百合。

これで機嫌を直してくれないだろうか。

見開いたままの君の瞳が、この部屋の薄汚さに驚いているようだから。

きっと、純粋で何一つ不自由なく生きて来た令嬢なのだろう。

こんな暮らしをしている人間がいるなどと考えた事もないはずだ。

少しばかり驚かせてしまったが、すぐに慣れる事だろう。

運命の出会いで結ばれた私達なのだから。

昨夜、何度も重ねた君の唇に触れる。

少し薄い印象を受ける。

明日、工場の帰りに口紅を買ってこよう。

きっと君は泣いて喜ぶはずだ。

私は化粧品など、買った事のない人間だ。

そのような店に入るのも照れ臭い。

そんな私が恥を忍んで買ってくる化粧品なのだ。

愛の深さを知り、歓喜の涙さえ流すだろう。



『愛のくらし2』

君の青くなった唇に紅を差す。

塗り慣れないものだから、口の裂けた都市伝説の登場人物のようになる。

傍らにあった雑巾で拭き取り、もう一度丁寧に紅をひく。

また失敗する。

再び拭き取り塗り直す。

それを何度か繰り返す内に、君の口元に血の気が戻った。

男性に化粧をされる恥ずかしさと、私の繰り返す、愛ある行動に顔を高揚させているのだろう。

何度も失敗を繰り返しながら、なんとか様になる形で塗る事が出来た。

出会った時とは印象が変わってしまったね。

あの美しかった君が、どことなく喜劇役者のように見えるよ。

しかし、安心して欲しい。

化粧を落とした女性に落胆するような男ではないのだから。

私の愛は、こんな事では揺るがないよ。


『愛のくらし3』

君との生活が始まり三日目を迎えた。

こんな事はしたくないのだ。

だが許して欲しい。

あの宝石のように白かった君の瞳が、ひび割れてしぼんで行くのを見てはいられない。

テレビドラマで見るような仕草で、私の手の平が君の瞼を上から下になぞる。

私が見えなくなるのが嫌なのだろう。

頑なに君は瞼を閉じない。

我儘を許すのが男の甲斐性というのなら、毅然と突っぱねる事は男の器量だろう。

君を愛すせなくなったらどうするんだい?

それは君とて望まないはずだ。

これは我々の初めての喧嘩なのだろう。

イニチアシブを取らなくては。

未来への舵取りは私がするべきだ。

男なのだし。

強い態度を取ろう。

棚の引き出しからホチキスを取り出し、それで君の瞼を閉じた。


『愛のくらし4』

花が枯れている。

私達の暮らしが始まった日に、君の周りに敷き詰めた花だ。

ねぇ君。

私は思うんだ。

こうして美しい花は枯れてしまう。

永遠の美しさなど存在しないのだ、と。

この世界に永遠という物は存在するのだろうか?

幼少期から疑問を持ち続けていたのだ。

どんな存在も終わってしまうのだ。

いつか終わってしまうのならば、始まりさえ必要ないのではないかと。

だから私は空虚な人間だった。

そんな私が愛を知り、こうして永遠を見つけたのだから素晴らしいと思わないか?

私は君と出会えて幸せだ。

それと同じくらい、こんな詩人のような私と出会えた君も幸せだ。

そう思うだろう?

胸を張っても良いかい?

ひとまず、枯れた花をまとめてゴミ袋に入れた。

君の髪が混ざっているからか、とてもグロテスクで気持ちが悪い。


『愛のくらし5』

やあ君、今帰ったよ。

今朝は寝坊をしてしまって、おはようも言えなかったね。

私は私で忙しいんだ、わかって欲しい。

作業が遅いと年下の工場長に小言を言われたんだ。

本当の愛も知らない輩が、たかが学歴を笠に着て偉そうに。

いつか殺してやりたいよ。

愚痴ってしまってすまなかったね。

今日は花を買ってきたんだ。

あの日と同じ花だ。

さあ、君の周囲を飾ってあげよう。

髪飾りのように薔薇を一輪、君の髪に挿してあげる。

あの時も喜んでくれたけれど、今回も喜んでくれるかい?

けれども、君の髪は抜けてしまって上手に薔薇が挿さらなかった。

私からの好意を受け取れなかったと君は悲しむだろう。

そんな事で怒りはしない。

たけど、君の気持ちも解る。

だから君の頭皮を突き破る形で花を挿した。


『愛のくらし6』

君との暮らしも六日目だ。

お互いに知らなかった癖や習慣が、ちらほらと顔を出すのだね。

君がこんなにも体臭の強い人だとは思わなかったよ。

それでいて入浴をしないのだから困ったものだ。

いいかい?

私だから笑って済ませているけれど、これが他の男なら捨てられている。

私の器の大きさに感謝して欲しい。

まあ、こんな匂い程度で私の愛は揺るぎはしないから安心したまえ。

明日、香水を買ってきてあげる。

運命の相手が私で本当に良かっただろう?

ねぇ君、愛しているよ。


『愛のくらし7』

君に謝らなければいけないんだ。

すまない。

香水を買っては来れなかった。

待ってくれないか。

そういう心配はいらない。

お金が無かったわけじゃないんだ。

二人が老後まで豊かに暮らせるだけの給金は稼いでいるつもりだ。

君と出会った晩に着ていた背広があっただろう?

あれも相当に高価な物なんだ。

ローンを組んで一流の仕立て屋で作った物だよ。

君も大層褒めてくれたね。

君は目を輝かせ、値段を何度も聞いてきたが、なんだか私は照れ臭くてはぐらかしてしまった。

今だから教えるよ。

あの背広は5万円もしたんだ。

驚いたかい?

二人は夫婦なのだから、私の収入も知っておく時期だと思う。

毎月19万円もの収入があるんだ。

安心したかい?

それで、香水の事なんだ。

普段は作業着で出歩く、気さくな私だ。

だから、あの店で受ける視線に耐えられなかった。

まるで汚い物を見るように、店内にいた人々が私を見た。

いたく傷付いたよ。

装飾品で着飾る輩達は、ああも心汚く生きているのだね。

そんな輩達と、私の愛する君が同列に並ぶなんて許せない。

だから香水は買ってこなかったんだ。

でも安心して欲しい。

消臭スプレーを買ってきた。

これで君の体臭も消えるはずだ。

機転の利く夫で君も誇らしいだろう?

あんな外見を飾るしか能の無い奴等とは違うんだ。

私は違うんだ。


『愛のくらし8』

ねぇ君。

少し品が無いんじゃないかね?

首元を見てごらんよ。

何か悪臭を放つ液体が染み出している。

その防水シートは、血液が棚に着かない為の物であって、君の粗相を処理する為の物ではないんだよ?

君が乾いたら、洗ってタンスの中敷きにするつもりだったのに。

今回だけは許すけれど、次に同じ事をしたら温厚な私でも怒るかも知れないよ。

いい大人が恥ずかしいと思いたまえ。

また粗相をしても良いように、これからは新聞紙を敷く事にするよ。

仕方ないだろう?

君が悪いんだ。


『愛のくらし9』

ねぇ君。

少しだらしがないんじゃないかね?

そんなに悪い姿勢でいるなんて、二束三文の売春婦のようだよ。

何故、そんなに斜に構えているんだ。

何か機嫌を損ねるような事を私がしたかい?

女性とは凛としていてるものだろう?

若い不良娘でもあるまいし、そんなに斜めに傾いているんじゃない。

一度だけは許そう。

私は君を愛しているのだし、二人の愛は永遠なのだから、こうした問題が起これば解決すればいいだけだ。

良いアイディアがある。

明日の夜を楽しみしていてくれ。


『愛のあるくらし9』

ただいま。

帰ったよ。

これを見てごらん?

丁度良い太さの金属の棒があったんだ。

うふふ、実は昨日の時点で考えはいたんだよ。

工場の研磨機を使って先端を尖らせてきた。

こうすれば問題は解決だ。

私は、君の頭蓋骨を貫き、木製の棚に金属の棒を突き刺した。

あまり美しいとは言えない姿だ。



『愛のあるくらし10』

今日は休日だ。

給金も出たばかり。

久しぶりに贅沢をしよう。

近くのコンビニエンスストアで、焼き鳥や缶詰を大量に買い込んできた。

ビールで流し込む。

旨い。

月に一度の贅沢だ。

これを幸せと言うのだろう。

一日、酒を飲みながら旨い物を食う。

これがあるから頑張れるのだ。


『愛のあるくらし11』

隣人とすれ違った。

私が会釈をしているのに、怪訝な顔だけ見せて行ってしまった。

失礼な輩だ。

嫌な事は忘れて歌番組でも見よう。

今夜は、私の好きなアイドルグループが出演するはずだ。

工場で遠巻きに私を見る若造達は、このアイドルグループの魅力を理解していない。

大金を費やして購入した大量のCDを、素晴らしい芸術に触れる機会を与えてやろうと配った私を、まるでおかしな物でも見るように扱ったのだ。

いつだったか、休憩時間に写真集を眺めていたら、親子ほど年の離れた娘に、などと吐き捨てるように言った者もいた。

あのような者共の思考は理解出来ない。

相手にしないのが正解だ。

自慰の準備をしてテレビの前で待機していなければ。


『愛のあるくらし12』

忘れていた。

棚の上に悪臭を放つ肉塊があったのだ。

日々の忙しさに忙殺されて、大切な事を忘れていた。

明日は、燃えるゴミの日だ。

今の内にゴミ袋に詰めておこう。

溶けて腐った肉塊は、簡単に処理できた。

ゴム手袋を着けた手で、ずるずると頭ほどの白い塊から剥がすだけだった。

処理に困ったのが、金属の棒に貫かれた頭蓋骨のような形の物だ。

金属の棒に貫かれたままで処理をした。

ハンマーで細かく砕きながらゴミ抜くろに詰めた。

内側からドロリとした内容物が飛び散ってきたのが非常に不快だった。


『愛のないくらし』

燃えるゴミを出し、今朝も出勤。

いつもと変わらぬ工場の中で、油酔いをしながら働く。

家に帰った所で待つ家族もなく、労をねぎらう友もいない。

こうした日々を繰り返すのだろう。

昼下がり、パトカーのサイレンが聞こえる。

こちらに近づいてくる。

観は鋭い方だ。

恐らく工場内の誰かが犯罪に手を染めたのだろう。

場末の零細にありがちな話だ。

誰であろうと雇うからだ。

私とて同じ穴の貉なのかも知れない。

たった一枚。

薄い紙一枚分ずれてしまえば、私とて犯罪に手を染めるやも知れない。

ただ、そうならないのが私であり、いつまでも正しく生きる純粋さが誇りでもあるのだが。

思った通り、数人の背広姿の男達が工場内に入って来た。


----------ここから下は蛇足で、逮捕された用の保険、本編からは削除------------------


『愛を語る人』

私が刑事に語ったのは概ね、こんな所だ。

何も知らない。

精神科への通院歴など無い。

ましてや麻薬など以ての外だ。

私は真面目一辺倒に生きてきた善良な市民。

確かに、腐った肉塊は捨てたが、それだけで逮捕されるのは不当逮捕だ。

その繰り返しだった。

ある日の晩、どこぞのバーに行っていないかと問われた時だけは、双方の意思が通じた。

その場所に、確かに行ったと答えた。

そこで知り合った女性を誘拐して監禁、そして殺したのだろう?と詰め寄られた。

まったく事実と違っていた。

この取調官にこそ精神科への通院が必要だと思った。

写真を見せられた。

見知らぬ女性の写真だった。

こんな女性は知らないと答えると、強く胸倉を掴まれて恫喝された。

これは裁判で有利になるとほそく笑んだ。

その余裕の表情が気に入らなかったのか、二度顔を殴られた。

ますます有利になると声を出して笑ってしまった。


あの夜。

私は運命の出会いをした。

それは、相手が「運命の人」と私を呼んだから間違いないだろう。

それから飲酒を続け、朝になるまで享楽的に過ごした。

初めて女の身体を知った夜だ。

忘れるはずもない。

それから朝になり、私は首を切り落として持ち帰った。

それの何がいけないのか?

そうしたかったのだ。

私は小中高と真面目に勉学に勤しんだ。

裕福で無かったから進学をせず就職をした。

そして現在に至るまで、それがいけない事だと誰にも教えられていない。

どんな教科書にも首を切り落としてはいけないと書いていないのだ。

私は何も悪くないではないか。

いくら世の中が狂って来ていると識者が警鐘を鳴らそうとも、こうした不当逮捕は無くならないのだろうか?



『留置場の看守は呟く』

「ベッドで囁く女の言葉を真に受けるなんて狂ってる」




ファイルの編集日を見ると、およそ10年前に書かれた物のようです。

私自身は持ち主の住所氏名を知っているので、これが実行された犯罪か否かを知って……。


と言う作品の実像化を進めるのもありなのですが、未成年にも公開しているので真っ当な後書きを。

完全にフィクションです。

私の私小説ではなく、私の過去を打ち明けた暴露小説でもありません。

罪の意識に耐えかねて、こうして皆さんに王様の耳はロバの耳と叫んでいるわけでもありません。

ただのフィクション。

作り話です。


ただし、もうフィクションでホッとする時代ではなくなってしまいましたね。

これを書いた10年前。

こうした事件は、ホラーやサスペンスの中だけの出来事だったのに。

私や貴方の隣人。

信じ切れない空気の中で我々は生きていますね。


ちなみに他の作品と違って、これだけは一度公開しています。

会員制のSNSで少しの間だけ掲載していました。

カップルで使う交換日記系でした。

恋人のOLを若手IT社長にNTRれた時に公開しました。

ほうら、こんなに怖い奴なんだぞ?って。

怖がらせようとして…。

てへ、ぜんぜん僕なんて眼中になくて見てなかったみたい。

すぐ退会しました。

素早くキーボードを叩く若手IT社長とのセッはエッセンシャルか!?

どうなんだ奈江!!!!

ミーン!!!!!!!!!

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