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プラトニック ラブ  作者: 伊咲 汐恩
第八章
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偽りの姿




ーー翌朝。

アラームよりも先に目が覚めた。

失恋が響いたせいかあまり眠れなかった。


布団からニョキッと伸びた手で机に置いてある手鏡を取って寝起き顔を鏡に映し出すと、泣き過ぎたせいか目はパンパンに腫れていた。


今日は彼がアメリカに出発する。

ネットで検索してみたら夜便で出国するらしい。

でも、どの航空会社を使うのか、何時の便で発つのかわからない。

彼とは昨日まで恋人だったのに、振り返れば知らない事ばかり。



パジャマ姿のままリビングに向かうと、テレビに映し出されている情報番組で昨日の記者会見の様子が放送されていた。

モニター越しの彼らは多くのフラッシュを浴びて無数のマイクが口元に向けられている。

間髪入れずに飛び交うインタビューに、2人は丁寧に答えている。




『留学目的の詳細を教えて下さい』


「TOPS時代から憧れていたマイケル リー先生の元でダンスを学べる機会が訪れたので、活動を一時休止してアメリカでダンスを学ぼうと思いました」



『音楽界でトップの座を守り続けてきたお2人ですが、今後の抱負をお聞かせ下さい』


「より高度なダンスの技を習得して、語学に磨きをかけてきたいと思います。俺はギターを、そしてセイはピアノを学ぶ予定です。いつか皆様の前でお披露目出来る事を目標としています」




食卓椅子に腰を下ろして会見の様子を見ていたが、無表情な彼に目が止まった。

声は元気そうに振る舞っているが、哀愁漂う瞳を見た途端、前向きだった気持ちがリバースしていく。




『ファンに向けてメッセージをお願いします』


「俺達はアメリカでみっちりダンスを学んできます。そして、2年後には皆様の前で最高のパフォーマンスを披露するので、引き続き応援宜しくお願いします」




セイは視聴者に向けて固い決意を伝えると、ジュンと共に深々と頭を下げた。

2人はフラッシュ音と共に一斉に光の衣に包まれる。



この記者会見を最後に17歳の彼の最新映像は見納めになる。

次に心境を語る機会があるのなら帰国後に。

寂しいと言う言葉じゃ片付けられない。

胸にぽっかり穴が空いて、間から風がビュービュー吹き荒れている。



母親は食事に手をつけずにテレビに釘付けている娘の異変に気付くと、顔を傾けて心配そうに問い尋ねた。




「紗南。どうして泣いているの? 具合悪い?」




紗南は指摘されるまで、涙で頬を湿らせている事に気付かなかった。

焦って指の腹で涙を拭う。

寂しさは拍車がかかるばかり。



両親はセイくんが恋人だった事を知らない。

しかし、部屋に貼ってある2枚のポスターを見てファンだった事くらいは知ってるだろう。

だから、正直に答えた。




「大丈夫。ただ、KGKの生歌が2年間聴けなくなると思ったら寂しくなって」




これは本音。

だから、両親も素直に信じている。


彼は午後の便で日本を発つ。

だから、カーテン越しに歌ってくれた思い出の曲の【For you】は、もう二度と聴く事が出来ない。



学校にはいつも通り登校した。

昨日、彼が侵入騒ぎを起こしたとは思えないほど代わり映えしない東校舎。

彼と保健室で再会する前と変わらない光景が、彼を失ったばかりの今を苦しめている。



朝のHRで一枚のプリントが配布された。

目を通してみると、『芸能科の演技力指導講座の未伝達のお詫びについて』と、昨日の騒動が記載されている。


思わず首を傾げた。

翌日留学する人間に今さら演技力の指導なんて必要ない。

学校側は昨日の騒動を打ち消そうとしているのが一目瞭然だった。

きっと、今回の件が外部に漏れぬように対策を練ったのだろう。


この学校の大人達は建前ばかりを気にして本当に汚い。


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