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プラトニック ラブ  作者: 伊咲 汐恩
第八章
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不器用な人



「お前さ、連絡先がどうこう言ってるけど、奇跡ってモンを信じていないの?」


「いきなりなんだよ。奇跡とか言っちゃって」



「俺は奇跡を信じてる。こうやって仲間のお前と出会ったのも奇跡。歌手デビュー出来たのも奇跡、曲がヒットしたのも奇跡。憧れのマイケル リーのダンスレッスンを受けれる事も奇跡なんだよ」


「………」



「本当は両手ですくいきれないほど毎日奇跡に溢れているのに、残念ながら人は目の前の奇跡に気がつかない。何故なら奇跡というのは瞳に映らないから」


「じゃあ、紗南に出会ったのも奇跡?」



「……そ。彼女と数年ぶりに再会したのも奇跡。もし、彼女と縁があるのなら今後もチャンスは必ずやって来る。とりあえず明日からアメリカに行って努力の成果をあげよう。きっと彼女もお前の成功を願ってるんじゃないかな」




そう言ったジュンは、先ほど校舎で言い争っていた事をすっかり忘れてしまったかのようにニカッと笑った。


奇跡か……。

ここまでの道のりは努力の甲斐もあるけど、小さな奇跡が積み重なっていった結果であるかもしれない。




「縁ね」


「アメリカで一度頭の中をリセットしよう。辛い思い出を日本に置き去りにしてさ。新しい奇跡に期待を抱いて頑張っていこうぜ」




ジュンは勢いよくセイの肩に手を回した。

すると、身体に振動が伝わった瞬間、セイはつい先日紗南が口にしていたセリフを思い出した。




『留学……。頑張って行って来て。私の事は何も心配しなくて大丈夫』


『寂しくないって言ったら嘘になるけど、今回希望しているアメリカ留学はセイくんの夢だったんでしょ』


『セイくんのファンの一員として誰よりも応援してるから頑張って!』




紗南の応援は魔法のようで1つ1つがパワーの源になる。

離れ離れになって寂しいのは彼女も一緒だって教えてくれたのに、別れ話を切り出された途端、俺は冷静さに欠けて大切なものを見過ごしていた。

期待に応えてあげなきゃいけないのに。




「俺らには史上最強のダンス講師がついている。アメリカでダンスをモノにして必ず成功しよう。だから、しっかり前を向いて頑張っていけるように心を切り替えよう」


「あぁ」



「悲しいと思うのは終わりだと思ってるから。でも、これからが本当の始まりと思ったら、少しモチベーションが上がんない? 彼女と奇跡的に再会出来たように、頑張った矢先には二度目の奇跡が待ってるんじゃない?」




エールを受け取ったセイが俯きざまに考えていると、ジュンは腕時計を見て時間を確認。




「……さ、記者会見の時間までもうほとんど時間がないからもう行くか」


「やべ、間に合うかな」




ジュンは覇気のないセイの肩に手を回したまま校門へ歩いた。


最初はジュンが冴木さんの味方についたと思って裏切られた気持ちでいっぱいになったけど、大切なのは今だけじゃないと教えてくれた。

ジュンに言われた通り、二度目の奇跡を信じてみるのも悪くない。


だから、俺は……。




「ジュン」


「……ん?」



「サンキュ。それと、さっきは酷い事を言ってごめん」


「別にいーよ。俺らは友達だから」




俺らは人間同士だから喧嘩をしたり、意見が噛み合わなかったり、気持ちがアンバランスになったりもしたけれど、ジュンとはこれからも二人三脚で末永く仲良くしていきたい。


KGKの2人は駐車場で待機している冴木の車に乗り込んだ。




「冴木さん、お待たせ」



ジュンは後部座席から身を乗り出して運転席の冴木に伝える。




「会見まであまり時間がないから、すぐに出発するわよ」




冴木は振り向かずにスマホをタップする。

タイムロスはおよそ30分。

現場入りの時間は大幅に遅れたが、まだ何とか間に合いそうだ。

騒動の一部始終を見ていた冴木だが、遅れて来た理由を敢えて問わない。


冴木が駐車場の清算を終えて戻って来ると、車のエンジンをかけて、ラジオのスイッチを入れてから発車した。


流れる景色を見ながら後部座席に大人しく座るセイ。

窓に映るいつもの景色は今日で見納めに。

心にしこりは残されたまま。

閉じた瞼の先には笑顔の紗南の幻影が映し出されている。


ラジオの音に包まれている車内の雰囲気は最悪そのものだった。


俺は当分冴木さんを許せそうにない。

だからと言って、冷たく当たったり無視するなど幼稚な事などしない。

でも、どうしても知りたい事があったから聞いた。




「冴木さん。……紗南に何を言ったの?」




ここからは賭けだった。

質問に答えてくれるかわからないけど、冴木さんの口から答えを聞きたかった。

すると、彼女は背中を向けたまま間髪入れずに言った。




「貴方をアメリカに送る為よ。………あら、道が混んでるみたい。渋滞情報が聞こえないと困るから、少しラジオのボリュームをあげるわね」




彼女はそれ以上何も言わなかった。

当然、質問の答えではないし期待していた返事でもない。

でも、ラジオの音楽に紛れて鼻をすする音が聞こえた。


彼女が涙を流すのは、史上最年少で成し遂げた初の全国ドームツアーの最終日以来。

普段はクールで淡々としているようだけど、本当は人一倍愛情深い人。

その上、俺らに人生を賭けちゃうくらい不器用な人。


だから、それ以上問い詰めるのをやめた。


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