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プラトニック ラブ  作者: 伊咲 汐恩
第七章
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様子のおかしいジュン




高校生活最後の授業を終えたKGKの2人は揃って職員室に行き、教職員に挨拶を済ませた。

その後は、昼から予定している記者会見会場のホテルに向かう為に、冴木が待つ駐車場へ向かった。



毎日登下校時に踏みしめてきた道を一歩一歩辿りながら正面に目をやると西門が視界に入る。

約2年間通い続けた学校は、卒業を待たずに自主退学に。

忙しくてまともに通えなかったけど、午後の補習授業を行ってくれた教師や、保健室のベッドを空けてくれていた養護教諭には、感謝のあまり頭が上がらない。

それに加えて、紗南が流していた涙に後ろ髪が引かれる。


ところが、セイは門をくぐったと同時に一つの疑問が浮かび上がった。




「あのさ、ジュン」


「なに?」



「お前、紗南と知り合いだったんだね。だから、俺の為にと思って視聴覚室に呼び出してくれたんだろ」


「あっ、あぁ」




歯切れが悪い返事に引っかかりを感じた。




「もしかして、本当は知り合いじゃない?」


「えっと、あ……あぁ」




ジュンは目線を逸らして冷や汗を滲ませる。

そこでセイは違和感を覚える。




「じゃあ、一体誰が紗南を視聴覚室に」


「あれから紗南に会えたんだね。やっぱり別れ話になったの?」




セイは今朝の視聴覚室での一件を、ジュンにまだ伝えていない。

にも関わらず、別れまでの経緯を知ってたかのような口っぷりは何かを覆す引き金になった。




「……今、別れ話って言ったよな。俺、まだ話の内容すら言ってないけど」


「あっ、やべぇ!」




ジュンは取り返しのつかないミスをして気まずそうに右手で顔を覆う。




「黒幕は誰だ。一体誰に指示をされて、俺を視聴覚室に向かわせた。紗南を呼び出したのはお前じゃない事ははっきりした。……言えよ」




セイは別人のように目の色を変えるとジュンの襟元を掴み上げた。

キツく睨んでいる瞳の奥は心の中を覗き込もうとしている。

ジュンは首元が徐々に締まっていくと顔面蒼白に。


人目に触れる場所での激しい言い争いや喧嘩はご法度だが、ジュンは逃れられない。

頭の傍らでは一刻でも早く気を収めなければならないと思っている。


ジュンは冴木に内緒にしてくれと伝えられていたが、全く引く気のない様子からすると、素直に吐き出した方が賢明だと思った。




「俺が囮になってお前を視聴覚室に呼び出せと指示をしたのは、冴木さんだ」




セイは真実を知った瞬間、意識が遠のきそうになった。




「う……そだろ。どうして冴木さんが」




セイは素直に受け入れられない。

家族と同様、絶大な信頼を寄せている冴木が、まさか今回の件に携わっているとは。




「原因はお前だろ? これ以上トラブルを起こさないように、冴木さんは紗南に直談判しに行ったんだろ」


「冴木さんが紗南に直談判を? それで、あいつは俺に別れたいだなんて。……なぁ、冴木さんが紗南に会いに行った日っていつ頃だよ」



「そんなの知ったこっちゃねーよ」




ジュンは一方的に問い続けられて気分が害されると、襟元を掴んでいる手を振り払った。


心の天気は曇りのち雷雨。

怒りと悲しみの狭間で心が錯乱している。

しかし、視聴覚室の一件が冴木の仕業だと知ると、紗南の気持ち1つで別れ話に発展した訳じゃないと思い始めた。


それと同時に、校門を出たばかりの今なら全てが間に合うんじゃないかと。


前髪がふと風に靡くと、まるでスタートを意味するかのように気持ちが揺れ動いた。




「俺、あいつんトコ行かなきゃ」


「セイっ!」




浴びていた向かい風が追い風に逆転した瞬間、紗南が流していた涙の理由に届いたような気がした。


ーー今ならまだ間に合う。

そう思った瞬間、俺はカバンを捨てていま出たばかりの校門を潜り抜けて校舎へ引き返した。

これが、昼の記者会見に差し掛かる時間だったら手遅れだった。



さっきは紗南の話を鵜呑みにしていた。

それは本音だと思い込んでいたから。

でも、もし別れたいというのが本望じゃなければ。

裏で感情コントロールされていたとしたら。

涙の奥に隠された本音を今すぐ聞きたくなった。


本来なら冴木が待つ駐車場へ向かう予定だが事態は急転。

ジュンは焦ってセイの後を追った。


下駄箱に到着すると、セイは土足で校舎に上がってジュンも相次ぐ。




「セイ、今から何するつもりだよ」


「決まってんだろ。今すぐあいつんトコ行って話し合うんだよ。まだ本音を聞いてない。こんなうやむやした気持ちのままアメリカになんて行けねぇから」


「やめろ。彼女はお前の将来を思って決断ししたんだ。今更会いに行っても迷惑がかかるだけだろ」




と言って、ジュンはセイの腕を掴んで高くかざした。

だが、振り返った時のセイの顔は、知り合ってから5年経った今でも見た事もないほど寂しそうな表情をしている。

歯止めが利かないセイは、苛立たせた気持ちを吐き散らしながら手を振り払った。




「……っざけんな! お前もお前だ。俺が紗南をどれだけ大切に思ってるのかわかってんのに、冴木さんの計画に加担してんじゃねぇよ」


「少し冷静になれ。冴木さんはお前の将来に賭けてるんだ。気持ちをわかってやれよ」



「だからって、第三者を巻き込むのは間違ってるだろ。俺の未来を決めるのは冴木さんじゃない」


「セイっ!」




セイは別人のような荒口調になり、ジュンに不機嫌な背中を向けた。

ジュンは冴木とセイの想いに両挟みされて、収集がつかない事態に頭を抱える。


先ほど職員室で最後の挨拶を終えたばかりの2人だが、再び職員室に足を踏み入れると、この時間に担当を受け持っていない教職員達の目が止まった。

だが、芸能科の生徒という事もあって監視の目を強めていない。



一方、セイの暴走を止めるのは自分しかいないと思っているジュンは、教職員に不自然な様子を気づかれぬようにそそくさとセイの後ろを歩いた。

2人の足が職員室から離れた瞬間、ジュンはスイッチを切り替えたように説得に回った。




「考え直せよ。普通科の生徒はお前がここに通っている事を知らない。お前が芸能科の生徒とバレるだけで騒ぎになるぞ」


「そんなの知ったこっちゃない」



「しかも、今は3時間目の授業中だろ? お前が東校舎で何かをしでかしたら校内がパニックになる」




セイはしつこく追い回すジュンを厄介に思い、眉を尖らせて振り返った。




「いま会いに行かないともう二度と会えなくなるのに? あいつにフラれて何もかも失いそうになってんのに、このまま黙ってアメリカに行けるかよ」


「気持ちはわかるけど、今彼女の元に向かったら迷惑がかかるだろ」



「迷惑かける以前に、一生を左右するほどの大切な話をしなきゃいけない時だってあるだろ」




セイは焦っていた。

無理をしてでも会いに行かないと、もう二度と会えなくなってしまうと思ったから。


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