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プラトニック ラブ  作者: 伊咲 汐恩
第六章
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崩壊寸前の理性



「ダメ……。私との思い出なんて価値がない」


「そんなの、誰が決めた」



「それに、私には私の将来があって、セイくんにはセイくんの将来があるんだよ」


「誰が別々の将来を歩めと決めたんだ」




何を言っても彼は根気よく粘り続ける。

だから、私の理性は崩壊寸前だ。




「ダメだよ……、さよなら」




紗南は力づくでセイの腕を振りほどくと、扉の方に足を向けた。

すると、セイは再び紗南の手を引き寄せて正面からガバッと抱きしめた。


視聴覚室の窓から降り注いだ朝日は、2人の影を再び1つに重ね合わせた。


彼の温もり。

彼の香り。

そして、彼の腕の力強さ。


頭のてっぺんから足のつま先まで身体いっぱいに彼の全てを感じたら、幸せとは何かと気付いてしまった。

腕の中に収まっているこの瞬間は、温かくて心地良くて、びっくりするくらい幸せで。


このまま何もかも捨てて。

ずっと……、ずっとずっと繋がり合っていたい。



でも、身体中の全神経にビリビリと電流が流れているかのように、セイくんを好きだと叫んでいるのに、この想いは封印しなければならない。




「俺、人がこんなに愛しいって思ったのは生まれて初めて。例え別れるように仕向けられたとしても、お前の気持ちが向いてる限りは諦めたくない。絶対に夢を叶えようって思ったのは、大雪の日に別れたお前に成功した姿を見せたかったから」


「……っ」



「だから、これからもずっと傍に居て欲しい」




セイは紗南の髪に頬を埋めて耳元で小さく呟く。

力を失って垂れ下がった両手は、気持ちに応えたいが為にセイの腰に回したくなっていたが、ギュッと握り拳を作って堪えた。




「ダメだよ。私が傍に居たらセイくんは大事なものを犠牲にしちゃう」




こんな可愛げのない言い方しか出来ないけど、本当は『私も愛おしいよ』って伝えたかった。




「紗南……」




セイはもう一度思い返して欲しいように願う。




「セイくんはこの世にたった1人しかいないんだよ。セイくんの活躍はファンのみならず、事務所のスタッフや先輩後輩、そしてスポンサーやレコード会社の人など多くの人が応援してる。それを、何の取り柄もない私が夢を壊す事なんて出来ない」


「俺が芸能人だからって線引きしないで。それに、これからは仕事も恋も両立出来るように頑張っていくから」



「でも、私が傍に居たら余計な事を考えちゃう」


「お前の事を考える時間も俺には大切な時間だから」



「セイくん!」


「本気なんだ。再会を待ち望んでくれていたお前と同じで、俺も長い年月をかけて待ち続けた。……だから、もうこれ以上無駄な時間なんて要らない」




と、言ってセイは恋する眼差しを向けた。

ガンガンぶつけてくる感情は、まるでカンカン照りの日差しを浴びるように紗南の心に浸透していく。


しかし、タイムリミットは刻一刻と迫る。

時間を共にしている間に決断を下さなければならない。




「私達、一緒になれない運命なんだよ」




紗南の頬には土砂降りのような涙。

セイの身体を両手でドンっと突き放すと、セイの頬には1本の涙のスジが描かれていた。


彼の涙を見た瞬間、私の心は死んだ。

もう、ゴメンでは済まされない。

偽感情を叩きつけた自分が憎くて仕方ない。


でも、これでいいんだ。

これが正解なんだ……。



紗南はセイを失う恐怖で震えが止まらず一歩一歩ゆっくり後退。

そして、手が届かない間隔まで到達すると、背中を向けて扉の方へ走り出した。



ダメだ。

ここで諦めたら俺は一生後悔する。

ただひたすら大雪の日を待ち望んでいただけの、昔の自分に戻りたくない。


諦めきれない気持ちは再び伸ばした右手に託された。


紗南の方へ、真っ直ぐ真っ直ぐ……。



ところが、零れ落ちた紗南の涙が偶然にもセイの手の甲に滴った瞬間。

まるで自分達の関係はここまでと断ち切られてしまったかのようにピクリとも足が動かなくなった。


次第に距離が広がっていき、紗南はそのまま視聴覚室から飛び出して行った。


もし、セイの足が再び動いたとしても、紗南を追いかけたその先には普通科と芸能科の境界線というものが存在しているから、事実上追いかける事は不可能だった。



視聴覚室に1人取り残されたセイは、ふらふらと足をもつれさせて中央の後部座席に腰を下ろした。

そして、もどかしい気持ちを放出させるかのように両拳をドンっと机に叩きつける。




「こんなに好きなのにどうして気持ちが伝わってくれないんだ。くっそおぉ……っ」




キーン コーン カーン コーン


セイはぐしゃぐしゃと頭を掻きむしっていると、まるで2人の関係を遮断させるかのようにHRの開始時刻を知らせるチャイムが鳴った。


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