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プラトニック ラブ  作者: 風音
第一章
3/60

超人気歌手の彼




私、 福嶋 紗南(ふくしま さな)は超人気歌手『KGK』のメンバー セイくんと、およそ2週間前から極秘交際を始めたばかり。

人が羨むほどの彼氏をゲットして、同校の保健室で密会を続けてる。


彼の本名は、皆川 一星(みながわ いっせい)

ちなみにニックネームのセイは、本名の一星から一文字を使ったとか。



見た目は茶髪で流行りのマッシュスタイル。

クリッとした二重の左目の下の涙袋には泣きぼくろが2つ。

身長は180センチ近くのスリム体型。

セクシーな歌声はストレートに心臓を撃ち抜くほど印象的だ。



彼は、私が小学1年生の時から通っていた声楽教室の仲間であり幼馴染でもあった。

私は小学5年生の冬に家庭の事情で先に声楽教室を辞めた。

彼はその後も教室に通い続けて、長年抱いていた夢を叶えて歌手として成功を収めていた。



お互いの連絡が途絶えて空白だった約6年間。

名残惜しさで歌から離れる事は出来ずに口ずさむ程度に歌っていたけど、医師を目指して勉強に没頭してきたせいか、ここ数年は芸能関係にはすっかり疎くなっていた。

だから彼が歌手デビューしていた事を知らなかった。


しかし、テレビから繰り返し曲が流れていたり、街中でポスターを目にした事もあって何となく存在を知っていた。



ーーでも、つい数ヶ月前。

高校の保健室のベッドで横になっていた時にカーテン越しに話しかけていた顔も名前も知らない人が皆川くんだったなんて思いもしなかった。

6年という目覚ましい成長期を乗り越えてきたから、声変わり後の声を聞いただけじゃ分からなかった。


街中でポスターを見た時は何となく皆川くんに似てるなぁ〜と思う程度。

声変わりをしていたし、2センチしか変わらなかった身長もグッと差が開いて大きくなっていて顔つきもだいぶ大人びていた。


しかも、彼の口から私が昔から会いたがっていた幼馴染に『もう会えたよ』と言って、自分が皆川くん本人だとカミングアウトした時は正直ビックリした。



私が歌を辞める事になった小学5年生の声楽教室の最終日、別れの言葉を伝えると彼は瞳を潤ませながら再会の約束を口にした。




『足首が浸かるくらい大雪が降ったら、俺達はまた会おう』




小さく『うん』と伝えた返事は咽び泣く声に紛れ込んだ。



ーーでもあれから数年間、足首が浸かるほどの大雪は一度も降らなかったし、再会場所を決めてなかったから、彼にはもう二度と会えないんじゃないかと諦めていたけど……。

約6年後、高校の保健室のベッドで知らぬうちにカーテン越しの再会を果たしていた。


彼は窓際のベッドがいつも特等席だった。

カーテンは毎回閉ざしたまま。

カーテン越しから疲れたような声が届くような状態が続いていた。


再会を願っていたはずの2人がこんなに近くにいたのに、最初はお互いの存在に気付かなかった。


ベッドを囲むカーテンで仕切られた空間と、保健室利用記録表とベッドのサイドに置かれている上履きに名前の代わりに書かれていた★マークというトップシークレットな個人情報がすぐに気付かない要因だった。



最初は保健室に男子と2人きりという状況が気まずくて、積極的にカーテン越しにコミュニケーションを図った。

すると、彼の喉の調子が悪い事がキッカケで小学生の頃から常に持ち歩いている星型の飴を手渡すと、彼は星型の飴に(まつ)わる話に興味を湧かせた。


歌が上手く歌えなくて落ち込んでいた自分に一星という名の1文字を取った星型の飴をくれた皆川くんの話。

声楽教室に通っていた思い出話。

声楽教室の先生が作詞作曲した歌など、幼馴染との思い出を全て語った。



ところが、彼は先に私の話と自分の思い出が一致していた気付いて、隣のベッドの人物が幼馴染の私と判明していたけど、自分が本人だとカミングアウトしなかった。

その理由は、昔交わした約束を大切にしていたから。


そして、降るか降らないかもわからない大雪の日をいつでも迎えられるように、秋から年明けまでの仕事を調整して再会の日を心待ちにしてくれていた。

一方、そんな想いなど知る由もない私は、いつしか彼の声に惹かれていて会えない時間に思いを募らせながら暗く沈んだ時を過ごしていた。



しかし、街に大雪が降ったある日。

朝から熱っぽくて保健室に向かうと、久しぶり窓際のカーテンが閉まっていた。

そこでベッドには彼がいる事が判明する。


彼は私がベッドに横になった事を知ると、出会った当初に話した皆川くんとの思い出話を引っ張り出してきた。


正直いい気がしなかった。

今はセイくんに心惹かれていたから、想いが引き剥がされていくような気がしてならなかった。




『もう10センチ近くも雪が積もっているから、今日はひょっとしたらあんたが会いたい人に会えるんじゃない?』




いま私が会いたいのは大雪の日に再会の約束をしていた皆川くんではなくて、カーテン越しに久々の再会をしたセイくん。

彼は私が想いを寄せている事なども知らずに話を進めた。


だから、皆川くんとの再会に期待を持たせるような言葉が少しばかし窮屈に思えた。




『どうかな。あれからもう6年も経ってるし、あの時に彼と待ち合わせ場所とか細かい事を決めなかったから、多分会えないよ』




可愛げのない返事を届けると、彼は急に咳き込んでいつもの星型の飴が欲しいとねだった。

私はカーテンの下から手を伸ばす彼に飴を手渡すと、彼は飴ではなくて私の手を包み込むように握りしめて。




『もう会えたよ』




ーーこうして、彼は自分が皆川くん本人だとカミングアウトした。

そして、私達は6年越しの想いが繋がって恋人に。



超人気歌手の彼氏を持てて自慢かって?


……ううん、そうは思わない。

彼はファンの宝物。

だから、恋人でいても独占出来ないと思ってる。


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