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プラトニック ラブ  作者: 伊咲 汐恩
第三章
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決心した留学




ーーセイが留学を固く決心した日の夕方。

CM撮影の為、学校からタクシーに乗って撮影スタジオに向かっていたセイは、前方の助手席に座る冴木に言った。




「冴木さん」


「……ん、何?」




冴木は後部座席のセイへ振り返る。




「先日は急に留学が決まってビックリしてしまってまともな返事は出来なかったけど。……俺、アメリカに行きたい」


「セイ」



「語学、ダンス、時間があったらピアノを再び学びたい」




紗南のお陰で不安要素が取り除かれると、冴木に前向きな姿勢を向けた。




「その返事を待ってたわ。私も今のタイミングで留学した方がいいと思う」


「お願いします」



「でもね。実はその件について1つ伝えなきゃいけない事があるの」


「伝えなきゃいけない事って?」



「先に隣で音楽を聴きながら寝ているジュンを起こしてくれない?」


「あぁ、はい。………ジュン、起きろ。冴木さんから重大な話があるって」




セイは隣に座るジュンの身体を揺さぶり声をかけた。




「んー……、っあ? ああぁ。………留学? そっか。俺、留学するんだっけ」




寝ぼけ眼のジュンは右手で目をゴシゴシとこすりながら朦朧(もうろう)とした意識を回復させていく。




「ジュン、眠っていたところごめんなさい。実は留学に纏わる大事な話をしようと思っていたところだったの」


「……何? 大事な話って」



「うん。出発日は1ヶ月後を予定していたんだけど、先方の都合で少し日程が早まってね」


「いつ?」



「2週間後よ」




2人は先に出発は1ヶ月後と聞いていただけに動揺の色が隠せない。




「2週間って……、あっという間じゃん。俺ら修了式すら迎えられないって事?」


「そうなの。書類上の契約期間は2年なんだけど、先方は日程をずらす事が出来ないから、この条件じゃないと契約出来ないって言うのよ」


「嘘だろ……」




セイは国内に留まる残り時間は1ヶ月でも短いと思っていたのに、紗南との別れが早まった事を知りショックを受けた。


しかし、頭の中の計算が狂い始めたその瞬間、隣からフワリと漂う風がセイの髪を揺らした。




「お願いします」




先に頭を下げたのはジュン。

シートベルトで首が締まりそうなほど、深く頭を下げている。


ジュンは本気だ。

自分と同じく負けず嫌いで、今日まで歌にダンスとプライド高く仕事をこなしてきた。

だから、人気絶頂期と言われている今ですら現状に納得していない。



ーーそう。

留学は1人だけの問題ではない。

2人で活動している限り、片側の都合だけを飲む訳にはいかない。

ジュンとは同じ夢を見ている者同士であり、酸いも甘いも噛み分けてきた仲。



マイケル・リーに尊敬の念を抱いてるジュン。

彼が自分達のダンス講師になってくれるなど贅沢すぎて夢のまた夢の話。



『俺ら2人で音楽業界の頂点まで目指そうぜ』と固く誓った、今でも忘れる事の出来ないデビュー当日。


歌手としてがむしゃらに歌って踊り続けてきた3年間。

ジュンとは二人三脚で喜びも悲しみも分かち合ってきた仲。

肩を撫で合い続けてきたお互いしか分かり合えない価値感がそこに存在している。




「……お願いします」




総合的に考えてプラス方向に気持ちが動くと、セイはジュンと同じ位置まで頭を下げた。

2人の強い意志は真っ直ぐに冴木へと届けられる。




「わかったわ。すぐ事務手続きに入るわね」


「はい」




冴木はぐるりと体勢を前方に戻すとスマホで事務所に報告メールを打ち始めた。


しかし、セイがCMの絵コンテに目を通してジュンがポケットからスマホを出して操作し始めたその時、冴木は背中を向けたまま話を続けた。




「今日から少しずつ荷造りを始めてね。……それと、最低限の身辺整理はしておきなさい。今回の留学は貴方達の歌手生命がかかっているから」




冴木はセイに向けて遠回しに紗南と縁を切れという意味で伝えた。

だが、意図が掴めないセイは首を傾げて、直感が働いたジュンはそれがセイだけに向けた話だと気付いた。


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