07 【カサブランカ】を取り仕切るカラーとエドガー夫妻。
お越しくださり有難うございます。
本日二回目の更新です。
二話ずつとなります。
ブルーローズが木の曜日から日の曜日まで休みでも、隣に立っているカサブランカは休みになる事は無い。
一般向けの道具から冒険者用の道具や薬、を販売している一階は、24時間開いているのだ。
冒険者達に休みは無いのと同じで、道具屋にだって休みは無い。
従業員は代わる代わる交代して仮眠しながら対応する。
夜の時間は地下のお店もお休み。
地下の店の店主であるカラーは夫の俺より先に帰宅し、今日集めた情報を整理していた。
カラーは元々冒険者だったのだが、追放され、行き場所を失ったところでシャルルと俺に助けられた。
ストレリチアでは少数民族が使う言葉を必要な連絡手段としており、ストレリチアの者たちはまずこの言葉を徹底して教え込まれる。
その時の相手が俺だったのだが、俺も元々は冒険者であったことから意気投合し、少数民族の言葉を完全に覚えると同時に二人は結婚した。
俺達はとても愛し合っており、シャルルとプリシアに次ぐ夫婦としても有名なのだ。
なにより――。
「カラー。そろそろ休んだらどうだ?」
「そうは言っても、今日までにあらかた片付けたい問題もあるのよ」
「どういった問題が出て来ているんだ?」
寝室のベッドで妻を待っていた俺がしびれを切らして立ちあがると、机に座るカラーの元までやってきて、少数民族の文字で書かれた内容を精査した。
内容は王族に関することで、今度開かれるお茶会にあの毒婦であるカトレアが強制参加する旨が書かれていた。
これには流石の俺も眉を寄せたが、カトレアは事あるごとにプリシア様をイジメ続け、離婚を迫るのだ。
王家にもこの事は十分抗議しているのだが、幾ら陛下たちが口酸っぱく言っても毒婦は聞き入れはしない。
「確か、この毒芋毒婦が来るというのが分かっていた場合、プリシア様のお茶会の出席はキャンセルする……と言う事だったな?」
「ええ、シャルル様が大層怒ってしまって。今回もお茶会には参加できそうにないわね」
「参加しなくても良いだろう? 彼らが頼りたいのはストレリチアの恩恵と、シャルル様へのゴマすりだ。少しでもプリシア様と仲がいい振りをしてスキルの値段を安くしてもらおうと言う腹積もりなんだろう」
「プリシア様はあんなに素晴らしい女性なのに、この国の女性達はみんな頭が可笑しいのかしら?」
「マネキンだらけだからな、頭のネジはぶっ飛んでるんだろうよ」
「そもそも、怠惰病なだけでプリシア様の心はとっても清らかで優しいわ。追放されたり追い出された方々にもシッカリとした教育を為さるし、そのお陰で自分たちは今度こそ見捨てられないって安心するのよ?」
「それを知っているのはストレリチアの者だけだ。王家や毒芋にとっては俺達に価値なんか見出さないさ」
「……」
実際、この王国の皆が重要視するのはシャルルだけだと言う事を、改めて痛感する瞬間だ。
だからといって、ストレリチアを無下にする事も出来ない。
カサブランカのお陰で貴族たちは最新のドレスを楽しみ、冒険者や庶民たちは薬や道具に困らずに済んでいるのだから。
だが、両方シャルルが持っている店と言う点においては、どうしてもシャルルを優先するのは仕方のない事だった。
ストレリチアの者からすれば、それは嬉しい反面もどかしいのだ。
自分たちの頑張りのお陰で生活している王都の人間に認められたい気持ちは、やはり無いとは言えないのだから。
そこは、ちゃんとシャルルも分かっているようで、王家がなにかすればカサブランカは休業するし、ブルーローズも休業することを宣言している。
そこをちゃんと理解しているかどうかは、別となるが――。
「しかし、今回の茶会でも不参加となると……余程王家はプリシア様を蔑ろにしたいと見える。この情報は明日の朝一番にシャルル様にお伝えしよう」
「ええ、ストレリチアの女主人を馬鹿にするのもいい加減にして欲しいわ」
「毒芋からすれば、自分こそがストレリチアの女主人だと言い張りたいんだろうな」
「流石にシャルル様が許さないわよ」
「ま、少しは痛い目を見てもらう事になるさ。シャルル様は愛妻家だからな」
「そうね」
そう言ってまとめた書類の内、カトレアが茶会に乱入する事だけは真っ先に伝えるとして、次の書類に手を回したその時――。
俺はそっとカラーの伸ばした手を握った。
「仕事に慢心するのはいいが、夫の事も気にかけて欲しいな。今すぐ纏めないといけない問題があるかい?」
「……もう。甘えん坊なんだから」
「君を愛したいだけだよ」
そう言って妻にキスを送る俺もまた、木の曜日から日の曜日まで妻が仕事から帰宅すれば骨の髄まで愛し合う時間を楽しむ。
俺といい、シャルルといい……妻との時間はとっても大事にする夫であった。