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05 シャルル・エーデルワイスの木の曜日。

お越しくださり有難うございます。

本日より本格連載開始です。

何時もは一日三回更新ですが、今回は一日二話の三回更新です。

是非、応援よろしくお願いします!


「転生箱庭」のナカース王国の、隣の国の話です。

毎週恒例と言ってもいい程、木の曜日は忙しい。

木の曜日と月の曜日だけは一日中貴族を相手にする事になっており、スキルの上書きをしに貴族達が長蛇の列を作る。

スキルの上書きに関して料金は少し安めになっている為、彼等は木の曜日に一斉にやってくるのだが、何せ人数が多い為、全員は掛けられない。

その為、ブルーローズの前には夜から馬車が並び、いち早くスキルを使って貰う為に馬車の中で一夜を過ごす貴族も多いのだ。

それでも、アタシは出来るだけ多くの者たちにスキルを使い、不満無く帰って貰おうとはするけれど、貴族同士の諍いも木の曜日と月の曜日は日常茶飯事で、それで時間を喰う事も少なくなかった。



「はいはい、争いはそこまで。争うならスキルは使いませんわ、よろしくて?」



そう言って諍いを止めるのも本日何回目かは分からない。

だが、皆が必死なのだ。

理想の自分でいられなくなるのが怖いのだ。

故に必死になる。

ブルーローズに金の雨が降る中、シャルルは出来るだけ早くスキルを使い、彼ら貴族を捌いていく。

城へ行くのは店の閉店時間からだ。

時間は限られているのだから早くしたい。

家族で来ている者たちも多く、彼等にもしっかりスキルを使い理想の見た目を固定していく。

とは言っても、月の曜日には彼らの姿は運がいい者はそのままだろうが、大半の者たちはスキルが切れて生まれ持った姿に変わるのだけど――。

それでも、ひと時の夢を見ていたいのだろう。彼らは次々にスキルを使われると去って行く。

ブルーローズでは基本的には予約制は取らない。

そんな事をすれば溢れるのが目に見えているからだ。

とは言え、完全に取らないという訳ではない。

病気や怪我で失った顔や体の一部をスキルで一時でも普通に戻す為の事もしている。

また、成人を迎えた訳アリの貴族達にも予約を取らせて、出来るだけ被害を最小限にするのも大事な事だった。

その場合は、木の曜日や月の曜日ではなく、別の曜日にしている為混乱はない。

店の始業と終業の時にしかならない柱時計が音をたてると、貴族達は悲痛な叫び声をあげながらアタシに縋るが、早く来ない方が悪いのだ。



「ごめんなさいね? 今から王城へ向かう事になっているの」

「どうか、どうか!!」

「次は早めに来て下さると嬉しいわ」



縋る貴族達は従業員によって外に出され、彼等は己の恥じる生まれ持った顔を必死に隠しながら馬車に逃げ込み帰っていく。

後は、エドガーと共に必要書類と魔法扉と呼ばれるスクロールを鞄に詰めてアタシ達も馬車に乗り込み王城へと向かうだけだ。


『魔法扉』と言う魔法のスクロールはストレリチアの知識の結集でもあり、木の曜日と月の曜日にストレリチアに瞬時に移動できる為の今のところアタシ専用の魔法スクロールだ。

無論帰りも魔法スクロールで帰ることが出来るのだが、魔法スクロールを使う為には使う場所にも同じものを貼っておかねばならない。

使い切りの魔法スクロールではあるが、アタシは毎日帰りたいのを我慢して、木の曜日と月の曜日にしか使わないように心がけている。

無論使い終わった後は魔法の炎で燃えて消える為、跡が残る事はない。



「さっさと終わらせて早くプリシアに逢いたいわ」

「また呼び止められなければいいですね」

「あの毒芋ね」

「第二王女様ですよ」

「どうしても苦手なのよ……。あのタイプ、一緒にいると心が擦り切れちゃうわ。あの子にはスキルを使ってないんだから出入り禁止にしろって何度も陛下には言っているのに。余りにも前回は頭に来たから、次破ったら二度とスキルを王家には使わないって脅してあるから大丈夫とは思うけれど」

「カトレア様は人の話を一切聞きませんからね」

「次期女王のガーデニア様はあんなにも人として出来ているのにね」



オリガーテ王家には二人の姫がいる。

次期女王のガーデニア姫殿下。

そして王家でも問題児扱いされている第二王女のカトレア。

ガーデニアが光であれば、カトレアは闇とまで言われている始末だ。

巷では『光の姫殿下』『闇の第二王女』と呼ばれている程に、二人は相反する性格をしていた。

王女二人はスキルを使ってはおらず、己の生まれ持った姿こそが唯一と定めているのだが、毎回依頼を頼むのは国王陛下と王妃に側妃であった。

少しでも堂々と見えるようにしたい。

少しでも若く美しくありたい。

その想いがとても強いのだ。

アタシは溜息を吐くと城門に馬車が到着するとそのまま進み、城の中へと入っていく。

謁見の間でに入れば側妃達がまず出迎え、一人一人が前もって頼んでいた書類を手にスキルを使い、スキルを使われた側妃たちは揃って出て行く。

最後に堂々と椅子に座る陛下が立ち上がると王妃も立ち上がりアタシの許へと歩み寄った。



「シャルルよ、何時もすまないな」

「すまないと思うなら呼び立てて欲しくはないのだけれど、何時も通りで宜しいのかしら」

「わたくしもいつも通りにお願いします」

「分かりましたわ」



そう言うアタシは一国の陛下相手だろうと言葉を崩さない。

無論陛下もそれを罰することはない。

アタシを不敬罪で罰することになれば、自分の老いた姿を認めることになるからだ。

何時も通りの『お願い』通りにスキルを使い、陛下と王妃には若さを保つためのスキルを使った。

姿を変えたいと言う願いは国王夫妻には使えないのだ。

国の象徴である国王夫妻の見た目がコロコロ変わっていたら大問題よね。

何時もアタシが二人にスキルを使うたびに思う事だ。


アタシのスキルは見た目も細さも太さも自由自在だ。

貴族の中には少数だが暴飲暴食を繰り返し、スキルが切れると服が入らないと言う貴族も多い。

その為、そういう貴族達はアタシの店に来る時はゆったりとした大きな服を着てやってくる。

あんなに『怠惰病』を忌み嫌う癖に、自分たちが肥えてもスキルで何とかなると思っているのだから高い値段を毟り取るのも仕方ないだろう。

その点国王夫妻に関してはスタイル維持を頑張っているようで、体型が変わる事は余りない。



「いつも通り出来ましたわ。それではアタシはそろそろ帰って大丈夫よね?」

「う、うむ」

「言っておくけど、第二王女と会わせようなんて思っているのなら次回からは――」

「無論そんな事はしないさ! だがカトレアも悪い娘ではない」

「あら? アタシの大事な妻を蔑ろにするような女は屑よ。どんな女でもね」

「だが、カトレアは、」

「アタシの唯一は妻のプリシアだけなの。他の女はその辺の野菜と変わらないわ。特にカトレアは毒のある野菜ね。毒芋よ、毒芋。一緒にいるだけで食中毒になっちゃうわ」

「なにもそこまで言わずとも」

「言わないと分からないあなた達も随分と頭が弱いのね」



あけすけにズバズバと言うのもアタシだからこそ許される事だろう。

一貫してカトレアの事を嫌っていると言うのを伝えているのだが、国王夫妻は中々認めようとはしない。

いや、認めたくないと言うのが現状だろう。

カトレアも既に成人を過ぎ結婚していても可笑しくない年齢なのだが、嫁ぎ先が決まらないのだ。

ましてや、王女を第二夫人に貰うわけにも無論いかない。

身分の高い貴族男子はカトレアだけは嫌だと直ぐに婚約してしまい、頼りのアタシも既婚者だ。

カトレアの嫁ぎ先が見つからず、国王夫妻も頭を抱えているのが現状なのである。

だがもっと問題なのは――第一王女であるガーデニアにすら婚約者がいない事だ。


ガーデニアこそ、尤もな被害者である。


妹の悪評が余りにも高い為、婚約することが出来ない、結婚も出来ないと言う有様なのだ。

急ぎカトレアを嫁がせたいが嫁ぎ先もない為、それならばと国王夫妻はシャルルに第二夫人でもいいから貰ってくれないかと打診をしていたのだが、アタシは妻一筋。交渉は難航している。



「アタシ、無駄な時間って大っ嫌いなの? 知ってるでしょう? 急いでストレリチアに帰って妻とイチャイチャしたいのよ。何時も一緒にいられないのだからこそ燃え上がりたいの。何で分からないのかしら?」

「そうか……すまないな、引き留めてしまって」

「言っておくけど、今後も毒芋と一緒になる未来なんてないわよ」



それだけ言うとアタシはエドガーと共に代金を貰うと歩き出した。

今日は侯爵家でのお茶会だと聞いていたのでカトレアと会わずに済んだが、何時も出待ちしているのがカトレアだ。

一刻も妻に会いたいアタシにとって、邪魔者以外の何物でもなかった。

馬車に乗り込むとアタシは直ぐに鞄から魔法扉の魔法スクロールを取り出し、エドガーに良い笑顔で幾つか指示を出してから手を振るとスクロールを発動させて消えていった――。


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