04 プロローグ④
一気にプロローグだけアップしました!
シャルルは博愛主義と言う訳ではない。
理不尽に尊厳を奪い取られた人間を助けることはあっても、誰でも助けるという訳ではないのだ。
(どうやら今回の奴隷市場はハズレね)
助けなくては、と思うような奴隷に堕とされたものがいなかったのだ。
借金や恐喝罪で売られたものは多いが、その中でも目を引くような人間は居なかったのは不幸中の幸いともいえるのだが。
奴隷市場が終わるや否や、シャルルとエドガーは馬車に乗り込み家路へと急ぐ。
非公式な奴隷市場が故に掘り出し物があるかと思ったが、そうではなかった。
シャルルが探しているのは【怠惰病】に苦しむ人であり、親に売られるような貴族令嬢と言った本当の『訳アリ』の人間だ。
そう言った人間を集めて出来たのが――【ストレリチア】である。
悪役令嬢だと追放されそうになった令嬢から冒険者に裏切られて追放されたもの、仲間に見捨てられた冒険者や荷物持ち。
時に追放された錬金術師等といった『訳アリ』者たちを保護し、彼等に住処を与え仕事を与え、ストレリチアは王国以上に発展した。
追放された者たちが集まった場所がストレリチアなのだが、彼等はストレリチアから出て行くことはない。
出て行きたいのなら止めはしないが、一度追放されたものが再度仕事を探すにしても隣国に行かねばならず、かといって隣国で直ぐに仕事が決まるかと言えばそうではない。
人生は物語のように優しくはない事を彼らは身をもって知っている。
「今回収穫が無かったのは、不幸中の幸い……と言ったところかしら?」
「そうですね、今回はめぼしい人物は一人もいませんでした」
「じゃあ屋敷に戻ったらゆっくり湯あみしてサッサと寝ましょう。人間何事も週四働いて残り三日は愛しい者と過ごさないと心の潤いすらなくなってしまうもの」
「では明日まで頑張って働いていただき、その後三日は何時も通りに」
「ええ、ストレリチアにいる、愛する妻と一緒に過ごすわ」
「シャルル様は愛妻家ですからね」
「あら? エドガーだって愛妻家じゃないの。カラーは何時も幸せそうだわ」
「恐縮です」
「カラーが仕入れた闇の奴隷市場だったけれど、情報の正確性は確かよね。あなたの奥さん、やっぱり凄いわ」
「凄いのは、若干25歳にしてこれ程までの店とストレリチアと言う領を持っているシャルル様かと思いますが?」
「やろうと思えば誰だって出来るわ。ただ、頭は使うけれど」
「誰でも出来ませんよ。あなたのスキルがあるからこその部分はとても重い」
「あら? 私はこう考えるわ? 人間は欲には忠実なのよねって」
自分の使えるスキルを考えながらシャルルは小さく溜息を吐いた。
誰もが美しくなりたい理想の自分と言うのは存在する。
その為にスキルを使う。
己のスキルを面倒くさく思う事もあるが、それ故に王家も自分には手を出せない事も十分にわかっている。
「そう言えば、明日は人の出入りが多そうね。明後日にはストレリチアに行くから毎週木の曜日はとても人が多いわ。それに月の曜日もね」
「そうですね……明日は城に赴き、陛下たちにもスキルを使わねばなりませんし」
「面倒だわ~……毎週木の曜日と月の曜日が憂鬱。でもプリシアに逢う為だもの、仕方ないわね」
「週に三日もプリシア様を独占できるのですから良いではありませんか」
「足りないわよ。愛しい妻よ? プリシアと一緒にいると人間の汚い部分なんか忘れて彼女に溺れたくなるの……。彼女は清らかだわ。大体怠惰病が何だって言うのよ、それも立派な個性じゃない」
「そう言えるのは、シャルル様の従業員とストレリチアに住む者たちだけですよ」
そんな話題で盛り上がりつつも馬車はブルーローズ近くに構えたタウンハウスに到着し、エドガーの妻であるカラーとメイド達が出迎えてくれた。
カラーも仕事が終わり夫であるエドガーを待っていたようだ。
「あらあら? そちらも随分と愛されているわねエドガー?」
そう言って嬉しそうに自室へと戻っていくシャルルに、エドガーは苦笑いし、カラーも笑って見送った。
木の曜日は魔法の重ね掛けを頼む者たち、そして陛下や妃に魔法を掛けるのが日常的だ。
だが城には面倒くさい者もいる。
シャルルは風呂に入りながら深い溜息を吐き、あのキンキンとした声をまた聴くことになるのかと思うと、それだけで心がすり減りそうだった。
「私の妻は一人だというのに……いい加減邪魔なのよね、あの男の性欲で生きるような悪魔」
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明日から本格始動ですが、プロローグだけ最初にアップしました。
こんな話になるよ~と言う感じです!
「転生箱庭」のおおもとになった話なので、商売は商売ですが
今回の商売はちょっと普通ではない感じにしてます。
是非、応援よろしくお願いします!