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03 プロローグ③

プロローグだけ本日はアップします。

【怠惰病】

この世界では治療法のない病であり、息を吸うだけでも身体が膨張し太って見える病だ。

オリガーテ王国においても『太って見える姿は卑しい姿であり怠惰の証である』されており、怠惰病を患う人間に人権を与えることは無い。

だが、幸いにしてプリシアは亡き母の祖父母であるデルダルト伯爵に引き取られたことにより、デビュタレントこそ出来なかったものの、オリガーテ王国でいう成人とされる当時15歳の時に『ブルーローズ』に他の客と会わぬように予約を入れてやってきた。


しかし、シャルルの力を持ってしてもプリシアの患う【怠惰病】を癒すことは出来なかったのだ。

絶望するデルダルト伯爵と、まさか治すことが出来ないとは思っていなかったシャルルはショックを受けた。

しかし――患者であるプリシアは違った。

プリシアはシャルルに深々と頭を下げた後、祖父母であるデルダルト伯爵に慈愛の満ちた表情でこう告げたのだ。



「お爺様、お婆様。わたくしは果報者です。ここまで手を尽くしてくださったことは死んでも忘れません。ですが、どうかわたくしの最後の願いを聞き届けて頂きたいのです。どうか、どうか……わたくしを修道院へ入れてくださいませ」



深々と頭を下げて今まで育ててきてくれた祖父母に願うには、余りにも酷な願いであった。



「お家の恥であるわたくしは、神に仕え祈りを捧げる事しか出来ないのでしょう。今まで育ててきてくださった恩をこの様な形で返してしまう私を呪って下さっても構いません。ですがもう……わたくしに出来ることはそれ以外ないのです……」



美しいオレンジのウェーブの掛かった髪、誰が見ても醜いと言いうふくよかな体。そして新緑を思わせる一重の瞳から零れ落ちる賢者の雫のような穢れなき涙。

―――彼女のすべてにシャルルは全身全霊で初恋をした。

気が付けばシャルルはプリシアの両手をデルダルト伯爵の許可もなしに握りしめていた。

無論、流れる涙をそのままに目に映る絶世の美男であるシャルルを見つめるプリシアには、何が起きているのか理解出来る筈もない。

だが、シャルルはデルダルト伯爵に向かい、深々と貴族の礼を行うと口を開いた。



「デルダルト伯爵は、アタシが平民であろうとも、この心美しきプリシア嬢を妻にする事を

許して頂けるでしょうか!」



この言葉は、デルダルト伯爵にとってもプリシアにとっても青天の霹靂であっただろう。

息を呑み、目を見開く気配を無視して、プリシアの保護者であるデルダルト伯爵にシャルルは更に詰め寄った。



「アタシは今まで沢山の人間の闇を見て参りました。ですが……プリシア嬢程に美しい心根を持つ女性は見たことがご居ません!! アタシは彼女に生まれて初めての恋をしたのです!!」



思わぬ言葉だったのだろう。

プリシアは顔を真っ赤にして狼狽え、デルダルト伯爵は突然の言葉に驚いた表情を隠すことはしない。



「そして」

「!」

「もし、アタシとプリシア嬢の婚約、そして結婚を許して頂けるのなら……プリシア嬢には苦しい思いをさせますが、一つだけお願いしたいことが御座います。無論、プリシア嬢が私を夫としたくないのなら……残念な話ではありますが……」



【怠惰病】を患う物を家族に迎え入れる家などありはしない。

それを理解した上で、シャルルは全身全霊でデルダルト伯爵に向き合い、そして不治の病を抱えたプリシアに向き合ったのである。




「して、プリシアに求めるものとは?」



ブルーローズの店内が冷え切る程の言葉に、シャルルは負けることは無かった。



「プリシア嬢は現在15歳とお聞きしております。これより5年。プリシア嬢が20歳になるまでにアタシが治める【ストレリチア】に相応しい、【ストレリチアの女主人】になるべく教育をして頂きたく思います」



シャルルの言葉にデルダルト伯爵の奥方――プリシアの祖母は息を呑んだ。

この頃既にストレリチアは色々な方面で有名であり、その女主人になるように教育して欲しいと言われれば――デルダルト伯爵夫人が驚くのも無理はなかった。

オリガーテ王国と同等の力を持つストレリチア。

その女主人もなれば、デルダルト伯爵に齎す名誉や名声、更に【怠惰病】への偏見がどれほど世間的に変わるかなど想像がつかない。


そもそも、シャルル・エーデルワイスは国王すら黙らせることが出来るだけの立場なのだ。

そのシャルルが、怠惰病を患う孫娘を是非に妻にしたいと言えば……。



「シャ……シャルル様!!わたくしは怠惰病です!見目も他の令嬢の様に麗しくなく、貴方様の隣に立つには」

「プリシア嬢こそがアタシの隣に立つに相応しい女性です!!」

「ですが!」

「アタシの想いが信じられないのであれば、信じてもらうまで貴方に恋文を送りましょう。貴方がご自分に自信がないのであれば、それを覆す程の愛を告げましょう! 卑しい庶民の分際でも貴方に告げます! あなたの心の清らかさは余りにも美しい!! アタシの初恋なのです!」



ここまで熱烈に告白されて心が揺るがぬ女性などいる筈がない。

プリシアは真っ赤な顔をそのままに、自分の保護者であるデルダルト伯爵に目をやった。

暫く無言だったデルダルト伯爵だったが、小さく息を吐くと婚約を許可してくれた。



それからの日々は、一カ月に一度だけプリシアと会い、愛を育んだ。

プリシアは必死に祖母に喰らいつき、女主人となる為の徹底的な教育を受け続け――見事20歳になったプリシアは、堂々たる女主人に相応しい振る舞いや知識、知恵を持ってシャルルの許へと嫁いだのだ。


余りにも衝撃的なこのニュースは王国内に広がった。

あのシャルル・エーデルワイスが『怠惰病』の妻を貰い、その妻が今後『ストレリチアの女主人』となるのだから、国民はシャルルが狂ったのではないかと噂したのだ。

しかし、シャルルはそんな噂など気にも留めず、言われれば笑い飛ばし、愛するプリシアの惚気をいいまくる程に愛していた。


己の力がどれ程影響力を持っているのかも、そしてプリシアへの悪意も踏みつぶせる程の力を持っていることも、シャルルは理解していたのだ。

そして、情報は何よりも武器になり盾になると。


シャルルは結婚後、愛する妻の為にあらゆる情報網を作り上げ、今の状態を作り上げたのだ。

誰も『ストレリチアの女主人』を馬鹿にすることも、シャルルの妻の座を得るためにプリシアを暗殺することも無いように魔法の契約書も作り直したのは数年前――。




「嗚呼、アタシの愛するプリシアは、今日も素敵な一日を過ごせたかしら?」

『ええ、お陰様で今日も平和で素敵な一日でしたわ。新しいアイテム作成も皆さんが頑張っていらっしゃるから、近々発表が出来そうね』

「あら、今度はどんなモノなのかしら?」

『ふふふ、それは今度会った時のお楽しみですわよ?』

「あぁ……早く会いたいわプリシア」



仕事終わりに通信魔道具を使い、離れた場所にいるプリシアに愛を囁くのもシャルルの大事な日課。

あの綺麗な涙を、そして潔く自分を見る目も――全てがシャルルの理想だったのだから。



「そうそう、関所に新たな人が逃げてくる可能性があるの。そちらで対応できるかしら?」

『まぁ……そちらはお任せくださいませ。わたくしが何とかしてみますわ』

「ありがとう。それと今から奴隷市場に行ってくるわ。怠惰病の子がでていたら即保護をするし、別の問題で出されている令嬢が令息が居たらまたそちらもお願いね」

『ええ、何時も通りに』

「そう、何時も通りに」



その後幾つか話した後、シャルルは通信魔道具を置き、コートを羽織った。

奴隷市場には仮面をつけて参加するのが習わしのようなので、今回も仮面をつけてエドガーと向かう。


(嗚呼……この国はとってもとっても闇が深いわ。月のない夜のように)


そんな事を思いながら馬車に揺られ奴隷市場へと到着すると、シャルルはエドガーを伴い奴隷市場へと入っていったのである。



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