21 ブルーローズの悩めるお客様達。
お越しくださり有難うございます。
本日二回目の更新です。
月の曜日、この日はアリナシアの初めての仕事の日でもあった。
貴族相手が多い為、基本的にエドガーの指示に従って仕事を覚えてもらいつつ、ブルーローズに馴染んでもらうようにシフトを組んだのだけれど……。
最初のお客さんで、既にグロッキーになっていた。
それは仕方ないことかも知れないわね……だって――。
「ぼぼぼぼ……僕でも女の子になれますか!?」
「性別を弄る様なスキルではないのよ。偶にいらっしゃるけれど、性別まではアタシのスキルでは弄れないわ」
「では、おっぱいだけでも豊満な感じに」
「お客様? 当店ではお断りさせて頂きすわ」
「そんなぁ……」
理想の自分と言うのは、何も同じ性別と言うだけではない。
女性になりたい男性、男性になりたい女性も多いのだ。
今回お越しのお客様はそのタイプの様で、理想の女性になれると信じてやってきたらしい。
しかし、同じ男として言いたい事がある。
「でもお客様ったら、女性になりたいのは分かったけれど、女性の身体に興味がおありなだけで、出来る事なら女性とお付き合いしたいのではなくて?」
「そそそそ……その通りだけど」
「しかも、豊満な御胸が大好物?」
「そっそうだけど!?」
「大きいおっぱいには夢が詰まっているのは、確かね」
「そうだろうそうだろう!? 大きな乳には夢がいっぱい詰まっているんだ! 小さいのもそれはそれでないのを寄せ集めてってのも燃えるけれど、僕は大きなおっぱいに包まれたい!!」
「だったら、女性にモテる見た目になった方が手っ取り早いのではなくて?」
「ぼぼぼぼ……僕の婚約者はその……胸が全くないんだ」
「あら」
「それに、浮気と言うのも彼女に悪い気がして」
「ふむ」
「だから一時だけでも僕が女性の姿になって、大きなおっぱいを堪能したかったんだ」
「諦めたら?」
「ううううう……」
「それか、あなた自身が婚約者に大きなおっぱいにしてくれって頼んだら?」
「そんな事言えないよおおおおお!!!」
コレである。
アリナシアには少々刺激が強い内容だっただろうけれど、小さな声で「大きな御胸と小さい御胸」と呟き、通る声で呟いたため店の中に響いた。
エドガーは咳払いし、ハッと気が付いたアリナシアも顔を赤くして俯いてしまっている。
泣きながら「おっぱいおっぱい」叫ぶ依頼主にどうしたものかと思いつつも、ふと思いついた言葉を口にしてみた。
「そんなに婚約者の御胸が小さいなら、貴方が将来揉んで育てれば良いじゃない」
「「「……え」」」
「だって、女性の胸って揉んだら大きくなるって聞いたわよ? その辺どうなのかしら?」
「シャルル様、それは個人差があると思いますよ?」
「そうなの?」
「でも、自分好みに育てると言うのはアリだと思いますね。男の浪漫じゃないですか? 私の故郷では昔の古書に、幼い少女を自分好みに育てる男性の話がありまして、男性ならば一度は憧れる話でしたね」
「だ、そうよ? 貴方も泣いてないで自分好みの婚約者に育ててみるのはどうかしら?」
「自分……好みになるでしょうか? 無い胸が」
「そこは貴方の揉み方次第じゃないの? でも、小さい御胸も可愛らしくていいじゃない。背徳感があって」
「……最低です」
アリナシアの通る声が響き渡った……。
確かに最低かもしれない、でも男とは結局そう言う生き物なのよ。
「分かりました……ぼぼぼ……僕のこの手が真っ赤に燃えるほどに大きく育てようと思います!!」
「ええ! 頑張ってね!!」
「そして、僕の見た目はちょっと渋めの大人でお願いします!! 背徳感を味わう為に!」
己の欲望に忠実なのと、それをまた理想とするのは人それぞれ。
アタシはスキルを使って依頼主の見た目を彼の求める少し枯れた感じのダンディな男性に作り替えると、満足げに微笑んで彼はお金を支払って帰っていった。
しかし――アリナシアの突き刺さる眼は少し痛いわね。
「なぁにアリナシア。これも男の浪漫の一つよ。諦めなさいな」
「男性と言うのは、欲望に忠実なのでしょうか?」
「まぁ……そうね」
「相手の負担にならない程度には欲望に忠実な生き物ですよ」
「アリナシアには少し早かったかしら?」
「……いいえ! ちょっと驚いただけです!」
「ブルーローズでは平常運転のやり取りよ。スルー出来るくらいには育ってね?」
「頑張ります!」
こうして次のお客様がお見えになったのだけれど、次のお客様は貴族女性。
鏡の前で自分の顔と10分対面し、小さく溜息を吐くと己と向き合った結果、彼女は大きな扇で顔を隠し、小さな声で喋りだしたわ。
「わたくし、目を大きくしたいんですの」
「大きさの度合いにもよりますわ。バランスも考えていらっしゃるかしら?」
「……零れ落ちる様な目になりたいとは言いませんわ。ただ……眼が細すぎると夫からも言われて……顔を作り替えてこいと家を追い出されましたの」
闇が今日も深くて絶好調ね!!
「その夫の好みの女性というか、好きな女優は居るのかしら?」
「夫はお気に入りの娼婦がいまして、顔は見たことがありませんが目が大きいそうですわ」
「結婚何年目かしら?」
「三カ月です」
「離婚したら? そんな男屑よ?」
「離婚したいのですが、家の関係上どうしても」
「なら、ご実家に一度戻って相談されたらどうかしら?」
「実家に?」
「今の貴女の現状を離さないと、次から次に難題押し付けられて貴方が壊れそうだわ。ブルーローズの店主がそう言っていたと貴方のご両親に話してみなさいな」
「宜しいのでしょうか?」
「何が?」
「この店に夫が怒鳴り込んできたりとか」
「その心配はいらないわ。まずは貴女の将来の心配よ」
「………」
「逃げるなら今しかないわよ。どうする?」
「……実家に、行ってみます」
「それが良いわ」
そう言うと女性はしずしずと頭を下げて馬車に乗り込み実家へと帰っていった。
こういうやり取りもまた、ブルーローズの仕事の一つでもある。
夫婦仲の問題は当事者だけでは解決しない場合もとても多く、女性の方が嬲りころされるように言いなりになって最後は自殺……なんてこともザラにあるのがオリガーテ王国の悪い所だ。
「この様に、女性が不当な扱いを受けている場合、シャルル様は逃げる事をお勧めします。オリガーテ王国の闇の部分です。とても件数としては多いのですよ」
「知りませんでした……」
「貴族と言うのは親同士が決めた相手と結婚、っていうのが習わしだけれど、その相手次第では女性にとっても結婚は墓場だったりするのよ。正に言葉通りの墓場ね。だから逃げられそうなうちに逃がすのがアタシたちの仕事でもあるのよ」
「はい!」
「アリナシアには将来シッカリとした男性を紹介しないといけないわね。清らかすぎて変なのが寄ってきそうだわ」
「そう……でしょうか?」
「責任を持って相手を探してあげるから期待しててね! 無論恋愛は自由よ? 好きな男性が現れたら教えて頂戴」
「はい!」
こうして一日が過ぎていく。
アリナシアも色々と勉強をしているようだが、ブルーローズがただ見た目を変えるだけの場所でない事を知ったのは大きい収穫だったようだわ。
そうこうしているうちに終業の鐘がなり、それと同時にツキが帰宅してアリナシアを護衛して帰宅させると、アタシとエドガーは本日分の書類を纏めてファイルに仕舞った。
「そう言えば、カサブランカには最近行ってらっしゃいませんが、俺が一応雇われオーナーですのでちょっと行ってきます」
「悪いわねエドガー。アタシはスキルを少し多めに使ったから休ませてもらうわ」
「では帰りは一緒に帰りましょう。少し二階で休んで頂いて結構ですよ」
「そうさせて貰うわ」
こうしてエドガーはもう一つの店カサブランカに。
アタシは二階のソファーに横になると長い溜息を吐いた。
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男性の性癖とは多種多様である。
理解出来ないモノも、それは多くあるものである。
と言う事で前半は書いてます。
後半のお客様には逃げるように諭すシャルル。
ブルーローズは見た目を変えるだけではなく、悩みも形を変える場所でもあるのです('ω')ノ




