11 シャルルは従弟たちに妻の護衛を頼む。
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――???side――
東の日出国――少数民族である我らのふるさと。
日出国の男たちは朝の訓練を欠かさない。その日の朝、頭領であるカノエの息子たちが呼ばれた。息子たちは急ぎ着替えを整え向かうと、廊下の途中で兄弟は出会った。
「兄上も呼ばれたの?」
「ツキ、其方もか」
「朝早くから呼び出しがあるなんて……一体どうしたんだろうね」
「緊急の呼び出しじゃった。何かあったのじゃろう」
二人は急ぎ父である頭領の部屋へと入ると、立派な髭を整えたヒノエが立って息子達を出迎えた。
この東の日出国で、ヒノエの恐ろしさを知らぬ者はいない。
何よりヒノエの年の離れた弟であるヒノト……今はエドガーと名乗る弟は、尤もたる強さを誇る者であろう。
「よく来たな、ヒノにツキ」
「急ぎの用と言う事でしたので……」
「一体どうしたの父上」
「うむ、エドガーから其方たちのどちらかを貸して欲しいと言う手紙が届いてな。其方たちもシャルルを覚えておるだろう?」
「「はい」」
シャルルとは叔父上が彼の両親の代わりに育てていた子供の名だ。
余りの美しさに誰もが息を飲み、二人はシャルルと兄弟のように過ごしたのを思い出す。
そのシャルルに何かあったのだろうと思うと私たちの顔が強張った。
「そのシャルルだが、妻を持ったことも覚えているな?」
「ええ、確か怠惰病の妻を貰ったと言う連絡を受けております」
「うむ、その妻を暗殺しよう企む者がいるらしい。そこでシャルルの妻を守る為に、護衛としてついて欲しいとの事だ。お前たちは暗殺者を何度も屠った事のある手練れだ。そこで二人にはシャルルの妻、プリシアを護衛する為に向かって欲しい」
「それはシャルルも気が気ではあるまい。直ぐに向かいます」
「長期での任務となりそうなのだ。必要な着替えなどを揃え、用意が出来次第またここに来るがいい。瞬時にあちらにいく道具を予備も含めて多めに貰っているからな。ヒノ、ツキの二人には初めての他国だろうが、必ずや護衛しろ。良いな」
「「畏まりました」」
そう言うと私たちは強く頷き、直ぐに自室に戻ると着替えを含めた長期滞在を目的とした荷造りを始めた。
ある程度の物はあちらで買うとしても、この国でしか売っていない袴や着物といった物は売っていないだろう。
護衛と言えど服装に関しても余所行きも必要になる。
それらもこの国に流れ着いた冒険者が売ったアイテムボックスに入れ込み用意を済ませると、丁度ツキも用意が終わって部屋から出てきたところだった。
急ぎ父の許へと向かうと、【魔法扉】と呼ばれた転移の魔法スクロールに驚きながらも、父が何時でも帰ってこれるようにと執務室に帰還用のスクロールを二枚貼り、二人は移動用の魔法扉を受け取った。
「あちらではどの様な事があるか分からぬ。気を引き締めて向かうように。またそこで未来の妻を見つけることもあろう。その際は、攫ってでも妻にしろ。それが我が国の男と言うものだ」
「兄上には難しい問題だと思うけどなぁ……」
「まぁ……確かに」
「初心なのは認めますが、私とて将来の伴侶が見つかれば本気を見せます」
「本当にぃ?」
「ツキ……お主兄上をなんと思っておるのだ」
「初恋もまだの初心な兄」
「むう」
「兎に角、ヒノの年は17だったな。その頃には俺は妻を既に持っていたのだぞ? ヒノはもう少し頑張って貰いたいものだな」
「ご心配、痛み入ります」
「では最後に、お前たちの活躍がシャルルの大事な妻を守る事に繋がる事を、しかと心に刻め。では行け!」
「「はっ!」」
こうして魔法扉のスクロールを開くと瞬く間に光り輝き、一瞬目を閉じた次の瞬間には――立派な店の小部屋に立っていた。それはツキも同じだが……。
「来たか、ヒノとツキ二人も寄こすとは……兄に頼んで正解だったな」
「「叔父上!!」」
「少々話がしたい、今後の依頼についても詳しく話したいのでな」
「「分かりました」」
そう言うとエドガーは立派なソファーに座るよう指示を出され、ゆっくりとソファーに座るとエドガーは少し溜息を吐いて、今のシャルルの現状を教えてくれた。
人の見た目を変えるという他に例の無い希少なレアスキルに二人は驚いたが、シャルルがこの国の第二王女の魔の手に苦しんでいることに胸を痛めた。
しかも、その毒牙は妻であるプリシアと言う女性を暗殺することにまで進んでいる事や、シャルルへの異常な執着も聞き、二人は眉を顰めた。
「その娘と言うのは、余りにも自分本位なのじゃな……」
「頭が足りない馬鹿を通り越して阿呆って言うだよ?」
「ははは、ツキは相変わらずだな、無論ヒノもだが。だが、そう言う訳だ。二人にはシャルルの妻、プリシアが王都にいる時には護衛し、それ以外では暗躍して情報を集めて欲しい。出来るか?」
「はいはーい! 暗躍なら僕の方が得意だよ!」
「確かにツキの方が暗躍には適しているか。ではツキには第二王女の周辺の監視と暗殺者を生きて捕らえる事を。五体満足で生きているなら多少手痛くしても構わん。そしヒノには護衛を頼もう。二人揃って顔がバレるのも避けたいしな」
「分かりました」
「シャルル様を頼むぞ、あの方は俺の恩人の唯一の子でもあり、妻であるプリシア様を深く愛していらっしゃる」
「「畏まりました」」
「では、ツキはこのまま城で第二王女の周辺を。ヒノはシャルル様にご挨拶を」
「畏まりました。服装はこの服でも宜しいのじゃろうか?」
「日出国の服は目立つでだろうが、まぁ良いだろう。カサブランカでも生地を仕入れて作って貰う事にするから安心してくれ」
「分かりました」
「あと、この国の異常性を目にするだろうが、ここはそう言う国だと諦めてくれ」
「異常性……と言うと?」
「皆がマネキンだという事だ」
こうしてヒノはこのまま久しぶり再会したシャルルに挨拶をし、シャルルは来たのが気心の知れた従弟であったことに喜びを溢れさせていたが、シャルルは随分と美しくなっていた。
これでは第二王女が夢中になるのも頷ける。
「あーん! 今日の仕事はもう終わり! ねぇねぇヒノ! 貴方も中々の美形に育ったじゃないの――!!」
「そう……じゃろうか?」
「漆黒の長い髪を緩く後ろで結んで、綺麗な黒い瞳も素敵だわ! それにその服装よ!! 沢山の客からヒノの事を聞かれたけれど、アタシの従弟って話しておいたわ! 皆納得していたわよ!」
「シャルル兄上の従弟……あながち間違いではありませぬな」
「ツキちゃんにも会いたいけれど、今毒芋の監視に行ってるんでしょう? 近々会えるのを楽しみにしてるわ! 所で暗殺者を屠った経験があるって本当?」
「修行の一環で両手では数え切れぬほどには」
「頼り甲斐あるわ――!! プリシアをお願いね!」
「畏まりました」
どうやらシャルルは本当に妻を愛してやまないのだと私は嬉しく思った。
そして、自分にもその内、ここまで心を奪われる程の相手と出会う事が出来るのだろうかと……不安になるのだ。
だが、今は任務遂行が先。
私は拳に力を入れると、水の曜日にあるというお茶会の護衛者として同行する事となる。
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シャルルの従弟たちは書いていて楽しいですw
今後もチラホラ出てくるので、楽しんで頂けたらと思いますw
一番書いてて楽しいのは、やはりシャルルですがね!!




