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01 プロローグ①

本日より新連載です!

「転生箱庭師」小説で商売者を書きましたが、今回は商売は商売でも

【他人の見た目を理想に変える】と言う商売となります。

転生箱話のおおもとになった話です。


是非、お付き合い願えると幸いです!

そして、こちらも転生箱庭と同じく

一日三回更新となります!

応援よろしくお願いします(`・ω・´)ゞ


本格的連載は金曜日からとなっていますので、プロローグだけUPです!

「あなたの見た目、良くないわぁ。そのドレスもとっても下品。そんなんじゃ娼婦と間違えられるのではなくって?」



今日もオリガーテ王国にある『ブルーローズ』の店主の辛辣な言葉が貴族用の部屋に響き渡る。

声の主はブルーローズの店主である、シャルル・エーデルワイス。

誰もが羨むほどの美貌を持ち、更に美しいシルバーブロンドの髪を緩く三つ編みし、深紅の薔薇のような瞳は客をシッカリと見据えている。

女性口調も妙に見合ってしまう程の洗練された動き、そして女子力の高さ。それでも25歳と言う年齢でありなら、彼は娼婦のような服装の令嬢を見ても眉一つ動かさず、性的な視線で見ることは一切しない。

指摘を受けた令嬢は顔を真っ赤に染めて震えているが、怒る様子はない。

それもそうだろう――シャルルの言葉は、オリガーテ国王の言葉よりも重いのだ。



シャルル・エーデルワイスは元々庶民である。

しかし、彼はこの世界ではとても珍しいレアスキルを持ち、王家はシャルルをこの王国に留まらせる為に、彼が好きに統治できる素晴らしい土地まで用意してまで留まらせている。

そんなシャルルのレアスキルは――世にも珍しい【人の見た目を変える能力を持つ】と言う事。


女性冒険者の見た目が華やかであるのも、ドロップ品でありながら性能は良いけれど見た目の悪いアクセサリーも、シャルルの手に掛かれば依頼者の望む姿に変わるのだ。

無論、見た目を変えたければ防具やアクセサリーに使いたい服やアクセサリーを自前で用意する必要はあるが、そちらのスキルに関する金額はお手軽に手が届く金額でもある故に、女性冒険者のみならず、男性冒険者も後を絶たない。


更に言えば、その上位互換のレアスキルもシャルルは持っていた。

それは――『依頼主本人の見た目を自由に変えることが出来る』と言う、夢のようなスキルだった。


願いが大きい程に効果時間は短いものの、依頼者の望むままに見た目を変えることが可能で、女性であれば「スタイルが良く誰もが羨む身体が欲しい」や「自分の理想の顔が欲しい」と言った願いや、男性であれば「背を高くしたい」「引き締まった身体が欲しい」等と言った依頼は毎日のように飛び込んでくる。

そして、上位互換であるそのスキルに関しては、権力者であれば法外な金銭を要求するのがシャルルのやり方であった。

それでも貴族や権力者たちはシャルルの時間制限ありのスキルを一度でも使ってしまえば後戻りなど出来る筈がないし、リピーターは王家を含めてとても多いのだ。



――人の見た目を自由自在に変えることが出来るシャルル・エーデルワイス。

彼の口から飛び出す言葉は、絶対であった。



「でも、今の流行はこういうドレスだと聞いて……わたくしはまだ婚約者が決まっておりません……。だから少しでも美しくして、結婚相手を探さねばならないのです」



貴族の娘であれば、成人する15歳から18歳の間に婚約者を見つけるか、親が娘の結婚相手を見繕うのがオリガーテ王国の悪い風習だ。

シャルルは呆れたように溜息を吐き、依頼主に付き添ってきた母親に目をやった。

依頼主である彼女は現在16歳の伯爵令嬢。自信のない彼女と、シャルルのスキルで生まれ持った姿を捨て、優雅に紅茶を飲む母親を見比べるとシャルルは依頼主に向き合った。



「そのドレスを選んだ娼婦はどなた?」

「え?」



思わぬ言葉だったのだろう、驚く彼女と同時に母親の方からティーカップの音がカチャンと音が鳴る。



「こういってはなんだけれど、全くあなたには似合ってないのよ。色も形もデザインもね。王都の安い娼婦が着ているようなドレスを選ぶ人間って、どんな感性しているのかしら?一度お顔が見てみたいものだわ」

「あ……あの」

「あぁ、気を悪くしたのならごめんなさいね? でも本当にセンスが無いわ~。選んだのが貴女ではないのは理解しているから安心して頂戴ね? そうだわ! 宜しかったら隣の【カサブランカ】で貴女を飛びっきり美しくするドレスを持ってこさせて大輪の花に仕立て上げましょうか? だって、こんな安い娼婦のようなドレスを買い与えるようなセンスの持ち主が貴女の傍にいらっしゃるんでしょう? その存在こそがお家の恥よねぇ……本当にお嬢様は御気の毒……。だから、カサブランカのドレス代は少しおまけして差し上げるわ。良いですわよね? お付き添いのお母様も」

「か……構いませんわ」



【カサブランカ】とは、王都にあるブルーローズとは趣向は違うものの、最高品質が揃う王国一の店だ。

冒険者の武器や防具、そして薬といった必需品から、ドレスや宝石、更に魔導具といった物まで幅広く販売している百貨店のようなもの。

そして、その店もまた――シャルルの持ち物であった。

パンパンと手を叩くと、シャルルの右手とも言えるエドガーがやって来る。事情を説明すれば直ぐに隣のカサブランカへ通信用の魔導具を使い、依頼主である令嬢の特徴などを伝えるや否や、5分後には令嬢に見合う美しいドレスが届いたのだ。

シャルルの言う品の無い安い娼婦のようなドレスから、美しい大輪の花へと変わった依頼主に満足げに微笑むと、シャルルは更に問いかける。



「さぁ、鏡を御覧なさい? 美しいドレスだけで満足するような貴女ではないでしょう?」



鏡に映る依頼主である令嬢は確かに美しい。

だが、彼女は自分の頬に手を当て小さく頷いたのだ。



「それで? 理想の顔はどんな感じかしら? 無論アタシはそのままでも素敵だと思うわ」

「ほ……本当ならわたくしの貧相な体も整えて欲しかったですけれど……金銭面的には致し方ありませんわね。お顔は今人気の舞台女優に似た華やかなお顔にしたいわ。このドレスに合う様な華やかな舞台女優の顔に」

「ええ、宜しくってよ。確か明日が未婚者を集めたお見合いパーティでしたわね? その間までは貴方の理想の顔を保つことは出来る筈よ。けれど、本当にその顔でなくていいのね?」

「この顔に未練なんてありませんもの」

「そう。でも決して忘れないで頂戴。貴女にかかる魔法は……ほんの一瞬なのだから」



そう言うとシャルルは依頼主へとレアスキルである【夢見之楽園】を使った。

依頼主の要望が強ければ強い程、効果時間は短くなる。けれど、夢のようなひと時を過ごすことが出来るこの【夢見之楽園】に取りつかれた貴族や権力者たちは余りにも多すぎた。

スキルを受けた依頼者は鏡の前で『別人』になる。

その姿は自分の理想の姿そのもので、依頼主は何度もお礼を言って多額のお金をブルーローズへ支払っていった。


そして、次の依頼主が部屋に入ってくる。

依頼主は男性で、頭からスッポリと隠れるようマントを羽織り、シャルルの許へと駆け寄った。



「シャルル様! お願いです!! 私の理想の姿に戻してください! このような見た目では恥ずかしくて屋敷の中どころか外も歩けない!!」



悲痛な声で叫ぶ依頼主の男性は、何度もシャルルが【夢見之楽園】を使ったお得意様だ。

シャルルは思う。

(あぁ、今日もまたお得意様がお戻りになったのね)

シャルルは美しい慈愛の表情を浮かべると鏡の前に男性を立たせた。



「いつも通りで宜しいのかしら?」

「頼む!!」



エドガーが男性の体を覆うマントを預かると、鏡の前に映る男性は自分の現実を受け止めることが出来ないとばかりに顔を背けた。

他国に行けばどこにでもいるような年齢相応の姿。だが依頼主には耐えられない屈辱のようだ。



「あぁ……なんて醜い……シャルル様お願いです。どうか早く魔法を!」

「あら、契約書を守れない客にはスキルは使えないわ?」



そう――シャルルのスキルを使う為には、客は契約書を読みサインが必要だ。

無論、その契約書とは【魔法が込められた紙】で出来ており、契約を破ればシャルルのスキルを一切使えなくなると言うものだ。

それを理解している貴族が王都にどれだけいるのやら……。

簡単に纏めると、契約書の内容はシンプルなものだ。



・依頼主はスキルを使った際の金銭を一括で支払わねばならない。

・依頼主はスキルを使う前に10分、鏡の前で本来の自分と向き合わなくてはならない。

・依頼主は他人を陥れる為の見た目の変更は絶対にしてはいけない。

・依頼主はブルーローズの定休日に関して、何一つ苦情を申し立ててはならない。

・依頼主はストレリチアに意見の申し立てをぜす、そして悪意を持ってストレリチアの者たちに接してはいけない。

・依頼主はストレリチアの女主人を傷つける行為は絶対に許されない。



これさえ守れば、シャルルは依頼主の見た目をスキルで変えることが出来る。

魔法の契約書の効力は絶対であり、一つでも敗れば、見た目は生まれ持った姿に一発で変わってしまい、二度とシャルルのスキルを使う事は出来ないのだ。

10分間、本来の己を鏡で見つめながら対峙するのは、その為に必要な処置である。

本来の自分は親から貰った大事な体なのだが、シャルルのスキルを使った彼らにとっては、親から貰った体ほど醜いものは無かった。

何故ならそれは――『理想』ではないからだ。


鏡の前で本来の己を前にブツブツと、親から貰った体に対し呪いを吐き続ける依頼主はとても多い。今の依頼主もそうだ。理想とかけ離れた己の姿は――惨めで醜く見えてしまうのだろう。



「お客様、10分です。依頼書に目を通されてください」



そうエドガーが口にすると鏡から飛び火座るように書類に目を通しサインをする。

シャルルは呆れもせず慈悲を浮かべた表情。

それとは対照的に、依頼主は苦悩の表情を浮かべ、祈るように両手を組む。

シャルルはそんな依頼主に魔法使いのようにスキルを使うのが日常であった。



シャルルのレアスキルは確かに万能だ。

親から貰った見た目に苦悩する者たちにとって、それはまさに神からの救いの手に思えるだろう。

誰もが同じ美しい顔、同じスタイル――まるで個性が無い。

それでも、客は皆喜ぶのだ。

個性のない、皆が同じ見た目で安堵する。それを滑稽と言えばいいのかはシャルルには解らないが、少なくともストレリチアの住民はそんなことは微塵も思わない事だろう。


今回は初回と言う事で、プロローグのみ更新してます。

明日からは一日三回更新となりますので、お間違え無いようにお願いします。

応援よろしくお願いします!

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