お伊勢参り
車でも良かったのだが、折角ならと外宮から猿田彦、その後内宮と歩いて移動することになった。
「まぁね、暇だから良いんだけどね。フリーターと留年学生なんて時間持て余してるしね」
「それな。普段動いてない分良い運動になりそうだ」
だが、そんな言葉とは裏腹に、二人の足は完全に止まっていた。
何せ8月である。セミの大合唱はピークを迎え、会話に差し障る程となり、直上近くまで上がった太陽は体温以上の熱波を降り注ぐ。
それを受けるアスファルトも、遠赤外線調理でもしてるのかこの野郎と文句を言いたくなるくらいに照り返してくる。
「なぁ、馬鹿なの?」
「うん、馬鹿だったね」
冷房の効いた部屋でプランニングしたのが間違いだったか。
汗だくになりながら、時折木陰に蹲りながら、何とかおやつ時くらいにはおかげ横丁に辿り着いた。
取り敢えず伊勢うどんを流し込み、一服したところで内宮へと向かう。
平日だというのにそこそこの人出だった。
「外宮と猿田彦にはこんなに人居なかったぞ」
「まぁ中々手順通り回る人居ないんじゃない?ほら、僕達みたいな暇人とかしか」
猿田彦は別に順路ではなかったが、道中にあるので寄っただけだったが、どちらも雰囲気は素敵だった。
寧ろ、立派すぎて最早神社なのかどうか解らない内宮よりも、外宮の纏まっている感じの方が好きだった。
見上げるほど大きな木々に囲まれててこてこ歩いていると、何だか自分がとても矮小な存在に思えてきた。
「実際矮小だけどな。というか人間の中でも特に俺らは問題ありの部類だしな」
社会のレールから逸脱してる、と自虐気味に笑う。
「まぁ、だから今日来たのもあんじゃん?なんとかして!って神頼みしに」
「普段信仰心も糞もない奴がいきなり『困ったから助けて!』って都合良すぎだけどな」
彼は階段までくる間もずっと卑屈な事を言い続けていた。
「どったのよ今日は。いやに否定が多いね」
普段から根明と言うわけではないが、ここまで否定的でもなかったと思う。
「さぁ?暑くてイライラしてんのかも。さっさとお参り済ませて赤福食べいこーぜ」
「はいはい、結局優も食いたいんじゃん」
「ここまで来て食わない手はないだろ…っと」
僕たちの順番が来た。
まず二礼。二拍手。
その瞬間、周囲から「おぉ〜」どよめきが聞こえてきた。
気にはなったが、一先ず一礼を済ませてから辺りを確認するが、何も変わった様子はない。
後ろに並んでいた人達が、まだザワザワしているが、何だったのだろう。
「お前見てないだろ、今の」
取り敢えず次の方に順番を譲るため、横に捌けた。
「え、やっぱ何かあったの?」
「勿体ねぇ~。お前が頭下げてる間だけ、暖簾みたいのがこっちにふわって開いたのよ」
「なにそれ、どっち!?良いの?悪いの?」
さぁ?と短く返事をするとスタスタ進みだしてしまった。
この一瞬で興味が冷める心情、相変わらずよく解らない。
人間の心ないのかな。
赤福を食べながら調べてみると、願いが叶うサインだと書かれているページを見つけた。
ただ、僕には解らなかった。
あの時、どよめきに気を取られ、何を願ったのかが。
あるいは、何も願わなかったのか。
1つだけはっきりしているのは、その時からだということだ。
僕の身の回りで異変が起き始めた。