神頼み
7月の終わり、本格的に夏になってきた頃だった。
外ではセミが騒いでいるし、窓から差し込む日光は室内にも関わらず肌を焼こうとしていた。
3月をもって大学を辞めてしまった僕は、ただひたすらにやることがなかった。
5月からバイトも始めたが、張り切って働く気もなく、1日の大半を無為に過ごしていた。
「あ、やべギル戦…」
今もこうしてベッドの上から世界を救う戦いに身を投じるくらいしかやることがない。
同じゲームをプレイしている高校の頃の同級生は、まだ大学生だ。
「おー優ちゃん今日も走ってんなぁ…。やっぱ暇なんかな」
と言っても、彼ももう6回生になるが。
いつものように、電話をかける。2コールしないうちに反応があった。
「おつーやってんねー」
「おう、今日はバイトは?」
「なし、ずっとできる。親に何も言われなければな」
「同じく」
レールから外れた人間というのは周囲からの扱いに敏感になる。
特に相手にその気がなくても、語尾に「働けや」と言う言葉がついている気がして仕方ないのだ。
「つかゆーはバイトしとらんやんそもそも」
「うん、いつでもずっとできるぜ、俺は」
ガガガガという攻撃音が響かないか少し気にし、音量を下げる。
肩身が狭いとはこの事だ。
「でも真面目な話、どーするよこの先」
一応、バイトしつつ、就職先も探してはいるが、どれもこれもパッとしない。
そもそも働く事が嫌なのに、やりたい仕事なんて見つかるわけがないが。
「もうね、人生は無理ゲー。神頼みしかない」
流石に神様も努力しない人間は助けてくれないんじゃないか。
「お伊勢さんにでも行くか?」
「何が悲しゅうて休みの日に態々がっこと同じ方面に向かわにゃかんのよ」
「えー赤福食べたーい」
「彼女か?お前は俺の彼女なんか?」
今どき名駅でも買えてしまうので有り難みは薄れたが、それでもおかげ横丁で赤福を食べる、というのは未だにお伊勢参りのモチベーションになる。
「はぁ…じゃ今度の火曜な。週末は人が多いから嫌だ」
「おっけー。あれ、何か久々だな遊びに行くの」
フリーターの身としては、余り遊び呆けていると思われるのも怖いのだ。親から何を言われるか、大体想像つくし。
ただ、今回の場合は心機一転のためのお伊勢参り、という名目が立つので心置きなく遊びに行こうと思う。