60話 山賊の頭領との戦闘
リュウジンは回復することはせず、あえて傷ついたまま戦うことを選んだ。
リュウジンの現在のHPはあと7割ほど、MPはあと3割ほど。
もはやスキルを発動できるようなMPは残っていない
「回復しなくていいのか?それくらいは待ってやるぜ?」
「いや、いい。この状態で勝ってこそ意味がある」
「そうかい。舐めプ・・・・・・って訳ではなさそうだな・・・・・・」
「お前ほどの相手に手加減できるとは思ってねぇよ」
頭領が担いでいる斧が先程までとは比べ物にならないほど黒い邪悪なオーラが出ていた。
それを見ていたことに気づいた頭領は
「おお!これか?イカすだろ?俺らの仲間を殺すたびに攻撃力アップするスキルの恩恵でもはやどれくらいの威力か想像も付かんな。これだけの仲間が殺されたのも初めてだからよ、それほどの威力が出るのかもわからねえ。楽しませてくれよ?」
「さあな、どの道それほど時間は掛からんだろうぜ」
リュウジンはスキルというものの有用性を改めて感じていた。
だが、今信じられるのは新月流だけであり、時間を掛ければかけるほと不利になるだろうことは目に見えていたので開戦即殺をするつもりであった。
「リン、テル、ソラ。死んだら悪い」
ダンジョンに行く最中であり、自分が死んだら許可証がないので入れないと思ったリュウジンは先に謝っておくことにした。
それほどリュウジンは頭領を警戒しており、眷属を除けば初めて本当の意味で死を覚悟した戦いに挑もうとしているのである。
「お前ら!手を出すなよ!」
頭領も仲間に対して忠告をし、完全な1対1での戦いになった。
リュウジンと頭領はある程度距離を取った。
「それじゃあ行くぜ!」
「ああ」
リュウジンは両手で刀を構え、頭領は斧を頭上にまで振り上げて止まった。
リュウジンが動くと同時に頭領は斧を振り下ろした。
大きな黒い斬撃が斧より放たれリュウジンに襲ってきた。
リュウジンはそれを右に避けたが、頭領はリュウジンが近づけないように次々と斬撃を放っていた。
リュウジンは視界一杯の黒い斬撃に襲われていた。
(当たれば確実に死ぬだろうな。そしてこれほど連発するということは回数制限はないか、限りなく多いと考えていいだろう。その上でどう奴に近づくかだな・・・)
Side:頭領
さっきまでずっと戦いの外からあいつの戦いを見ていたからこそわかる。
あいつは接近戦のプロだ。
まず間違いなく近づけた時点でこちらに勝ち目はないだろう。
スキルもなくあれだけの人数相手に無傷でくぐり抜けるなど化け物だ。
俺1人であの鉄壁の防御を崩すなど不可能に近いだろう。
可能性があるとしたらユニークスキル『仲間の恩讐』による力の倍増効果。
これだけの数を殺されれば掴むだけでも人体を破壊することは容易いだろう。
近づかれたら相打ち覚悟で相手に掴みかかる、それまではひたすら遠くから斬撃を放ち近づかれないように倒すのみ。
「それじゃあ行くぜ!」
「ああ」
これほど緊張する戦いは初めてだぜ。
腕を振り上げあいつが動けばすぐに動けるように準備した。
そして奴が動くと同時に振り下ろした。
あまりの威力に驚いたが、奴は案の定その攻撃を避け近づいてこようとしていたので休む暇などなかった。
幸い普段なら思い斧もスキルのおかげで筋力が上がっており、何も持っていないと感じる重さになっていたので簡単に何度も振ることができた。
だが、近づけさせないことには成功しているが、全て避けられ決定打に欠けていた。
普段であればその攻撃力の高さにものを言わせて多少のダメージ覚悟で一撃決めてしまえばよかった。
大抵の相手はそれで終わる。
だが、このゲームには部分クリティカル判定がある。
あれほどの達人がそれを出来ないとは思えない・・・
だが、その一撃さえなんとか躱せば・・・首と心臓さえ外れていれば一撃で死ぬことはないはずだ・・・
・・・だが、何度想像しても斬られる未来しか見えん
だがあいつもあの距離から全くこちらに詰めてこれていない・・・。
焦れた方が負けだ、先に行動を起こした方が負ける。
俺はあいつが自滅するか、自滅覚悟で特攻してきたとしても相打ち覚悟で掴んでしまえば負けることはない!
自分から行く必要なんてない。
さぁ、持久戦と行こうぜ!!
そう思ったとき振っていた斧がすっぽ抜けた。
「は?」
――クスクス
――クスクス
笑い声のする方を見ると羽の生えた小さな妖精らしき生き物が2体浮いていた。
少しの間呆けていたが、即座にあいつのいた方に目を向けた。
「妖精の悪戯に注意ってな」
もう目の前に迫ってきていた。
流石に斧を拾う余裕などないので即座に相手の頭を掴もうとした。
気づけば手首から先がなかった・・・・・・
「掴んでこようとすることは想定済みだ。あの攻撃力で掴まれることが1番危険だからな」
もはや万策尽きた俺に悠長に話しかけてきた。
「てめぇ、召喚術師だったのか」
「いや、違う」
「じゃあ、あの妖精はなんなんだよ」
そして妖精の方を見た瞬間
「最後まで油断大敵だぜ!」
隠していたオーラを足に集中させ蹴りを繰り出した。
ダメで元々往生際の悪さこそ山賊としての美学!
「死ね!!」
「頭領!!」
そのときトーカの声が聞こえてきた。
そして気がつけば地面が近づいてきていた。
やっぱりな・・・接近戦は無理だ・・・
それを最後に意識が暗転した。
Side:リュウジン
(結局スキルに頼ってしまったが、そろそろこの世界と現実世界の戦い方を考えないといけないか)
あの妖精の正体はリュウジンが『眷属召喚(改)』で契約したリトルランダが使える『眷属召喚』で呼び出したものである。
妖精ならば気付かれず接近できるので、些細な悪戯をしてくれ、と頼んでいた。
その悪戯の内容が頭領の斧を落とすことになったのは偶然であり、リュウジンにとってはこの上ない幸運であった。
頭領が倒れたことによってリンとソラを閉じ込めていた檻がなくなり2人が出てきた。
そこに召喚していたリトルランデがトテトテとリュウジンの下に追いついてきた。
「な、な、なんっすかこの可愛い生き物は?」
「ぬぎゅ〜〜〜」
リトルランデはリンに抱きしめられ手足をバタバタとさせ泣き声を発していた。
「この前契約した眷属だ」
「なんて名前なんっすか?」
「ぬぎゅ〜〜〜〜」
「リトルランデだ」
「ぬぎゅ〜〜〜〜」
「それ種族名っすよね」
「なら、名前などない」
リトルランデはリンの顔をテシテシと叩いていた。
「ん〜、なら私が考えるっす!」
「離してやったらどうだ?」
流石に見かねたリュウジンがそう言った。
「え〜、もう少し抱いてたいっす!」
そう駄々をこねているとソラがやってきてひょいっとリトルランデを取り上げた。
「ぬ〜〜!」
リトルランデも救世主を見るかのように喜んでいたが・・・
ソラも突然無言で抱き締めた。
「ぬぎゅ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
辺りにリトルランデの悲鳴が響き渡った。