58話 トーカの本気
Sideリュウジン
「ガル!領域を解いて!!」
司令塔の男に庇われたエルフがそう叫んだ。
その瞬間リュウジンに魔法が殺到してエルフをそのまま斬ることは出来なかった。
(とりあえず司令塔の1人を消せたからいいが・・・・・・なんだ?)
「トーカ!!無茶するな!下がれ!下がるんだ!!」
ガルと呼ばれる男がエルフに向かってそう叫んでいた。
山賊達は先程とは違い、エルフを庇える位置に陣取っていたがエルフの援護がない山賊達を斬り殺すのは容易となっていた。
また1人の山賊を斬ろうとしていたときに
「ダメ!やらせない!!」
その瞬間無視できない力の奔流がエルフの方から発せられ、リュウジンは前のめりだった姿勢を後ろに重心を倒し回避行動を取った。
その瞬間リュウジンの目の前を白い何かが通り抜けていった。
そして咄嗟に前にいる山賊を蹴り飛ばし、エルフの方を向いた。
すると、エルフの体が白いオーラのようなものが漂っており、髪も茶髪から白髪に変わっていて周囲の風がエルフに向かって流れていた。
そしてエルフが何も持たず弓を構える仕草だけをした。
すると、周囲の白いオーラが集まり弓の形となった
(あれはやばいな・・・・・・)
リュウジンは即座にエルフに対して円を描くように走り始めた。
それと同時に先程いたところが爆せた。
エルフが白いオーラを矢に変形し撃ってきたのである。
白い矢は即座に用意出来るみたいでノータイムで連射してきた。
リュウジンはひたすら走りながら避け続けていた。
「〜っ‼︎」
エルフが声になっていない叫び声を上げ、先程までの連射とは違い辺り一面への無差別発射をしてきた。
そのタイミングでリュウジンは地面に対して刀を振り土煙を発生させて自身の居場所をわからなくした。
そのまま無数の白い矢が地面に降り注いだ。
「「「・・・・・・」」」
見ているものは皆無言で辺りは静寂に包まれた。
トーカは油断せずに弓を構えたまま待ち構えていた。
すると、土煙の中から何かが飛び出してきた。
トーカは即座に弓をそちらに構え矢を放ったが、それはただの土の塊だった。
トーカの矢によって抉れた地面の土をリュウジンが放り投げたのである。
即座に視線を戻したトーカであったが既にリュウジンが迫ってきており、ここから矢を放つのは無理だと判断したトーカは白い弓を白い剣に変形させた。
リュウジンが斬りかかった刀をトーカは白い剣で受け、鍔迫り合いの状態となった。
「ほう。近接戦も出来るのか?」
「・・・・・・っぐ!は、・・・・・・な・・・・・・れ・・・・・・ろ!!」
トーカはさらに力を込めてリュウジンの刀を押し返した。
すかさずリュウジンはエルフに斬りかかったが全て受け切られた。
そして少し距離が空いた時
――『ウィンドカッタ』――
咄嗟に手をクロスさせ致命傷を受けるのは避けたが、腕や足を切り裂かれた。
そしてエルフを見るとまた白いオーラを弓に変形させ撃ってきていた。
「ッチ‼︎」
リュウジンは即座に刀を振るいなんとか白い矢を払い、横にジグザクと移動した。
しかし、足を切り裂かれたことで機動力が落ちたので捉えられるのは時間の問題であった。
「やはりスキルとは面白いな!それだけでこれほど追い詰められ楽しい戦いができる!」
リュウジンは走りながらもまだまだ笑みを浮かべる余裕があった。
(だが、これ以上は無理か・・・・・・。自身の未熟を恥じるべきだな)
リュウジンにとってスキルの使用とはある意味負けと考えていた。
だが、スキル一つ、スキルの組み合わせで普通のプレイヤー達がこれほど強くなれるのを体感して大事なのはその時々でどれだけ持てる全ての力を使って勝てるかを考える力だとも思えるようになった。
そしてリュウジンがそう考えている時にトーカも
(これ以上は無理。次の一撃で決まらなければ負け)
そう考え最後の攻撃を準備していた。
――『終景・白武雨』――
トーカが纏っていた全ての白いオーラが天に昇っていった。
リュウジンだけじゃなくその場にいた全員が空を見上げた。
「おいおい。まじかよ」
するとポツポツと空に白い点々が見えてきた。
次第にそれが矢の形をした無数の雨であるとわかってきた。
当然雨の一粒一粒を避けることなどできようはずもなくそのまま地面に降り注いだのである。
「よし!」
「やったか!」
山賊の仲間から遂に殺った、と歓喜の声が聞こえてきた。
そして土煙が晴れてきて見えた光景は、
雷を纏ったリュウジンがトーカの後ろから首に刀を当てているところだった。
「見事であった。まさかこれ程まで追い詰められるとは思わなかったぞ。では、さらばだ」
(ああ、ダメだった・・・・・・。皆、後はよろしく)
リュウジンがそのまま首を刎ねようと刀を振ったとき
「殺すな‼︎」
山賊の頭領がそう叫んだ。
リュウジンは突然の発言にエルフの首でピタッと刀を止めた。
エルフの首からは少し血が流れていた。
「どういうつもりだ?」
リュウジンは山賊の頭領の方を向き軽く威圧を向けて問うた。
山賊の頭領はクイクイと自分の方に来てくれと手で招いてきた。
リュウジンは訝しんだが、闇討ちするような奴ではないと思いとりあえず刀を下ろして頭領の方に歩いて行った。
すると山賊の仲間達がエルフの方に掛けていき、良かった〜、と言っている者や、何で無茶をしたの!、と怒っている者もいた。
その反応に少し違和感を覚えたリュウジンであったが頭領のところに辿り着いたので思考をやめた
「それで何で止めた?納得のいく説明をしてもらえるんだろうな?」
「納得がいくかはわからんが・・・、完全に俺たち側の事情だ。もし望むのであればお前が勝って得られたであろう物を補填してもいい。とりあえず話を聞いてくれ」
そして頭を下げてきた
「いいだろう」
そして山賊の頭領は理由を説明してきた。
「なるほど。要はNPCだから殺さないでくれってことか」
「あ、ああ。俺らの遊びに付き合わせているだけでいい子なんだよ。昔助けてやってからずっと付いてきてるんだけどよ。今までがうまくいってただけで危ない綱渡りだったって再認識したよ。別に恨みがあるわけじゃないだろ?見逃してやってくれ。頼む。この通りだ」
「まぁ、別に構わねえよ」
「おお!そうか!よかったよかった。これが終わったら改めて説得することにするよ!」
山賊の頭領は嬉しそうに笑っていた。
「それで次はお前か?」
「満身創痍だがまだやれるのか?」
「当然よ!メインディッシュを食わずに食事を終えられるわけねえだろ?」
「グハハハ!そうだわな!俺も仲間がやられて黙っているわけにはいかないわな!」