57話 山賊との戦闘
モンスターではなく人との乱戦は初めてでテンションが上がってきたリュウジンは1人で存分に戦いたかった。
「テル!俺1人でやっていいか?」
「お、お好きにどうぞ」
リュウジンの気迫に気圧されたテルは少し言葉に詰まりながら答えた。
リュウジンはテルの許可を得たことで、ニヤッと笑い刀をしっかりと構えた。
――『パワーアロー』――
――『ファイアーボール』ーー
敵の後方から撃ってきた矢や火球を躱し、そのまま前衛と接敵した。
――『パワースラッシュ』――
――『流戦撃』――
――『暴衝撃』――
ーー『カウンターパリィ』――
リュウジンは複数人からの一斉攻撃を捌きながら、攻撃を繰り出していたがモンスターとは違い山賊達はスキルを駆使することで難なく凌いでいた。
リュウジンに前衛の10人程度が代わる代わる攻撃をしてきていたが、笑いながら攻撃を捌いて更には自分たちに攻撃まで加えてくるリュウジンを見て戦慄していた。
人1人が対処できる許容量を軽く超えていた。
しかし山賊達の攻撃の手は止むことなくしっかりとした連携で時折後衛の魔法攻撃などがリュウジンを襲っていた。
(予想以上に連携がしっかりしてやがる。まさかこれだけやってまだ1人も殺れねえとは思わなかったぜ)
このままだと埓が開かないと思ったリュウジンは斬りかかってきている少年に殺気を放った。
殺気を放たれた人物は身が強ばり一瞬固まってしまった。
その一瞬の隙を狙ってリュウジンが攻撃を仕掛けた。
しかし、その瞬間真横から亜音速の矢『ソニックアロー』が飛んできた。
流石に無視できないリュウジンは即座に矢を撃ち払った。
「・・・っ!嘘」
耳がとがっている長身の女性が少し驚いた様子でそう呟いた。
その間に殺気で固まっていた少年は距離を取っていた。
(さっきからここぞと言う場面であのエルフが的確に撃ってきやがるな。先にあいつをやるべきか)
リュウジンが前衛を置き去りにするように駆け抜け後衛に近づこうとすると
――『サンドウォール』――
――『乱れアロー』――
リュウジンの前方に土壁を出し、止まってしまった瞬間に四方を土壁で閉じ退路を断った上で数十もの矢が空から降り注いできた。
――『メテオストライク』――
更にはダメ押しで上級魔法を放ち、複数の隕石をリュウジンに降り注がせた。
隕石が地面に降り注ぎ轟音と共に辺りに土煙が立ち込めた。
エルフの女性も魔法使い達も流石に終わったと思い武器を下げた。
これがいつもの必勝パターンでもあった。
そして土煙が晴れてくると人影が立っているのが見えてきた。
「な、バカな!」
「どうやって⁉︎」
そこに立っていたのは無傷のリュウジンであった。
実はこの場には山賊達の副頭のオリジナルスキル『山賊の領域』が発動しており、自身が一切攻撃や防御もできない代わりに生きている間、味方以外の者はスキルを発動出来ないといった凶悪なスキルが発動されていた。
そのためスキルを発動できないリュウジンがあの攻撃を防げるはずなどなかったのである。
そしてそのリュウジンは空を仰ぎ、かなり口角が上がり邪悪な笑みを浮かべていた。
武に精通していない人間でもリュウジンの闘気を幻視できるくらい異様なオーラを放っていた。
「ッヒ!」
それを見た気の弱そうな魔法使いの女性が悲鳴を上げた。
リュウジンはそのままジロっとその女性に目を向け、新月流の歩法で一瞬でその女性の前まで移動し刀を振りかぶった。
その瞬間大楯を持った男がリュウジンと女性の間に割り込んできた。
(いい反応だ・・・・・・だが)
――新月流『兜割』――
そのまま振り下ろし盾がまるで豆腐のように斬り裂かれ、そのまま男も斬り裂かれて絶命した。
「まずは1人」
その光景には皆息を呑み驚いていた。
ただでさえ硬い盾がスキルも使えないはずのリュウジンに斬られたのである。
それもまるで豆腐かのようになんの抵抗もなく。
驚かない方が無理な話である。
そしてリュウジンはそのまま皆が動けないうちに魔法使いの女性へと攻撃をしようとしたが、皆が呆気に取られている中でもいち早く行動を起こしたエルフがまたしても援護射撃してきた。
――『乱れアロー』――
その矢の雨をリュウジンは先程までの動きとは一線を画す動きで全て避け魔法使いの首を刎ねた。
そしてその頃には皆が立ち直り動き出した。
前衛が前に後衛が下がろうとし、陣形を組み直そうとしていたので、リュウジンは阻止するために即座に動き出した。
足の速い前衛が後衛の最後尾辺りに来ていた。
「おい!前に出過ぎだ!」
仲間の1人が前衛の男に注意したが、向かい合って走っており既に会敵は避けられないところまで来ていた。
――『天双追斬』――
――新月流『断斬』――
走ってきていた双剣の男もスキルを出したが、呆気なくリュウジンに斬り殺された。
「クソ!!前に出過ぎるなよ!!連携を固めろ!!単騎で倒せる相手じゃないぞ!!」
1人の男が叫んでいた。
(あいつが司令塔か・・・・・・。あの男とエルフの女を優先的に叩く!)
Sideエルフ・トーカ
(ミカとハンゾーをよくも!!何なのあいつ!普段ならあの必勝パターンで終わるのに。どうやってあれを無傷でやり過ごしたっていうのよ。)
――『ウォーターアロー』――
――『トラックアロー』――
(逃げ場を塞いで唯一の逃げ場に目では見えないはずの矢を放ってもダメなの?!それにあいつボローばっかり狙っている。このままだとまずい)
トーカは弓を精一杯引き絞った。
「皆、離れて!」
――『チャージアロー』――
チャージアローの着弾によって辺りが爆せ、リュウジンが見えなくなった。
(この程度で油断は出来ない)
――『乱れアロー』――×5
――『ソニックアロー』――×10
トーカはあの程度でリュウジンが死ぬとは思えずできる限りの矢を放った。
そして矢が土煙に入ろうとした瞬間、突然矢が折れ、次々と全ての矢が撃ち落とされ土煙も打ち払われた。
トーカは驚愕に見舞われた。
スキルが使える状態ならばともかく使えないヒューマンに自身の矢が防がれると思っていなかった。
(まずい!矢が無くなった!)
トーカはそのまま留まるのはまずいと思い咄嗟に後ろに後退した。
しかしそこにはボローが走ってきていた。
本来の連携ではトーカは右に走るべきであったのだが、自らの自信を持った攻撃を防がれた驚愕と矢の本数の管理ミスで気が動転したトーカはミスをしてしまった。
(しまった!!)
気づいた時にはもう遅く、リュウジンも標的2人が固まっている好機を逃すはずもなく既にトーカの目の前まで迫ってきていた。
(避けられない・・・・・・!ごめん。みんな・・・・・・)
そしてリュウジンが刀を振った。
その瞬間トーカの前を何かが遮った。
それはボローであり、身を挺してトーカを庇ったのである
「に、・・・・・・にげ・・・・・・ろ」
(わたしのせいで・・・・・・!)
「ガル!!領域を解いて!!」
そうしてトーカは力を解放した。