56話 山賊現る?
リュウジンが馬車から降りると30人くらいの人が道を塞ぐように立っていた。
「あれか?退屈しのぎのおもちゃは」
よく見るとその人物達は同じ紋章のようなものをどこかに纏っていた。
「あの紋章のようなものはなんだ?」
「あれはクランの紋章です。あの紋章はたしか『山賊ごっこ』というクランだったかと・・・」
ソラは記憶の中から思い出すようにそう言った。
「なんだそのクランは。ふざけているのか?」
「はい。ふざけているのですよ。あの方達は山賊のロールプレイを楽しむ集団ですので」
「ろ・・・ろーるぷれい?」
「イーニヤ商会長がケットシーになりきっていると同じと思っていただければ・・・」
そこにいかにも山賊といった風貌の男が前に出てきてニヤニヤと笑いながら話しかけてきた。
「お前達はプレイヤーか?」
「?ああ」
そう言うとその男はキリっと表情を変えて
「おい!ここを通りたけば1人100万フーロ払うか女を置いてきな!グヘヘへ」
下卑た笑いを浮かべながら男は言ってきた。
そして後ろにいる山賊共も同じく下卑た笑いを浮かべていた。
「400万フーロか?ほら」
ドスん、と400万フーロが入った袋を放り投げた。
「・・・・・・・・」
山賊の男は予想外だと言った感じで固まってしまった。
「ど、どうする?」
「どうするったって払われたんじゃ通すしかないんじゃ?」
「いや、山賊なら約束を破って全て奪うってのも・・・」
山賊達は小声で相談をし始めたが全てこちらに聞こえていた。
「断って戦闘というのが山賊のセオリーですので」
ソラがそう言ってきた
「せっかくの退屈しのぎだ。戦闘だけってのも面白みがないだろ?」
リュウジンは山賊達の反応が面白かったのかニヤニヤと笑っていた。
そうこうしているとリンとテルが降りてきた。
「あ、深紅の戦姫」
「うお!本物?!」
「あれテルじゃん!この後配信見る予定だったんだけど」
「戦姫サインくれねぇかな〜」
(本当に山賊やる気あるのかこいつらは)
「うるさいぞお前ら!!ごほん!っへ、兄ちゃん。お金を払ったからと言って許されると思ったらそうはいかねぇぜ!女も置いていってもらおうか。グヘヘ」
(お、戻ったか。少しのってやるか)
「ふん!山賊風情が下手に出ていれば調子に乗りやがって!」
そう言うと山賊達の表情が目に見えて明るくなった。
「何だと!この野郎!やってしまえ!!」
――「あ、あのサイン貰っていいですか?」
そんな中リンの元に3人の男女がこっちのことはお構いなしでサインをもらいにいっていた。
(やりたい放題だなw)
「・・・はぁ、悪いな兄ちゃんのってもらったのによ」
「いや、構わんさ。ちょうど退屈していたからなかなか楽しめた」
「ちょっと待ってくれ。おい!お前ら!サイン欲しいやつはさっさと行け!」
リンとテルに殺到する中、1人の少年がリュウジンの元に来た。
「あ、あの。サイン貰っていいですか?」
「俺のか?」
別に有名人になったわけでもないリュウジンはなぜ自分のサインなど欲しいのかわからなかった。
「はい!配信の戦闘シーンを見てすごいな〜と思いまして・・・」
「サインなんか書いたことないぞ?」
「名前を書いていただければ・・・」
そう言われたリュウジンはとりあえず渡された色紙にリュウジンと書いた。
「ありがとうございます!大会も応援してます!!」
「お、おう!そういやなんで山賊なんかやってんだ?」
「う〜ん、現実世界では出来ないからですかね。やってみると案外楽しいんですよね」
そう言って満面の笑みで少年は微笑んだ。
「まぁ、それも遊び方の一つか」
その少年の名はストロングと言うらしくなんでも強くなりたくてそんな名を付けたとか。
それから色々とその少年と雑談をしているとサイン会も終わったらしくまた最初の状態に戻った。
「よし!それじゃあ今から簒奪祭だ!!お前らあいつらにお前らの力を思い知らせてやれ!!」
「「「「「おおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
「じゃあ、恨むなよ?」
「安心しろ。負けるつもりなど毛頭ない」
「言うじゃねぇか!!オリジナルスキル『山賊の人質』発動!!」
山賊がそういうとリンとソラが光に包まれ次の瞬間山賊側に大きな檻と共にリンとソラが中に閉じ込められた状態で現れた。
「な、なんっすか、これ?」
「・・・」
「へへへ、山賊といえば人質だろう?これは相手の仲間の半分を強制的に人質として無効化し、捉えた人質の能力値の50%を自らに、10%を味方に加算できるスキルよ!ただし、山賊の頭は最初から攻撃に参加せず下っ端にやらせるから仲間が1/3まで減らないと戦闘には参加できないけどな!」
「俺からお前に攻撃したら?」
「頭は前にでない設定だから、それまではいくら攻撃されても無敵よ!」
「シナリオに沿ったスキルか。なかなか面白いスキルだな」
「だろ?仲間がいないと成立しないのと、相手が1人なら発動できないけどな。乱戦にはかなり強いぜ?」
(なるほど発動条件に縛りがあるタイプのオリジナルスキルか・・・)
ガン!ガン!ガン!
音がした方を見るとリンが全力で檻を殴っていた。
「無駄だぜ!人質は完璧に無力化される。助けられるまでは何も出来ねぇぜ?」
「助けられるのか?」
「やってみるか?」
リュウジンはニヤッと笑いながら檻に向かって走っていった。
山賊の頭は身の丈ほどある大きな斧を取り出して振りかぶった。
リュウジンは避けて檻を斬ろうと思ったが、謎の力により山賊の頭の方に向かっていった。
――新月流『流泉』――
山賊が振りかぶった斧の威力を何とか往なしたが、腕が少し痺れていた。
そして往なした攻撃の余波でリュウジンの背後にある大岩が真っ二つに割れた。
「よく凌いだな。大抵人質解放を選んだやつは今の一撃で殺せるんだが・・・」
「人質を解放するためには山賊の頭は無視できないっことか?」
「おうよ!そして本来なら人質を盾にすることで相手の行動に制限がつくのがセオリーだが、俺の能力では人質に向かってくる人間への特攻付与で攻撃力を増すってわけよ」
「それほどの能力だとデメリットが気になるところだが・・・」
「流石にそこまでは教えねえよ!ただお前さんに対してのデメリットはねぇがな。まずは大人しく俺の部下と遊んでろ。いきなり大将首は狙えねえぜ」
「ただの退屈しのぎのつもりだったが、期待以上に楽しめそうだ」
「ワハハハ!そりゃよかった!このゲームは楽しんでなんぼだからな!よし!お前ら!山賊の力を見せてやれ!!」
「「「「「おおおおおお!!!!」」」」」
山賊達が雄叫びを上げながらリュウジンに殺到してきた。