54話 暗黒騎士との戦い2
暗黒騎士の奇妙な行動に警戒したリュウジンは歩を止め何が起こるのか注視した。
剣が地面に着くと突き刺さるのではなく、剣が消えていき代わりにそこを中心に黒い靄が拡がっていった。
リュウジンは一瞬回避行動を取ろうとしたが即座に避けれるものではないと判断して、何が起こってもいいように警戒を強めた。
靄がリュウジンに迫ってきて飲み込んでいった。
(この黒い靄自体に何らかの効果があるわけではないのか・・・)
そう思いつつリュウジンは遠く離れたところにいる暗黒騎士に目を向けていたが、徐々に靄が空気中にも溜まってくると暗黒騎士の姿が靄に同化し見えなくなっていき赤い目の怪しげな光しか見えなくなった。
そしてその光が見えなくなった瞬間右側の空気が動いた気がし即座にそちらに向けて刀を振った。
するとそこには暗黒騎士がおり、先程の剣とは違い真っ黒な靄で覆われたような流動している剣をもっていた。
(この靄の間を自由に移動できるのか?!・・・それにまだ向こうは本気じゃねぇ。怪我をしてない右手側から攻撃してきやがった。・・・だが、文句を言える立場でもねえな。幸いあの靄で出来たような剣には触れることが出来るようだ。それならば瞬間移動できようと関係ねえ。現れる瞬間の気配さえ読めれば防ぐことは出来る)
暗黒騎士は既に視界内にはおらず靄に紛れていた。
リュウジンは後ろに気配を感じ、振り返りざまに刀を振り抜いた。
受け身になった暗黒騎士に迫ろうと一歩踏み出した瞬間、闇に片足を拘束されつんのめっり手をついた左手も靄に拘束されてしまった。
そして顔を上げると暗黒騎士の周囲に靄で作られた槍のようなものが複数浮いていた。
「あ、やべ」
その瞬間その槍がリュウジンに向かって飛んできた。
――ユニークスキル『天雷纏』――
リュウジンは神獣の眷属との戦いで得たユニークスキルを初めて使った。
雷を身に纏ったことで拘束していた靄を吹き飛ばし何とか槍を避けることに成功した。
今のリュウジンの姿は僅かに発光しており、体をビリビリと電気が流れている状態であった。
現在のリュウジンのHPは131であり、この状態を維持出来るのはあと2分と少し・・・。
天雷纏を解くと靄に拘束され、それを解くすべがないため天雷纏を解くことは出来ない。
なのであと2分と少しがリュウジンに残された時間なのである。
天雷纏の効果でSTRとAGIが大幅に上がったリュウジンは即座に勝負を決めることを選択した。
――新月流奥義『瞬雷』――
相手から全く動いていないように動き突然目の前に現れたかのように見せる新月流の中でも習得難度が高い技を出し、暗黒騎士が靄に隠れないように肉薄した。
そして自身の最大火力で一撃で殺すためにオリジナルスキルを重ねて使った。
――オリジナルスキル『女神の悪戯』――
――新月流奥義『天雷』――
雷のような轟音と衝撃と共に周囲の靄が吹き飛び、そしてその攻撃は暗黒騎士を斬り裂いていた・・・・・・・・・・・・が、
(攻撃の感触が軽すぎる・・・・・・?!)
斬られた暗黒騎士の体はその断面が靄のようにゆらゆらと揺れていた。
そして攻撃によって靄が晴れたところにまた急速に靄が集まったのを見てリュウジンは悟った。
(倒せていないか!あの暗黒騎士は実体ではなく靄であったと言うことか・・・なるほど、このスキルが発動された時点で勝ち目がなかったわけか・・・)
そして天雷を打ったことによる隙を見逃すわけもなく後ろに現れた暗黒騎士に抵抗もできずに斬られた。
――『見所はあった。だが、まだ我が主人足り得ぬ』――
そう頭の中に響いてきたと同時にリュウジンの意識が暗転した。
そしてリュウジンが目を覚ましたのは見知らぬ天井だった。
(どこだここは。そもそも死んだら24時間ログイン出来ないペナルティだったはずだが・・・)
「あ、目を覚まされたんですね!ご自分の名前覚えていますか?」
「あ、ああ」
「よかった〜!重症だって突然運ばれてきたので生きているのが不思議な状態でしたよ〜。いや〜、神の奇跡ってやつですね!」
そう言ったのは若いシスター姿の少女だった。
「ここは帝都の神殿か?」
「はい!そうですよ!」
(なるほど。眷属契約で死んだとしても瀕死扱いということになるのか?それとも死んだけれどペナルティ無く神殿で生き返る設定なのか・・・)
「大丈夫ですか?」
考え込んでいるリュウジンを見て若いシスターが話しかけてきた。
「ああ、大丈夫だ。世話になったな」
「いえいえ、治療費はしっかりもらうので大丈夫ですよ!」
「いくらだ」
「100万フーロです!あ、分割払いでも大丈夫ですよ!」
「た、高いな」
「いえいえ、斬られていた左耳や腕などの部位欠損も治しているんですよ!妥当な値段ですとも!」
えっへん、といった感じでそのシスターが答えた。
リュウジンも現実世界で部位欠損を治してその値段ならたしかに安い方か、と思い100万フーロを渡した。
「おお!意外とお金持ちさんだったのですね!ありがとうございます♪」
そしてそのまま去っていった。
ズバッと失礼なことをいう少女であったが、腕は確かなのだろう。
リュウジンは先程の戦闘を振り返り反省会をしていた。
(最もダメだったことは相手を舐めていたことだ。Cランクなどと不確かなものに踊らされ色眼鏡で相手を見ていた。考えてみれば初めから手加減されていたのだな・・・。初見の相手の動作を見るのは重要であるが、決めれるタイミングに決めることも重要である。そして最初遊ぶ悪癖があると前にも師範の1人に言われたな・・・。全然治せてなかったわけだ・・・。その結果があれか。あの黒い靄が出た時点で俺の勝ち目はなかったのだろう。いや、あの神白の刀ならば勝てたやも知れぬが、武器の力で勝ったとしても認められたかといえばそうは言えんだろう・・・。とりあえずは序盤の見極めのバランスをもう少し強化するべきだろう。よし!反省は終わりだ)
そしてあのシスターに一応声をかけ、神殿を後にした。