48話 仕切り直して
謁見の間に戻ってきた俺はもう一度謁見を仕切り直しをするために跪いていた。
たださっきと違うことは、少し離れた横にリチャードが平伏していることであろう。
「さて、リュウジンよ。見事であった。それに比べ・・・もはや言うこともあるまい。その者を拘束して牢に入れておけ」
陛下は手をシッシと追い払うように振った。
「お、お待ちください!決闘に負けただけで牢にな・・・ヒィィ!!!」
リチャードはさっきまで王の横に居たローランによって首に剣を当てられていた。
ッチ!反応出来んかった・・・。
師範上位か親父クラスだろう・・・。
まぁまだまだ時間はある・・・自分のできることを一つ一つやっていくしかあるまい。
今までとやることは同じだ・・・。
・・・神獣と会ってから妙に焦っていた気がするな。
俺も一度しっかりと精神統一をするべきだな。
「リチャードよ。お前には多くの罪がある」
「つ、罪でございますか?」
リチャードは震えた声で答えていた。
「挙げればキリがないが、その中でもお前の最も重い罪はこの謁見の間で余に嘘をついたことだ。余がお前とリュウジンの会話の内容を知らぬとでも思っていたか?舐められたものよのう」
陛下は頬杖をついた状態でリチャードを上から見下ろしていた。
そして、ここにきてリチャードもやっと自分の置かれた状況を理解した。
リチャードは今にも死にそうなほど顔を青くしながら汗を大量に流し震えていた。
そして、もはや何も言えないのか項垂れた状態ですすり泣いていた。
「ふむ、もう良い。追って沙汰を言い渡す。連れていけ」
リチャードは騎士によって連れて行かれた。
「さて、リュウジンよ。茶番に付き合わせてすまんかったの」
その瞬間、謁見の間に少しの響めきが起こった。
一国の皇帝がこの後叙爵されるとはいえ今はまだ平民のリュウジンに謝罪をしたのである。謝罪と言っても頭は下げず言葉だけの謝罪であるが、本来ならばあり得ないことである。
それだけ皇帝がリュウジンを重要視しているということを意味しているのである。
「一応聞いておくが、まだ何か言いたいことがあるやつはいるか?」
そう言って陛下は貴族共を見渡した。
例え何か言いたいことがあったとしてもこの空気の中で何か言おうものなら貴族として失格であろう。
「ふむ、無いようだな。それでは先ほどの続きをしようか。たしか・・・褒美の話であったな。この帝国を守ってくれたことのお礼に2000万フーロ、そして此度の茶番に付き合わせた詫びに鑑定のスキルオーブをやろう。そしてこの帝国に多大な貢献をしたことを認め、リュウジンに男爵の位を授けテンドロックの姓を与える。今よりリュウジン=テンドロックと名乗るがいい」
鑑定のスキルオーブという言葉が出たときに再度先程以上に響めきが起こったが、皇帝は止まることなく言い切った。
「は!ありがたく頂戴致します」
リュウジンは改めて聞いていた受け答えをした。
「うむ。新たな男爵の誕生である。喝采せよ!」
貴族達が拍手し始め謁見の間は騒々しさに包まれた。
しばらくするとまた静寂が戻ってきた。
「それではこれにて今日の謁見を終了とする」
そう言って皇帝陛下は謁見の間を出て行った。
リュウジンは再び最初の部屋に戻ってきた。
「お疲れ様、リュウジンちゃん♪なんともつまらない劇だったわね。それはそうと叙爵おめでとう♪」
「ふん!」
爵位をもらっても何も嬉しくないリュウジンであったが、皇帝の使用人がたくさんいるこの部屋でそれを言わないくらいの配慮はできた。
マックスもそれに気づいており、特に気にすることもなかった。
「リュウジン様、お疲れ様でございました」
「ああ、俺も色々助かった。礼を言う」
「滅相もございません。お礼なら陛下にお伝えください」
ボードは恭しく礼をした。
それからリュウジンは服を着替え、待ち時間にお茶を飲んでいた。
「それでは最後に、こちらが貴族街、皇城に入城するために必要な許可証となります。リュウジン様が許可なされた方を貴族街に招き入れることが出来ますが、その者が何か問題を起こした場合、リュウジン様にも責任が及びますので信頼できる方以外は入れないようお願い致します。そしてこちらが貴族街で自身の別荘を買うことが出来る権利書となります。ただし買うことができる地区が決まっておりますのでご注意ください。次に、陛下からのお詫びの品である鑑定のスキルオーブとなります」
「スキルオーブってのは貴重なものなのか?」
マックスの方を向いて尋ねた。
ある意味ここでこれを尋ねることは無礼ではあるが、謁見の間からずっと気になっていたことなので聞いたのだった。
「貴方があのお方から貰ったものに比べたらそうでもないけど、それでも普通のスキルオーブも一般的な感覚ではかなり高価で貴重な物よ。オークションとかにたまに出品されるけれど毎回数億フーロは下らないわ。男爵にお詫びの品として渡されるようなもんじゃないわよ」
「そうか。ああ、すまんな」
ボードを待たせたままであったことに気づいて話を切り上げた。
「いえいえ、構いません。そしてこちらが2000万フーロとなります。ご確認ください」
リュウジンは確認なんてめんどくさいことをするつもりはなかった。
そしてそれは図らずも正解の行動であった。
ボードは王家直属の諜報機関の長であった。
そして今回ボードはリュウジンがこの帝国に害をなすかの見極めを任されていた。
そしてその結果は「限りなく低いだろうが、場合によってはあり得る」
というものだった。
その場合というのが理不尽なことや曲がったこと、または敵になること等が挙げられる。
リュウジンからも敵対の意思は感じられず、こちらがしっかりと対応すれば礼を持って接してくれることからも合格であり、最後の確認しないという行為は皇家を全面的に信頼しているという風にも捉えられた。
もちろんリュウジンの性格上面倒くささもあるだろうとは思ったが、今まで平民だった人物がまさかお金などどうでもいいなどと考えているとは思えなかったのである。したがって、少なからず皇家を信頼している、という捉え方をした。
そして、そうこうしているときにふと扉の外が騒がしくなってきた。
そして、バンっ!、と少し荒々しくメイドが扉を開いた。
ボードは眉を顰め
「お客様の前ですよ。弁えなさい」
そう叱責するように言った。
「す、すいませ。あ、あの・・・陛下が・・・皇帝陛下が・・・此方に・・・」
メイドがかなり慌てて話していると
「ふむ、先ぶれはいらんと言ったのだがな」
と、後ろから陛下と近衛騎士団長が入ってきた。