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Recreation World ~とある男が〇〇になるまでの軌跡  作者: 虚妄公
第2章 ダンジョン探索編
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44話 謁見

 謁見の間に入ると既に多くの貴族が中で待っており、不躾な視線をこちらに向けてきた。

 そんな貴族共は無視して真ん中の大体言われた位置まで行き片膝をついて頭を低くした。

 目の前の少し高いところに豪華な椅子があった。


「皇帝陛下がお越しになりますので、皆様頭を低くしてお待ちください」

 宰相がそういうと端に並んでいた貴族が同じように頭を低くした。


「皇帝陛下のご入場〜」

 前の教訓を活かして気配を探ることはやめておいた。


 そして誰かが、ドサ、っと座る音がした。


「皆の者、面をあげよ」

 他のものはそれで頭を上げたが、リュウジンはまだ下げたままであった。


「さて、リュウジンよ。面を上げよ」


 そしてリュウジンは顔を上げた。

 皇帝は謁見にふさわしい煌びやかな装いをしており、少し厳つい顔をしており口に髭を生やした40代くらいのどっしりとした男であった。


「余がこの帝国ブロンテルの皇帝、カールマン=フォセ=ブロンテルである。

 此度の働き誠に大儀であった。帝国の皇帝として礼を言おう。帝国の民として良く帝国に尽くしてくれた。その功績をもって・・・」

「お待ちください、陛下!」

「・・・なんだ」

 言葉を遮られたことによって不機嫌になったのかジロリと遮ってきた男を見た。

「バッロク伯爵家が長男リチャード=バロックと申します。陛下のお言葉を遮ってしまい申し訳ございません。しかしながらお伝えしておきたいことがございます。そこにいる平民の男はこの国の出生届もなく入国記録もありません。更にはどの領地を通った記録もないのです。ゆえに帝国の民ではないのです。他国のスパイやもしれないでしょう。そのような者が帝国の領地で手に入れた大事な物を持つことなどあってはならないことでしょう。帝国の物は帝国の元へと返すべきなのです」

 その男は自分に酔いしれているかのように得意気に話していて皇帝陛下の視線など全く気づいていなかった。

「・・・それで?」

「はい、先ほど私がこの男に会いに行って真偽を問いただしたところ、自分は他国のスパイではない。疑われるなら快く貴方にお譲りします。と帝国への返還に快く応じてくださいました」

「ふむ、聞きたいことはいくつかあるが・・・、まずは余は今日、あの棟には何者も近寄るべからず、と厳命したはずであるが?」

「は、陛下の命を破ってしまい申し訳ありません。しかしもし他国のスパイであったのなら陛下の身に何かあっては遅いと思い、いても立ってもいられず強行させていただきました。しかし命を破ったのは事実でございますので後ほど罰はいかようにも・・・」

「宰相よ。スパイであるかもしれぬという届け出はあったか?」

「いいえ、ございませんでした」

「ふむ、そう思ったならなぜ報告していない?」

「ただでさえ忙しい陛下のお手を煩わせる必要がないと思ったためでございます。忠臣リチャード御身の為ならば差し違える覚悟で実行させていただきました」

「そうであるな、余は忙しいのだ」

 皇帝にとっては忙しいにもかかわらずこのような茶番を引き起こしたリチャードに対する皮肉の言葉であったが、バカなリチャードにそんなことがわかるはずもなく肯定の言葉だと思い気を良くして更に話を続けた。

「さて、それじゃあ次だな。譲ると言われたとそなたは言ったがその物は今はそなたが持っておるのか?」

「いいえ、一応皇帝陛下にお伺いを立てた方がいいだろう、ということになりまだ持っておりません。どうか私が所有する許可をいただけないでしょうか」

 そう言ってリチャードは平伏して懇願した。

「お前でなければならん理由はなんだ」

「は、自由に動くことができある程度の強さを持っているものは限られます。その条件を満たしている中で最も持つに相応しいのが自分であると愚考した次第でございます」

「それで、もしその男が他国のスパイであったとして、その物を手に入れてどうするつもりだったのだ?」

 もはや皇帝陛下はお前など信じていないと言っているに等しい質問であるが、それに気づかないリチャードは未だに上手いこと事が運んでいると思い言い募るのであった。

「は、他国のスパイから奪還した後は、一度陛下に献上させていただいて改めて許可をいただきたく考えておりました」

「もうよい」

「は、それでは・・・」

「何を勘違いしておる。もう良いと言ったのはお前の三文芝居である」

 リチャードは平伏したまま、ビクッ、となっていた。

「さて、リュウジンよ。今のこいつの言葉は事実であるか?」

「いいえ、違います」

「き、貴様!平民の分際で楯突くつもりか!!」

「黙れ。今お前に発言権を与えた覚えはない。余はリュウジンと話しておる」

 皇帝の威厳か強者の圧迫感とはまた違った圧迫感がこの場を支配していた。

「それで、どのような話をしたのだ?」

「突然部屋に押し入ってきて、『お前の持っている挑戦権とやらは俺が貰ってやることにした。ありがたく思うんだな』、というような発言をしてそのまま帰っていきました」

 リチャードは顔を真っ赤にしているが、先程注意されたばかりなので口を挟めずにいた。

「それを証明できるものはいるか?」

「その場にいたのはマックス=マ・・・男爵と陛下が用意してくださった使用人達がおりました」

「宰相よ。ボードを呼んでこい」

「は!」

「マックス=マッドローグ男爵よ、前に出てこい」

「は、マックス=マッドローグ陛下の命により御身の前に参上いたしました」

「さて、聞いていたとは思うが、このリュウジンの言った言葉に相違はあるか?」

「いいえ、ございません」

 そこに宰相が来て陛下に耳打ちをした。

「連れてまいれ」

 そういうと謁見の間の扉が開かれボードが入ってきた。

「陛下の命によりこのボード馳せ参じましてございます」

 ボードは片膝をついてそう言った。

「さて、説明はいるか?」

「いいえ、不要でございます。リュウジン様のお言葉全て事実であると保証いたします」

「へ、陛下。此奴らは結託して私を嵌めようとしているのです!!男爵や使用人風情の言うことなど信じてはいけません」

 もはや顔面蒼白になりながらもまだ醜く足掻いている姿に周りの貴族も顔を顰める者が出てきた。

「あら、貴方は伯爵代理でしょう?いくら伯爵代理といえど一時的なもの。身分的には男爵家当主の私の方が上よ?今の理論でいくなら信じるべきは私と言うことになるわよ?」

 ただただ自分は偉いという自尊心だけが高くなっていたリチャードはロクに勉強もしていなかったのでそのようなことも知らなかった。

「黙れ!男爵風情がこの僕に口答えするんじゃない!僕は次期伯爵だぞ!お前のような成り上がり男爵とは格が違うんだ!陛下!何卒そこの平民と決闘する許可をいただきたい!国宝に値するものを平民ごときが持っていて良いものではないのです!陛下ならお分かりになられるはずです‼︎」

 貴族における決闘とはその過程を一切無視し勝った方が全てを手に入れることができるものであった。旗色が悪くなってきたと思ってきたリチャードは決闘に持ち込み強引に事を進めようとしていた。

 バロック伯爵家自体は融和派であるが、リチャード自身は生粋の貴族派としての考えが染み込んでおり、何の根拠もなく平民より自身の方が優れていると思っていた。

 そして学院での剣術大会で3位という成績を残しているため、貴族の中でも優れている自分が貴族に劣る平民に負けるはずがない、そのような平民ごときを認める神獣も大したことがないのだろう。挑戦権を手に入れて自分が討伐して成り上がってやる!としか思っていないのである。

 この時皇帝はもはやリチャードの何らかの処罰は確定としていたが、最後に思わぬ提案をしてきたのでリュウジンの不興を買うかもしれないことを承知の上で乗ることにしたのである。

 実際リュウジンの戦闘力を知ることは、いずれしなければならないことであったためこの機会にそれをしようと思った。

 この程度の男に負ける程度ならば適当に褒美を与えて飼い殺しにすればいいし、勝つのならそれもまた良し。むしろこの程度のやつに勝てないようじゃ必要ないといった感じに考えていた。

「リュウジンよ。どうだ?やってみるか?」

 リュウジンはずっと言いたい放題に言っていたリチャードを見て鬱憤が溜まっていたこともあり、皇帝陛下の前であるにも関わらず表情を崩しニヤッと笑って

「願ってもない」

 と言い捨てたのであった。

「ハハハハハ!先程までの顔より断然いいぞ!余を楽しませてくれよ?」

 そしてリチャードの方を向いて

「そしてお前。負けたらわかっているだろうな?」

 ジロっと睨んで言った。

「は、はい!必ずや陛下のために勝利を手に入れてご覧になりましょう」

 震えた声でそう言った。


 リチャードの罪は多い。

 まずは、陛下の命に背いて独断で棟に押し入ったこと。

 伯爵代理の身分でありながら謁見の間で発言したこと。あくまで代理であるので見聞きし当主に伝えるのが役目である。したがって会社に見学にきた学生が許可もなく突然会議の場に押し入ってあれこれと口出ししてきたようなものである。当然やってはいけないことである。

 そして、爵位を持たないリチャードが爵位を持つマックスに対する暴言

 さらには、皇帝陛下への虚偽の発言。これは陛下に対する背信行為に当たる。

 罪には問えないが陛下や他の宮廷貴族の思惑を潰しているという、全員を敵に回す行為を平然と行ったリチャードに未来などないのである。

 更にもしこの場に他国の人間が居たなら、リュウジンがこの国の国民ではない、という発言は他国が入り込む隙を与えることになるので即座に首を刎ね飛ばされていた可能性もあったが幸いかどうかはわからないがいなかったので助かっていた。

 しかし即座に処刑されないのは、仮にも外務大臣の息子であり、バロック伯はかなり優秀であったため今後の選択肢は多く残しておきたいと考えたためである。

 ただし何らかの処分を受け、2度と表には出てこれないのは確定しているだろう。



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