42話 皇城へ向かって
次の日、いつも通り基礎鍛錬を終えた真一は自室に向かおうとしたが、そこで凛が話しかけてきた。
「あ、先輩!今日はリクルドやるっすか?」
「おう、やるぞ」
「じゃあ一緒に冒険しないっすか?なんかこのタイミングでアップデート入ったらしくて塔やダンジョンってのが追加されたらしいっす。あと大会の詳細なんかも出たらしいっすよ」
「あ〜、午前中はこの前の件で皇帝に会わなきゃいけねえんだ。いつ終わるのか知らんがそれが終わった後ならいいぞ」
「じゃあ終わったらDMくださいっす。それまで塔やダンジョン探しとくっす」
そう言って凛は去っていった。
すると前から袴姿の親父が歩いてきた。
「最近道場外で何やらやっているらしいな」
「ハっ!秘密の特訓ってやつよ。次の試合で師範連中をぶっ飛ばして親父に挑戦してやるから待ってろよ!」
「ふっ。楽しみにしておこう」
終始厳かな顔をしていた玄光であるが、真一のその言葉を聞いて少しだけ口角が上がった。
そもそも玄光はまったく浮ついた話を聞かない真一が最近凛とデートしていると言った話を聞き探りを入れたのだったが、真一の言葉を聞いて既に忘れていた。
――∇∇――
リュウジンはリクルドにログインして、まずはイーニヤ商会に寄った。
「どうしたにゃ?」
「リンにアップデートがあったって聞いたんでな。その情報を聞こうと思ってな」
「何から聞くにゃ?大会について、塔について、ダンジョンについて、そして塔やダンジョンの場所についてにゃ!」
アップデートされて3時間あまりしか経っていないが、イーニヤはイーニヤ商会の人脈を使って既に塔とダンジョンの場所を発見していた。
そしてそこは一般的には見つけづらい場所なのと、発見者の意向から「親しい人」にのみ売れる情報だった。
そして貴族の情報で役に立てなかったイーニヤはここで挽回しようとしようとしていたのだった、が
「塔とダンジョンに関しては今はいい。とりあえず大会について教えてくれ」
「にゃっ・・・」
思惑が外れてしまって少し固まってしまったイーニヤであるが、しょんぼりしながらリュウジンに情報を送った。
そんなイーニヤをリュウジンは不思議そうに見ていた。
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帝国闘技大会の詳細
予選期間
8/15 9時〜18時
本戦期間
8/16~8/18
参加資格
前日までに参加申請し帝国内にいること。(参加申請はコチラ)
予選内容
帝国の宮廷魔導士によって作られたフィールドにおけるサバイバル戦
初め全ての参加者は10pt所持した状態から開始する。
倒した人が所持しているポイントが自身のポイントに加算され、予選終了時点でポイントが多い128名が本戦に進むことができる。
また、6分に一度フィールドにいる参加者に1pt与えられる。
倒された人は復活することはできない。
倒されたとしても自身の所持していたポイントは無くならず、そのポイントが自身の最終的なポイントとなる。
消費アイテムの持ち込みは原則10個までとする。
(ただしマナポーションの持ち込みは無制限とする。)
本戦内容
128名による1対1の勝ち上がり式のトーナメント戦。
Aブロック、Bブロック、2つのブロックに分かれてトーナメント戦をし、それぞれのブロックで最後に勝ち残った2人で決勝を行い最終的な優勝者を決定する。
消費アイテムの持ち込みは原則禁止とする。
(ただしマナポーションの持ち込みは無制限とする)
報酬
不明
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「報酬の記載は無かったけど上位入賞すればスキルオーブが手に入ることは間違いないにゃ。あとは今回のこの記載にプレイヤーという記載がにゃいので推測にゃがNPCも参加する可能性があるにゃ。そもそもこの大会自体数年前から開催されている設定らしいにゃからむしろ出てこない方がおかしいにゃ。ただ貴族当主と騎士団所属の人は基本的に参加することはないらしいにゃ」
「ほぅ」
リュウジンは正直プレイヤーの強さにはあまり期待していなかった。たしかにスキル次第では自分とも渡り合えるだろうが、それでも今回の報酬を使えば容易く勝てるだろうと。だからこそ対人戦においては「神白の刀」など一切使うことがなくスキルもなるべく使わずに戦おうと思っていた。しかしNPCには自分より遥かに強い人物がいることを知っているためリュウジンはNPCの出場と聞き期待に胸を膨らませた。
「それでこの情報はいくらだ?」
「あ〜、ほとんどは簡単に手に入る情報にゃからサービスでいいにゃよ。またいい情報が手に入ったら持ってきてにゃ」
「ああ、それじゃあな」
リュウジンはイーニヤ商会を出て冒険者ギルドに向かった。
ギルドが見える位置まで来ると入り口に馬車が止まっているのが見えた。
そして馬車の横にマックスがいつもと違って今にも破れんばかりのピッチピチの礼服で立っていた。
マックスがリュウジンを見つけると話しかけてきた。
「あ、リュウジンちゃん。ちゃんと来たわね♪」
そういって小さく手を振ってきた。
「あ〜、礼服は持ってねぇんだが・・・」
リュウジンはマックスの姿を見て、しまったな、と思ったが
「大丈夫よ。普通平民で礼服なんて持っている人なんてそうはいないから皇城で借りれるわよ♪言っておけばよかったわね、ごめんなさい。さぁ乗って」
――なんかのイベントか?
――あの人って・・・
――今日なんかあったっけ?
ギルドの周りにいたプレイヤーの視線を浴びながらリュウジンは馬車に乗り込んだ。
「とりあえず今後の段取りを説明するわね。まずは皇城に着いたら客間に通されて服や注意事項を確認されるわ。そしてその後に控え室に行って、謁見の間に通されて謁見して退出という流れよ」
「まぁとりあえず流れに沿っておけばいいんだろ?あと礼儀作法なんて知らんぞ?」
「まぁ相当無礼なことをしなければ問題ないわ。ただバカな貴族が絡んでくるかもしれないけど構っちゃダメよ。とりあえず黙ってなさい。言質を取られなければなんとでもなるわ」
「ああ、わかった」
「それとインベントリから武器が出せないように皇城に着いたらブレスレットが装着されるけど大丈夫?」
「ダメだ・・・・といったら着けなくてもいいのか?」
「ごめんなさいね。つけるのは義務なのよ。ただ腕に何かをつけるのが嫌なら他のものにも変えてもらえるのよ。戦う者にとって少しの違和感で色々変わるもの」
「戦えないようにするためにつけるんじゃなかったのか?」
「武器はなくても拳はあるでしょ?もちろん皇帝陛下を殴るなんてすれば即座に首が飛ぶけど、配下の貴族くらいならもし強引に何かをしてきたら殴り飛ばしていいわよ。殺したらダメだけど、今回に限っていえばあなたは公爵家と同様の価値があると見做されているからそのくらいなら大丈夫よ。まぁもちろんタダで釈放ってことにはならないから最終手段として考えていて欲しいけどね♪」
マックスと話しているうちに皇城に着いたようだ。
皇城はこの都市の中心にある。
帝都は円形の都市で最も外側が誰でも入れる地区となっており南側が広間や冒険者ギルドなどの公共施設、東側が鍛冶屋や武器屋などの職人地区、西側が商店や薬師などがいる商業地区、北側が帝都に住んでいる人の家がある住宅地区となっており、その内側に貴族が住む貴族街があるのだ。
貴族街に入るのにも平民は許可証がいるため商人などはどうにかして貴族とのコネが欲しいのである。
「マックス=マッドローグ男爵よ」
「は、確認いたしました。それでは恐れ入りますがこちらの封魔のブレスレットをお付けください」
そしてマックスと俺は腕にブレスレットを装着した。
すると魔法が使えなくなり、アイテム欄も開けなくなった。
「さあ、行くわよ」
そして少しの間馬車で移動すると馬車が止まった。