41話 帝国の貴族
「リュウジン君は明日皇帝陛下に謁見するだろう?それでこの国の貴族の情報ともう一つ役に立ちそうや情報を教えてあげるよ」
リュウジンは実際貴族の情報をどう集めようか迷っていたのでこの提案はありがたかった。イーニヤにも聞いてみたが、貴族の内情を説明できるほど詳しくは知らないと言うことだったのでそれほど情報が手に入らなかったのである。
敵になるかもしれない者の情報は集めれるだけ集めるのが当たり前のリュウジンにとって情報の入手源がないのは死活問題だった。
「まずはこの国の貴族構成からだね。頂点が皇族なのは当たり前として、公爵家が2つ、侯爵家が4つ、伯爵家が8つ、子爵家が12つ、男爵家が34つある。帝国には領地が15つあって領地を持っているのは侯爵家以上の貴族と伯爵家が5家と子爵家が3家となっているよ。あとは宮廷貴族や冒険者ギルドのギルドマスターのように何らかの功績で貴族となったもの達だ。まぁ基本的に覚えておくのは侯爵家以上でいいよ。まずは皇族だね。皇族は現在、皇帝陛下、皇后、皇太子殿下、皇女様が2人いらっしゃる。そしてこの国では皇帝陛下が絶対の君主であり貴族であろうと逆らうことは出来ないほどの力を持っている。皇帝陛下が白であろうと黒といえば黒になる。次は公爵家だね。
アヴェイロン公爵家とエルドルド公爵家の2家だね。アヴェイロン公爵家は時空間魔法の使い手を輩出している家で今の騎士団長がこの家門出身だね。エルドルド公爵家は剣術と5大要素を組み合わせた戦闘が得意な家門だね」
「5大要素とはなんだ?」
「あれ?知らない?5大要素ってのは火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、雷魔法の総称のことで、これらが進化したスキルもまぁ基本的には5大要素っていうんだよ。これらを巧みに操って剣術までこなすからね。当主クラスになるとなかなか強いよ。そして君はなぜだかこの家の公女様に睨まれているみたいだよ」
心底面白そうに言い放った
「恨まれるような覚えはないが・・・そもそも会ったこともないだろうし」
「まぁただの逆恨みだろうね。性格は苛烈だけど曲がったことはしない子だから闇討ちの心配なんかはしなくていいと思うよ。ちなみに公女様は現役のSランク冒険者だから舐めてかかったらダメだよ。言うまでもないと思うけどね」
「こちらから接触することはないだろう」
「で、最後が侯爵家。アファルド侯爵家、ホンドミルド侯爵家、ワドニール侯爵家、ザガドラール侯爵家がある。アファルド侯爵家とホンドミルド侯爵家は根っからの貴族至上主義なんだ。アファルド侯爵家は君も覚えがあるんじゃないかな?」
「ああ、あの馬車か」
少し思い出し威圧が漏れたがその程度でどうにかなるものはこの場にはいなかった。
「そうそう。貴族も一枚岩じゃなくてね。貴族派、融和派、中立派に分かれているんだ。
君が特に注意しないといけないのが貴族派で侯爵家以上ならアファルド侯爵家とホンドミルド侯爵家が貴族派にあたる。ただこの2家は両方とも文官の家系だから武力でどうこうしてくることはないだろう。もし暗殺依頼が来ても断るしね。君からしたら裏でコソコソとやられる方が嫌だろうけど何かしらしてくるかもしれないから注意してね。まぁ明日のことでバカなことをするやつは本当のバカだと思うけどね。・・・ところがどっこい、そのバカがいそうなんだ」
心底楽しそうにドゥは話を続けていた。
「明日の謁見ではね、領地持ちと伯爵家以上の貴族は謁見の間にいないといけないんだけど、その中にバロック伯爵家ってのがあってね、現当主は外務大臣でいま聖国に行っていていないんだ。だからその代理として次期当主の息子が出席する予定なんだ。そして現当主と違ってかなりの野心家でどうにか侯爵家に上がろうと色々してるんだよ。そんなときに君のような平民が国にとって重要なものを持っていたら・・・。まぁ何かしら行動を起こすだろうね〜」
笑みが抑えられないのかニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべて何をするのか思い浮かべていた。
「当主ならば当然神獣に関することは教えられているけど、次期当主の彼がもし詳しくは知らないとしたら・・・まず間違いなく奪いにくるんじゃないかな?平民ごときが〜とか俺が貰ってやる、なんて言ってさ。ハハハハ」
ついに耐えきれなくなったのか笑い始めた。
「まぁそこまでバカじゃなければ何も起こらないだろうけど、念のためにね。フフ」
「まるで何か起こってほしいみたいだな?」
するとドゥは席を立ち
「その方が面白いじゃないか。それじゃあ今日はこれくらいで失礼するよ。今後ともよろしくね?これ僕のIDだから何かあったら連絡して」
「それではリュウジン殿、失礼致します。また戦える日を楽しみにしておりますぞ」
そう言ってサンク共々去っていった。
「あ〜、・・・改めて自己紹介するがロデムだ。まぁしがない情報屋だな。あいつらのせいで予定が狂っちまったからやりにくいぜ」
「予定?」
「要は、俺もお前さんと懇意になろうとしていたのさ。気になるやつにちょっかいかけて何度か依頼を頼んで信頼できるやつか見極めたら情報屋って明かしてお互いwin-winな関係になるってわけよ」
「だがあの段階なら情報屋って明かさなけりゃ良かったんじゃないのか?」
「そっちの方がリスクが高えと判断したんだよ。俺もあいつとお前が殺し合ったのは知ってたからな。いきなり訪ねたら自分を殺しにきたやつと密会のようなことをしてましたって状況見たら流石に無理だろう?それなら情報屋って教えてまだ売り手と客の関係だって思われる方がマシだからな」
「たしかにな」
「まぁもし何かあればまたここに来い。金は貰うがな」
そしてリュウジンは酒場を出てログアウトした。
――去っていった後のドゥとサンクの会話――
「彼をどう思った?」
「素材としては原石でしょう。しかし磨けば何にでもなる原石ですね」
「負けたそうじゃないか」
「フフフ。楽しい戦いでした。久しぶりにあれほど血が沸き立ちましたよ」
「全然本気じゃなくともかい?」
「戦いにおいて大事なのは本気で戦えるかではなく、相手との同心なのですよ。不純物なくただ殺し合う。素晴らしいことです。最近の若者は死にたくないなど憎悪、恐怖などといった雑念が多すぎます」
「それでも本気で戦えればそれこそ最高なんでしょう?」
「当然ですとも。最高の状態で最高の殺し合い。想像しただけで・・・」
そして常に紳士な振る舞いだった男の顔が口角がありえないほど上がり見るものを恐怖させるものとなっていた。
「顔顔。すごい表情だよ?」
「おっと。これは失礼しました」
「あ、そういえばあなたが女性ってのは本当なのですか?」
「フフフ。秘密」
そうして2人は闇の中に消えていった。