40話 ウォッカムの酒場
ドーラ工房を出た後に改めてイーニヤ商会に寄ったが、
結局、誓約魔法によって詳細を喋れなくなったリュウジンはイーニヤにほとんど何も言うことができなく、「巫女服姿の生物に助けられて生き残った」程度の情報しか言えなかった。
それを聞いたイーニヤは口を開けて固まってしまい、そのまま死んだように倒れてしまった。
その後、ここ数日の大変さを聞かされた俺はとりあえず手に入れたユニークスキルの情報を売った。
俺は悪くないはずだけど、流石にイーニヤがあまりにも可哀想な有様だったのだ。
それから少しの間質問をされたが、流石に新月流の技について教えるわけにはいかず、スキルではないことと当たり障りのないことは答えておいた。
そしてイーニヤ商会を後にしたリュウジンは初日に出会ったロデムを尋ねるために『ウォッカムの酒場』に向かっていった。
『ウォッカムの酒場』に入ると昼前だからかそれほど人は多くなかった。
リュウジンはさっと周囲を見渡したがロデムらしき人物が見当たらなかったのでカウンターにいるマスターに聞いた。
「すまんがロデムってやつがここにいるって聞いたんだが知らんか?」
マスターはスゥとメニュー表を出して指でトントンとしてきた。
「ここは酒場だぜ。何か聞きたいなら、なんか頼んでからにしな」
「すまんな。それじゃあ・・・、カルーアってのを」
「お前さん未成年だろ?酒はダメだぜ」
ゲームの中でなら飲めるのかと思ったが、その辺もきっちりしてるんだな。
そもそもどうやって未成年って判断してるんだ?
「じゃあ、普通にコーヒーで」
そしてマスターは奥へと入っていき少ししてから戻ってきた。
「おい、ついてこい」
そういって手招きしてきた。
店の奥へ入っていくとマスターは、ここだ、と言って店の方に戻っていった。
言われた扉を開け個室の中に入ると中にある丸テーブルの周りに座っている3人の男がいた。
リュウジンはその男を見た瞬間腰にある刀に瞬間的に手を伸ばした。
「おう、お前さんか・・・。まぁこいつらは敵じゃねえよ。まぁ信じられねえだろうがな」
ロデムはリュウジンが刀に手をかけているのを見てそういった。
リュウジンも目の前に座っている人物に敵意がないのはわかっていたので刀に手をかけたが抜く気はなかった。
「お久しぶり・・・と言うほど日にちも空いていませんが・・・。とりあえず敵対するつもりはありませんのでお座りになりませんか?」
そこにいたのはコロームの森で戦った執事服の初老の男だった。
リュウジンは丸テーブルの空いているイスに座った。
そこにマスターがコーヒーを持ってきてそのまま部屋を出ていった。
「それで?こんな場に俺を呼んでどう言うつもりだ?」
「俺も本来ならこんな場に誰かを呼ぶつもりなんてなかったさ。先方の希望でね。仕方なくだよ」
ロデムは頭をガシガシと掻き、フン、と不本意そうな顔で吐き捨てた。
「すまないね、ロデム。この埋め合わせは今度するからさ」
そう言って今まで話していなかった細身だがしっかりとした身体付きの優男のような人物がニコッと笑って話した。
「ッケ」
ロデムはソッポを向いたが、これ以上何かを言う気はないようだ。
「さて、それじゃあはじめましてリュウジン君。まずは自己紹介、と言っても本名は言えないんだけどね。僕は帝都の暗殺者ギルドの副会長を務めているんだ。ドゥと呼んでくれ。」
「私も暗殺者ギルド所属の暗殺者です。この前は楽しい殺し合いをありがとうございました。どうぞサンクとお呼びください、リュウジン殿」
「ロデムさんは自己紹介しないのかい?」
終始笑みを浮かべているドゥがロデムに向かって言った。
「俺はロデムだ。この帝都で情報屋をやっている。本来なら顧客と会っているときに別の顧客を入れるなんて俺の信条に反するんだが!!こいつらが脅してくるから仕方なくお前を入れることになったわけだ!!俺のせいじゃねぇからな!」
完全に不貞腐れた様子でロデムはドゥとサンクの方に向かって怒鳴ったが
「脅したなんて心外だな〜。ただ少しお話ししただけじゃないか」
「私は特に何も言ってなかったのですがね」
2人は悪びれた様子もなく言ってのけた。
「それで何の用だ?」
「ああすまない。本当は別のところで接触するつもりだったんだけど何の仲介もなく接触すれば警戒を持たれてしまうと思ったのでね。謝罪をしたくて会わせてもらったんだ。本当に申し訳なかった」
そう言ってドゥは頭を下げた。
「本当はトップが頭を下げるべきなんだが・・・表に出れない理由があるんだ。申し訳ないけど僕の頭で許していただけると嬉しい。その代わりと言ってはなんだけど暗殺者ギルドへの借りが一つできたと思って欲しい。僕たちは暗殺しかしてないと思われがちだけどあらゆることに幅広く手を伸ばしているんだ。だから一般の人が知らないことやできないことでも大概は手に入れられるよ。何か欲しいものがあれば素材でも情報でもタダでとはいかないけどだいぶ割り引いた価格で請け負わせてもらうよ。どうだろうか?」
「殺しの道具にまで責任を取れと言うつもりはない。そもそも謝罪というのが意味がわからん。お前らは依頼を受けて殺し合った、それだけじゃないのか?そこに謝罪の要素などなかろう」
「まぁそうとも言えるんだけどね。今回の件は言い訳になるんだけど暗殺者ギルドに所属している末端と幹部の暴走でね。本来なら依頼対象と接触対象の情報を隅々まで調べ上げた上で受けるか決めるんだけど、そこで不正があったみたいで本来なら受けるはずもない依頼だったわけさ。そのおかげで今は、冒険者ギルドと国に少し睨まれているから君に謝罪して好感度を上げておこうというのが一点。そして君とは敵対するよりも友好的な関係でいたいというのが我がギルドの総意でね。そのための関係改善のための謝罪というわけだよ」
「謝罪を受け取るのはかまわん。そもそも気にもしていなかったしな」
「ははは、そう言ってもらえると助かるよ」
「それじゃあ謝罪ついでに一つ聞いてもいいか?」
「なんだい?」
気分を良くした感じでドゥはリュウジンの言葉に耳を傾けていた。
「何で女なのに男の格好をしてんだ?暗殺者なら女の方が何かと有利じゃないのか?ああ隠してたいのなら無理に答える必要はないぜ」
ピクッ、とずっと笑みを浮かべていた顔が動いた。
「別に隠しているわけじゃないが、骨格も男、声も男、全て完璧に偽装できてると思ってたんだけどなぜバレたのかな?」
自分の体を見て首を傾げながら言った。
「ああ、俺の特技みたいなもんだ。そういうのは感覚的にわかるんだ」
リュウジンの『五感の強化』は目で見えないものまでわかる。どれだけ骨格や風貌を変えようとも男と女が持つ雰囲気までは変えられないのである。そしてそれを知覚できる人もそうそういないが・・・
「自信をなくしちゃうな〜。これまで変装がバレたことはあったけど性別まで見抜かれたのは2人目だよ」
「バレてるけど指摘されてないだけじゃないのか」
「それはないよ。僕もね特技でそういうことがわかるんだ」
今までで1番邪悪な笑みでそう言った。
「おっと。そういえばなぜかって話だったね。最初は舐められないようにって感じだったけど今は正体がバレるのを防ぐためかな?僕のことはボス以外誰も知らないからね。バレる心配もないし、普段は気軽に生活したいじゃないか。まぁ君にはバレてしまったわけだけど、元の姿形がわかるわけじゃないんだろ?それとも見れば分かってしまうのかな?」
「元の姿形はわからん。それと見ればわかると言われたらお前は無理だろうな。普通のやつなら特有の気配があるが、お前の気配は読みづらい・・・というよりも覚えづらいか。意図的に覚えにくい気配にしているな?」
「すごいね君。そこまでわかるんだ。これはいい拾い物だったかな?僕たちの判断は間違ってなかったわけだ。驚かせてもらったお礼に1ついい情報を教えてあげるよ」
ドゥはそう言って満面の笑みを浮かべた。
やっと初期のクエスト回収〜