24話 中域
3人は警戒をしたまま森の奥までどんどん入っていき、中域らへんまで来ていた。
「しっかし、薄気味悪い森っすね〜。前にもこの森に来たことあるっすけどもはや全く違う森っすね」
「これがモンスターの仕業だとしたら森全体に影響を及ぼすほどのモンスターってことですよね・・・?もし見つけた場合どうしますか?」
テルはリュウジンに今後の行動を決めておこうと思って話しかけた。
「見つけた場合はまずは様子見だ。勝てそうなら挑むが、勝てなさそうなら撤退を視野に入れる。もしこちらが見つける前に見つかった場合は戦うしかあるまい。もし勝てなさそうなら俺が足止めするから2人は逃げるといい」
「あたしもっすか?」
「こいつ1人であのモンスターの群れがいた場合突破出来んだろ。情報を持ち帰るためにもお前は逃げろ」
一応リュウジンは依頼達成のことも視野に入れつつ、ただ戦ってみたいという思いも強かった。
「む〜、わかったす」
納得は出来ていない様子のリンであるがリュウジンの言葉に渋々従った。
「それでいいか?」
テルの方を向いてリュウジンは聞いた。
「は、はい!わかりました!」
「まぁその前に1戦あるかもしれんがな」
「え?どういうことですか?」
「街を出てから距離を空けてずっと尾行してきてるやつがざっと100人近くいたからな。そら、来たぞ」
リュウジンは即座に刀を抜き、刀を振った。
ガキンと金属同士がぶつかる音がした。
「え?」
テルはずっとリュウジンの動きを見ていたが金属音がしたときでもリュウジンがただ空中で刀を振っているようにしか見えなかった。
ざざっ、と音がしたのでそちらの方を見ると初老に差し掛かった執事服の男が武器を構え立っていた。
そして再びス〜と姿が消えた。
リュウジンは慌てた様子がなく何かを追っているように体の向きを変え再び刀を振るった。
また何かがぶつかる音がし、男の姿が見えた。
「・・・まさかこのスキルが見破られるとは・・・。音も匂いも気配もなかったはずであるが、なぜわかったのかね?」
「敵にわざわざ教えると思うのか?」
リュウジンの周囲がまるで揺れているように見え、闘気が上がっているのが見てとれた。
「なるほど。道理であるな」
男はクックと笑い、姿を消すことなくリュウジンに攻撃してきた。
「シャアああ!!」
ものすごい気迫で攻めてくる男にテルは自分が攻撃されているわけでもないのに気に当てられてしまった。
リュウジンは上段から振り下ろしてくる男の攻撃を弾き、即座に上から振り下ろした。
男は体を反らし寸前のところで躱し、即座に連撃を繰り返してきた。
リュウジンもそれにあわせるかのように刀を合わせ全て弾いていた。
リュウジンと男は一進一退の攻防を繰り広げていたが、ついにリュウジンは男の頬を斬り裂いた。
「楽しいな、おい!まだ全力じゃないだろ!?まだギアを上げてもついてこれるよな?!付いてこれねぇなんてことはありえねぇよな!!ハハハハハ!!」
口が張り裂けんばかりの凶悪な笑みを浮かべ、男への攻撃の苛烈さが増してきていた。
「ぐっ・・・」
男は苦悶の声を漏らしリュウジンから離れようとした。
しかしリュウジンは男の方ではなく自分の左側に向かって刀を振った。
ガキンッ!、という音と共に先ほどリュウジンから離れた男が姿を表し、防いだはずなのに何故かリュウジンの右肩から血が飛び散った。
「え・・・?なんで」
「な??」
テルとリンは外側から全て見ていたはずなのに何が起こったのか全くわからなかった。
(ッチ!傷は浅ぇが何で切られたかがわからねぇ・・・。スキルか?・・・だがスキル光は見えなかったが・・・。スキル光を隠すスキルもある可能性はあるか・・・。まぁとりあえず考えても仕方ねぇ。そろそろ決めねぇと森の方が色々やべぇな。)
「ふむ。今ので決めたと思いましたが、全然浅いですね〜。これほどの強者だとは聞いていなかったのですが・・・これは追加料金をもらわないといけないですね」
「随分と口が軽いんだな?こういう手合いはあまり喋らないイメージだったが・・・」
「そういった方もいらっしゃいますが、死の寸前に会話も無いっていうのはつまらないでしょう?私なりの流儀というやつです」
「口が軽いついでにさっきのはスキルによるものか?」
「ふふふ、敵に教える必要はないでしょう?」
「違いねぇ」
リュウジンと男はまるで古くからの親友のように楽しげに会話していた。
「悪りぃが、楽しい時間はそろそろ終わりにしねぇといけねぇ」
「私も残念ですが・・・、この場にこれ以上いるのは不味そうですからねぇ」
そこに2人の男が現れた。
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・、おい!まだ殺してしねぇのか!高い金払ったんだからさっさと殺せ!」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・」
(あっちの男は知らんが・・・、あの男はギルドで絡んできた男だな?
なるほど。ギルド総出で報復というわけか)
「おい、お前ら!残りのやつらはどうしたんだ?ずいぶん多かったのに2人しかいないのか?だがまぁ、こいつを雇ったのは英断だったな。てめぇらごときでは叶わないと身の程は弁えてたみたいだな。わざわざ対戦相手を用意してくれて礼を言うぜ」
リュウジンは挑発するように2人の男に話しかけた。
「き、貴様〜!!俺の『チェダークラン』を敵に回して帝国で生きていけると思っているのか?!おい、さっさと殺せ!お前がやらないなら俺がやってやる!」
男は血走った眼でリュウジンを射殺さんばかりに睨みつけ、武器を抜こうとした。
「黙りなさい!この依頼はあの程度の端金で受けるに相応しくない案件でした。雑魚を1人殺すだけ、との依頼でしたがどうやら我々のことも騙していたようで・・・。我々を敵に回すことの意味がわからないわけではありませんよねぇ〜?」
先ほどまでの好好爺のような表情とは似ても似つかないどす黒い眼をし、威圧を声に乗せて男は2人に迫った。
「ち、ちがっ・・・」
先ほどまでの興奮した状態から一気に顔色が青くなった男は、まともに喋ることも出来ていなかった。
「しかし、近年稀に見る楽しい殺し合いができました。その一点を加味し、あなた方を殺すのはやめてあげようと思っていましたが・・・邪魔をするのなら・・・。わかりましたね?!」
男たちはひたすら首を縦にブンブンと振っていた。
「お待たせいたしました。さて、時間も無くなってしまいましたので次の一撃で終わりにいたしましょう」
「いいだろう」
2人は再度向かい合って最後の一撃へお互い全力で集中していた。