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六話 ロマン武器はバカの武器ですか?

 冒険者ギルドはワイバーンの襲撃でさぞ慌ただしい事になっているだろうと思っていた。

 だから私は足を踏み入れた先で見た光景に拍子抜けしてしまう。

 中央の受付に並ぶ見目麗しい受付嬢の顔に生気は無く、それは周囲のテーブル集まった冒険者グループや壁際に佇む者たちも同じだ。

 街の危機に誰一人立ち向かおうとしないのは仕方がない。誰だって圧倒的な力の差がある相手に挑むのは怖い。

 だが私にはそれを置いておいても許せないことがあった。


「ここに居る奴らは上からの指示でも待ってるのかしら? 冒険者は自分で仕事を選んで行動する職業だと思っていたのだけれど。あぁ……ごめんなさい、ここで辛気臭い顔しているのがお仕事だったかしら?」


 私の突然の挑発に、先に入っていた神様とコニーが目を丸くして顔を向ける。

 当然ギルド内の空気がピリつくが、そんなことはお構いなしに私は受付へと足を運ぶ。


「ねぇ、お願いがあるんだけど」


 私に恐怖を感じているのか、赤みの強い茶髪の受付嬢は心を落ち着けようと長いポニーテールを顔の横でしきりに手で揉んでおり、目も合わせようとしないまま口籠る。

 少々威圧し過ぎたかと思いつつ、一旦受付嬢との会話を諦め振り返る。


「ざっと見ただけでも十六人。コニーから聞いてはいるけれど本当にワイバーンに立ち向かえるような奴はいないのね」

「おい、てめぇ今日冒険者登録したばっかの新人だろう。ロクな装備もねえクセに偉そうな口利いてんじゃねぇぞ」


 ギルド中に聞こえる声で挑発を繰り返す私に壁際に居た男が食いついた。

 周囲から男に浴びせられる視線から察するに、今居る冒険者の中ではそこそこの強さなのだろう。

 コニーが額に手を当て溜息を吐いたのを見てそれを確信する。


「ギルドへ戻ってくるまでに逃げ惑う住人を見てきたわ。避難誘導する衛兵も当然居たけれどとても手が足りてるようには見えなかった。私が何を言いたいのか、新人に言われなきゃ分からないのかしら?」

「たった十数人で誘導も何も……!」

「やらない言い訳を吐く時間があるなら一人でも多く守りなさいよ」


 言い訳がましい男に足払いした私は、仰向けに倒れた男の鼻先まで詰め寄りハッキリと言う。

 冒険者の立場や役割など全然分かっていないがそれでも私は私の考えが間違っているとは思わない。

 こんな所で座っているくらいなら行動すべきなのだ。


「……ラクレット・サイアム、それは傲慢というものだ。人に自らのすべきを押し付けるな」

「どの口が言ってるんだか」


 見かねて割って入った神様に思わず言い返してしまった私は、熱が冷めぬまま引き下がった。

 転移者は悪魔だと人々に伝え、各転移者の人となりを知らぬまま根絶やしにしようなどという考えを持つような神にだけは傲慢などと言われたくないが、神様も自分の言葉にダメージを受けているらしく目頭を押さえて天を仰いでいる。


「傲慢さの一つも無いから引き籠って腐ってるんでしょうが」

「そこまで言うなら聞くが、てめぇにゃあワイバーンが狩れるっていうのかよ!」


 尚も食って掛かろうという気概を見せる男に先手を打って牽制すると、男はゆっくりと起き上がり震える声で怒鳴り散らす。


「狩れるわよ。この街は私が守って見せる」


 私がそう言い放つとギルド内は静まり返った。


「……は? それ本気で……」

「狩るのは私。でも一人じゃ無理だからね、暇人には手伝ってもらうわよ」


 狼狽える男に役割を与える宣言をし、私は再度受付嬢へと話しかける。


「と言う訳で、あなたの後ろの壁に飾られてる武器を貸してほしいんだけど」


 壁の方を振り向いた受付嬢は壁に設置された巨大な筒を指さし、私に「え、アレのこと言ってます?」と目線で確認を取ってきたので私は笑顔で頷いた。



 ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲



「一体何なのですか、その筒の様な物体は」


 受付嬢だけでは壁から降ろすことが出来ず、私にケチを付けてきた男を含む四人の手でテーブルまで運ばれた武器をコニーは物珍しそうに見る。


「え、もしかしてみんな知らないの?」


 ギルドの一番目立つ所に飾ってあるものだから皆これがどんな武器か知っているのだと思ったが、コニーだけでなく他の者も同じようにコレに興味を持っていた。


「ここの支部長が去年だったかしら……。持ち帰って来て飾ったのは知ってるけど武器だったなんて」


 コニーの言葉に周囲が一斉に頷く。

 武器だという認識すら持たれていなかった物でワイバーンと戦うと言い始めた私に、反発することも否定することもやめた冒険者たちの視線を受けながら私は武器の整備を開始する。


「これが珍しいって事はこの世界に銃みたいな武器は存在しないのかしら」


 腕の長さ程ある鉄製の砲身の中は埃が薄っすらと付いており、それを布で拭き取る。

 射出機構を備えた本体は一部開閉が可能で、中を見ると撃鉄が起きた状態で小型の筒がセットされていた。

 その光景に全身から汗が噴き出るが、落ち着いて筒を取り除く。

 小型と言えど本体の大きさを考えれば十分大きく、両手で掴むサイズだ。


「小型であればクロスボウ、大型なら大砲は存在するが、それも魔力を固めて撃ち出す物だ。魔法の発展が大きいこの世界に銃火器はない。本来なら、な」


 神様は嫌味ったらしい含みのある言い方がお好きなようだ。

 コレが転移者によって持ち込まれた物であると神様は確信しているようだが、私をそんなに睨まないでほしい。


「嫌味ったらしくて悪かったな」


 初めて耳にするのか銃火器というワードに首を傾げる冒険者たちに聞こえないよう、神様は私は作業を続ける私の耳元で囁く。あー、忘れてた。人の思考読めるんだった。

 謝った所で今更機嫌の一つ二つは変わらないだろうと、私は無言で本体と砲身の下部を丸ごと覆った木製の台座を確認する。

 革製のベルトと引鉄を見つけた私は引鉄を操作し、撃鉄の動作に問題ない事を確認した後に最も重要な重要な物を探す。


「ねぇ、その支部長って人がコレ持ち込んだ時に長い槍みたいなの一緒に無かった?」

「あぁ、ありますよ! 今お持ちしますね。ジャンゴさんまた手伝ってください」


 引鉄を引く動作がクロスボウと同じだと賑やかに話していた受付嬢が反応し、再びケチ男を連れて受付内へ走って行く。


「ラクレット・サイアム、それは地球の銃、否、大砲では無いのか? その小型の筒が弾だろう」


 小声で確認をとる神様に私は首を横に振る。


「砲身と比べてみなさいよ、一回りも小さくて撃てたものじゃないでしょ」

「なら一体……」

「ありましたよー!」


 いまいち武器の正体を掴みかねてる神様の言葉を遮り、受付嬢が懸命に槍状の弾『巨大な杭を』運んで来た。

 思った通りだ。

 私は緩む口元を締め、杭を砲身にセット。

 その全長が私の背丈程にまで伸びた武器の名を私は満足気に告げる。


「パイルバンカー。私が知っている物より遥かに旧式だけど、威力は申し分ないんじゃないかしら」


 小型の筒は杭を打ち出すための炸薬であり、パイルバンカーの威力は炸薬の質次第。

 巨大な杭は一本しか無く、外す事も許されない代物に私は目を輝かせた。

 そんな私にコニーが死んだ目で声を掛けてくる。


「初めて聞く名ですね。で、ただの鉄の塊に見える杭であのワイバーンを仕留めると」

「そう!」

「男四人で運んだ物をラクレット様が装備されるんですか」

「うん!」

「あの小さな筒は魔力を込めて扱うようですが、それはアタシたちが行えば良いですか」

「火薬じゃないんだ……。じゃあお願い!」

「もう一度聞きますが、本当にコレで戦われると」

「一撃で沈めてあげるって!」


 コニーは大きな溜息を一つつくと真顔で私に言う。


「馬鹿では?」


 満場一致で否定されたパイルバンカーはどこか寂しげだった。

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