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四話 話の途中でこんにちは

 コニーとノックスの二人に私が転移者であることを他人にバラさない様お願いした私は、彼女らの返事を待った。

 私に向ける眼差しから二人とも聞き入れてくれたのだとは思うが、口約束でも良いので言葉にしてもらえなければそれは私の思い込みでしかない。

 そんな私の心情を知ってか知らずかコニーが口を開いた。


「一旦冒険者ギルドに戻りましょう。アタシもラクレット様も服は着れたけど装備は全部盗られてしまったから揃え直さないといけません」


 冒険者ギルドで出会ってから私が転移者だとバレるまでコニーとは気さくに呼び合う仲だった。

 それがどうだ、私には様付けで手は震えを隠そうと後ろに組み、これからもパーティーを組むという意思表示を示したのに目を合わせてもくれない。


「コニー? あの、普通にラクレットって呼んでくれていいんだよ」

「アタシは契約をしたんです。アナタが世界の敵になる悪魔だと確信したらアタシは直ぐにアナタが転移者であることを世界に告発します。アタシとアナタは監視する側とされる側の関係性、なのでその事を忘れないでください」


 転移者というだけで随分と嫌われたものだ。いや、ノックスを傷つけたことが大きな要因だろう。

 初めてこの身体で戦ったりしたものだから、思いのほか動けたことに気分が高揚してしまった。

 そんな後悔をコニーの冷たい言葉と共に噛みしめた私は冒険者ギルドのある方角へ振り返る。

 青み掛かった銀の髪、前髪から見え隠れする紫紺の双眸、スラリと伸びた手足に身に纏った白い服。

 私と違うのは服装と瞳に宿った憎悪の影、そして右手に握られた一振りの大剣くらいだろう。


「あら神様久しぶり。体感では数日ぶりくらいだと思うのだけど今日は何の用?」


 私は私と同じ姿をした彼女に柔らかく声を掛ける。

 地球ではドッペルゲンガーに会ったら死ぬと聞いたことがあるが、まさか彼女は私を殺しに来たのだろうか?

 そんな冗談がどうやら正解のようで、彼女は無言で大剣を構える。


「私が神様の姿を模倣したのがそんなに気に入らなかった?」


 私は状況を理解出来ずに困惑するコニーとノックスに左手で下がるように合図を出し、彼女との対話を試みる。


「気が合うんだろうなって思ったのよ私たち。女の子になってみたかったのは本当だし、私が知ってる中で私と一番近いと思ったから同じ姿でも良いかなって。神様もそう思わない?」


 こっちは相も変わらず得物は無い。ノックスと違い、油断を誘って奇襲を仕掛けるのはまず不可能だろう。

 それでも私は挑発をやめない。彼女と初めて異空間で出会った時に私は一つ確信したことがあるからだ。


「許せないんでしょ、神様なのに人間に同族嫌悪なんて感じちゃってるんだ?」


 その一言で彼女は地を蹴った。

 石畳が抉れるほどの脚力で数メートルの間隔を一瞬で無かった事にした彼女は、急停止により速さと重さが乗った一撃を放つ。


「──まぁ切れないよね。だって私はあなたであなたは私だもん」


 鼻先を大剣の風圧が掠めるに止まってよかった。

 正直身体の一部が欠損しても生き残れれば良いと考えていた私にとっては最高の結果だ。

 彼女が神としてどれだけの場数を踏みどれだけの戦闘を行ったのかは分からないが、寸止めを心得て扱える程度には戦い慣れている。

 だが私も地球では常に死と隣合わせで生きていたから分かる。少なくともスピードでは私は彼女に勝てない。だから本当に殺す気があるのならとっくに殺されている。


「そろそろ答えてくれないかな、自分の事が大っ嫌いで仕方ない神様」


 私の目の前で項垂れ、力なく大剣を握る彼女の頭を私はポンっと手を乗せる。

 正直私は地球で生きていた時の自分姿というものに慣れきっているので、私自身を撫でているというよりただ可愛い子を撫でているに過ぎないのだが周りはその光景を奇妙に思うらしい。


「撫でるのをやめろ、ラクレット・サイアム。彼女らの混乱が極限状態だぞ」

「それ、神様も同じでしょ……」


 今にも泣きだしそうな彼女は私の手を振り払うとコニーとノックスを指さした。

 たった半日の間で、ガラの悪い奴らに身ぐるみを剥がれ、仲間だと思ったは人間は忌むべき悪魔で、気絶している間に大事な舎弟がボロボロにされた上に同じ顔が目の前で殺しあおうとしたのだから放心するのも無理はない。

 私だって心休まる時間が欲しい。

 慣れない身体で命を二度も狙われて疲労が溜まらない訳がないのだ。


「で、空に見えるアレは何?」


 私は目を手で擦り、空を悠々と飛び回る巨大な生物が幻覚であることを祈る。

 私が指さした空を見たコニーは青ざめた顔で手を口に当て、ノックスは頭を抱えて座り込む。

 どうやらあの生物は神様にも見えているらしく、そんな馬鹿なといったアホ顔を晒していた。


「ワイバーン……なんでこの街にあんなのが来るのよ!」

「お、終わりだ。おい、早く逃げねぇとヤバいぞアンタ達!姉貴も安全なところにっ」

「ありえない、生態系の頂点である竜種が大都市に単騎で現れるなど」


 怯えるしかないコニーの手を取ったノックスはで私と神様に声を掛けるが、私たちはワイバーンと呼ばれた竜から目が離せなかった。

 私は記憶の底からかつて話の途中にワイバーンに遭遇した物語を見たことを思い出す。

 末期の地球で存在したファンタジーな生物は薬物により実現してしまったゾンビと遺伝子改造をされたおよそ動物とは呼べなくなってしまった化け物が良い所だ。

 まさかこの目で本物の竜を見られるとは思ってもみなかった。


「魔法や、街並み程度じゃ全然実感が湧かなかったんだけどなぁ……」


 私の中で湧き出る感情は興奮と期待だった。

 だが強烈にここが異世界であると意識をさせてくれた圧倒的な存在は、現れてからたった数十秒で興奮と期待を別の感情に塗り替えた。

 はるか上空からだというのに耳を覆わねば耐えられない咆哮をワイバーンは轟かせ、顎が外れんばかりに口を開き火炎放射や火球などという表現では生ぬるいほどの熱線を街に向けて吐き出す。

 首を軽く横に、縦に振るだけで街にレーザーで焼かれた様な痕を次々に残していく光景に私の感情はたった一つに集約された。


「コニー、この街に今いる冒険者や衛兵でワイバーンは倒せる?」


 私の質問にコニーは呆けた顔をするが、すぐに返事を返す。


「無理!そもそも空を飛ぶような大型の魔物はこの街の近郊にはいないもの。竜種と戦えるような実力者も居ないし、街を守るための外壁に設置されてる装備もあんな上空までは届かないわ」

「とりあえず引き摺り下ろす必要がある、と」

「ひ、引き摺り下ろす⁈ 例え地上で戦えるようになっても竜種の皮膚を貫ける武器がこの街に一体何本あるのか……!」


 そこまで話をしてコニーは私の意図に気が付いたらしい。

 ノックに掴まれていた手を振り解き私の元へ駆け寄り、両手で私の右手を全力で掴んだ彼女は喉が潰れ声が枯れそうな勢いで私を止める。


「転移者だかなんだか知らないけどワイバーンと戦うつもりなの⁈ あなたが前の世界でどれだけ強かったのかは知らないけれど、冒険者になったばかりの人間が勝てるような相手じゃないの分かるでしょ!」

「我も同じ意見だな。お前にアレは倒せん」


 神様も止めに入るとは意外だった。

 人のことを殺そうとする割には守ろうとする。それが本人の感情と神としての役目に挟まれた結果なのだろう。

 そんな彼女の難儀な立場など私の知った事ではない。

 大方、神様一人でワイバーンの対処など出来るという自信があるから出た意見なのだろうが、私がはいそうですかと受け入れるかは別の話だ。

 それに最初から私も一人で戦う気などはないのだ。


「じゃあ神様手伝ってよ。役割は簡単。あなたがワイバーンを引き摺り下ろし、私が止めを刺す」

「お前、手段は考えているのか……? 素手で殴り殺せる相手じゃないんだぞ?」

「へぇ~引き摺り下ろせるのは否定しないんだ。手段なら任せてよ、良いモノ見つけてあるからさ」


 問答無用で襲ってきた者と襲われたものが互いの問題が解決しないまま共闘しようとしている。

 神様も私もそんな問題は後回しで良いと思っている。口には出していないが共に戦うということはそういうことだ。

 やはり似た者同士なのだろうという考えは間違ってなさそうだ。

 だから彼女が私に投げかけてきた質問に私は絶対の自信と誇りをもって答えることが出来た。


「転移者だからと言って英雄になる必要は無いんだぞ。そもそもこの世界じゃ転移者は悪魔扱いだ。冒険者として名を上げるにしてもワイバーンをたった二人で討伐するような真似をしたら遅かれ早かれお前の正体に勘付く奴が出るぞ、それでも戦うのか?」


 答えは本当に単純で明快なものだ。


「私は都市治安維持部隊のエースだったのよ。人を守るために生きてんだから当然でしょう」


 この世界に私の守る都市は無い。共に戦った部隊も居ない。私の武器だってここには無いけれど、私の生き方は変わらない。


「コニー、ノックス、神様、しっかりその目に焼き付けて貰うから! 私はこの世界の敵じゃないってトコをね!」

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