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1話 新世界でパンツ一枚

 それは十日振りの晴天が訪れた日の午後。

 いつも通りの最悪で最低な日常の中、何の前触れも無く聴こえた。


「人類の大半が現世界の滅亡を願いました。我々神は人類・地球の再起・再生を困難と判断し、人類を新世界へ転移・転生を行う決断を下します」


 配給の固形レーションを食べ終えたとある日本人はその声を流暢な日本語だったと語る。

 また、遠征先で突如敵軍に襲われてパニックになっていた兵士は訛りのキツイ英語で聴こえたと証言を残した。

 一体人類の大半とは誰の事を言っているのか、そもそも滅亡など本当に願ったのか。

 確かに四十年前と比べて地球の総人口は半数にまで減ったが再起は出来るだろう。まぁ、地球の汚染は酷くシェルターなくして生活が出来ないのは認めるが。

 とにかく重要な事は、それが西暦2067年に起きた小さな紛争からたった一年で第三次世界大戦にまで発展して、荒廃してしまった地球全土に、人類が共通して聴きとれる死刑宣告が空から言い渡されたという事実だ。


「これより三分後、皆様の人生は終わりを迎えます。その後、転移・転生の選択等を行っていただきます。それでは良い終末を」


 淡々とした一方的な宣告が終わると、空に三分間のタイマーが現れカウントダウンが始まった。

 三分で死ぬ。皆死ぬ。逃げる道も事実か確かめる術も無い。

 呆然とする者、愛を叫ぶ者、欲求に身を任せる者、何処へともなく走り出す者。

 人類の終末は実に賑やかなものであった。

 そして宣告の三分後、人類と地球の生涯は糸が切れるように静かに幕を閉じた。


 ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲


 新暦237年、春。大都市ウルムガルドの路傍で私は途方に暮れていた。

 つい先ほどまで冒険者ギルドで採用試験を受け、ライセンスを受け取った事にウキウキしていた私はもういない。

 まさか初日に装備も金も失い、通りすがりの人々に物乞いをすることになるなど思ってもみなかった。

 事の発端はガラの悪い厳つい男にぶつかってしまったこと。

 私はすぐさま謝ったが難癖付けられた上に顔面を殴られ、気絶しているうちに身ぐるみを剥がされた美少女はご覧の有様だ。


「パンツとブラが残ってて良かったわね」


 そんな私に話しかけて来たのは同じく物乞いの少女である。

 残念ながら私と違いパンツもブラも無くした少女はボロ布を纏って正座をしている。


「あなたもプライドが残ってて何より」


 ボロ布を纏った少女の表情は毅然としており、施しなど受けぬといった物乞いにあるまじきスタンスを崩さない。

 この状況では真っ先に捨てるべきものを彼女は必死に掴んで守っているのだ。

 私? 私は速攻で捨てた。だってお金が欲しいもの。

 だから私は彼女にこう言うわけだ。


「悪いんだけど、向こうに行ってもらえる? 仲間だと思われたくないので」

「は? 一人とか怖くて無理」

「ならせめて愛想よく出来ないワケ、自称天才盗賊(笑)のコリーちゃん」


 毅然とした顔で何を可愛いこと言っちゃっているのだか。

 冒険者ギルドで意気投合してパーティーを組んだからって優しくすると思うなよ。


「そもそもコリーちゃんがあの男にぶつかった所為でこうなったんじゃない!」

「アイツがアタシにぶつかったのよ、ラクレットなんか一撃で倒れたくせに!」


 ぐうの音も出ない所を突かれ、あわや往来でキャットファイトを繰り広げそうになったが私は気を落ち着かせる。

 なんたって相手は貧相な体つきにボロ布一枚の可哀そうな自称天才盗賊(笑)なのだから。


「急に哀れんだ目で見るのやめなさいよ……」


 コリーも喧嘩する気を失くしたのか、正座をし直すとおもむろに魔法を唱え始める。

 初級呪文であり、この世界に生きる人類なら誰でも習得している念話魔法だ。

 手の平を耳に当てて喋るのだが、私はどうにもその姿が面白く見えてしまう。

 相手が誰かは分からないが念話は繋がったらしく、二人分の衣服と装備を依頼してそそくさと念話を終了する。


「ひとまず舎弟が来るまで物乞いするわよ」

「いや、人来るならその辺に身を隠したいんだけど、下着だし」


 毅然とした表情を崩さないくせに意外と度胸ある選択をすることにびっくりだ。だが私は見逃さない、彼女の耳が赤く染まっていることを……。

 手頃な空き樽を二つ見つけた私たちは頭だけ外に出し、彼女の呼んだ舎弟が来るまで時間を潰すことにした。


「ところで私は記憶保持の転移者なんだけど、コリーって転生者? だとしたらこの世界のこと色々教えて欲しいんだけど」


 樽の縁に肘をつき欠伸をしながら私は質問を投げかける。

 聞きたいことは山ほどあるのだ。

 神とやらにチュートリアルや容姿の変更、魔法の習得や新世界の説明を一通りされたが、頭が追いつかなかったおかげでほぼ覚えていない。

 覚えているのはほんの少しだ。


 一つ、私は転移を選択したこと。

 二つ、人類の大半は転生を選択したこと。

 三つ、私は旧世界の記憶の保持を選んだこと。

 四つ、人類の大半は旧世界の記憶を破棄したこと。

 五つ、転移者は絶対に……あー、絶対に……?


 何だったかな……。

 まぁ、後はこの世界の成り立ちや情勢などを聞いた気がするが忘れてしまった。

 ゲームやアニメの様な異世界転生・転移をこの身で実際に味わい、説明が終わると同時にこの石造りの大都市に放り出されたのだ。

 悪夢の様な旧世界の日常から一転、記憶も保持した私の二度目の人生は強くてニューゲームと言えるだろう。

 新世界の勝手が分からないのは置いておくとして、言語も通じるし冒険者のライセンスが取れ、仲間が出来ただけでも上出来なはずだ。

 そんな短い振り返りが出来るほど、コニーから返事が無いことに気づいた私は彼女の方へ振り向く。

 一体何に彼女が驚いたのかはわからないが、身ぐるみを剥がれて以降初めて表情が崩れた。

 いや、崩れたなんてものじゃない。

 口をパクパクさせ、こぼれ落ちるのではないかと思うくらい目を見開き、樽から飛び出すほど驚かれるとは流石に予想外だ。


「嘘……でしょ? 生の転移者なんて初めて見た……」


 転移者とは言ってもチュートリアルの際にだいぶ身体を弄ったので厳密な転移では無いのだろうが。


「そんなに珍しいものなの転移者って」


 コニーは頭をヘッドバンキング並みの勢いで縦にブンブンと振り、転がってしまった樽の中に入り直す。

 心なしか怯えている様に見えるのだけど、もしかして私は何かまずいことを言ったのだろうか。


「さっきまで普通に話してたでしょ? ほら、怖くないよー、パーティーメンバーのラクレットちゃんだよー」

「ヒィアッ!」


 樽から手を差し出した私を見て、彼女は樽ごと転がって距離を取る。

 これではまるで私が悪魔か何かみたい……な。


「……あ」


 思い出した。


「何が怖くないよ! て、転移者は悪魔だって学校で教わったんだから! しかも旧世界の記憶持ちなんて、と、と、討伐対象なんだからっ!」


 五つ、転移者である事を絶対に明かさないこと。


「コニー、もう一つイイコトを教えてあげよう」


 私の正体を知ってしまったのは彼女だけ。

 つまり彼女さえどうにかしてしまえばいいのだ。

 だからごめんねコニー、あなたには……。


「い、嫌よ、知りたくない。何も知りたくないっ!」


 あなたには更なる衝撃を与えて記憶を混濁させるしかないっ!

 私は樽から飛び出し、怯えて耳を塞ぐ彼女の両手を掴む。完全に体勢が変質者のそれだが仕方ない。


「あ、あぁ……」

「私はね……ッ! 旧世界では男だったのよッ!」

「イヤァァァァァァァ⁉︎」


 そう、私は転移する際に自分の性別を変えた。

 神様には「それならせめて記憶を消したほうが……」とか言われたが断った。

 容姿も好きな様に弄れて、新しい世界では私のことを知っている奴は居ない。その上、どうしたらチヤホヤされて生きられるのか知識だって持っていけるのだ。

 私の強くてニューゲームの邪魔をこんな所で終わらせるわけにはいかないのよ。


「……よし、とりあえず気絶はしたわね」


 絶叫というより断末魔に近い声を上げたコニーは白目を剥いて、私に両手を掴まれたまま気絶していた。

 こんな光景、たとえ私が転移者でなくとも悪魔と呼ばれているに違いない。

 そしてこの光景を目にしてしまった不幸な奴がいる。


「コニーの姉貴……?」


 大柄な青年だった。

 私の背後に立ち、手に持っていた袋を地面に落とした青年は、震える声で白目を剥いた貧乳に話しかけた。

 私はコニーの手を離し、ゆっくりと振り返る。


「コニーの舎弟ね? 大丈夫、彼女は少し、眠っているだけよ」

「き、貴様ぁっ! 姉貴に何しやがったぁ!」


 怒りに震え、腰に刺した長剣を抜いた青年を見た私は悟った。


 あ、終わったわコレ。

のんびりマイペースに更新してまいりますのでよろしくお願いいたします。

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