夢を追うもの笑うもの16
武力や戦力というのは無くてはならないものではあるが、持ち過ぎていると標的にされかねないものでもある。
出過ぎた杭というのは叩かれるのが世の常だ。
現状の怠惰ダンジョンとPCHの戦力は雲泥の差があるが、このままではいつか数の暴力や社会的制裁によって手痛いダメージを負いかねないのも事実だ。
今回の仮称湯布院ダンジョン合宿所計画はPCHが抱える問題と冒険者協会の抱える問題を解決するにはとても都合が良い。
それとベルに怠惰ダンジョン以外の場所を見せてあげる事も出来る。
隠蔽が何処まで信用出来るか分からないので誰かに見られる事だけは避けなければならないが、いつの日か誰に憚れる事無く怠惰ダンジョンの皆が外に出られる日が来るようにしていきたい。
☆ ☆ ☆
純との話を終えて部屋に戻る。
部屋の中では途中で止めたアニメがテレビの画面に映し出されたままになっていた。
「今日はもう寝るか……続きは明日だな!」
ベルも英美里も居なくなった部屋で布団に入る。
PCHの研究者達が行った非道な行為の事を考えてしまう。
もしも自分が学生でお金に困っていてPCHの求人募集を見ていたら応募しただろうかと。
ずっと憧れていたファンタジーがリアルに変わったのに自分にはファンタジーに触れる機会が無かったとしたら、俺は間違いなく求人に応募していたと思う。
お金も貰えて、憧れの世界に触れられるのなら最高だと感じるだろう。
だが、それも安全が保障されていた場合の話だ。
ファンタジーには触れたいが、危険に飛び込みたい訳では無い。
俺が学生で何の力も無い状態であったなら、俺もきっと被害者になっていただろう。
そう考えると、どうしても今回の事が他人事では無い気がしてしまう。
中には俺と同じようにファンタジーへの憧れから求人に応募した人も居たかもしれない。
「何とかしてあげてぇなぁ……」
今のままではまだ、ダンジョンの攻略は千尋や純が居る冒険者協会抜きでは不可能だ。
「上手くいくと良いけど……」
布団の暖かさで眠気に誘われ、そのまま身を任せた。
☆ ☆ ☆
午前中はいつも通り、鍛錬をして終わった。
午後からは早速千尋と純に今日はベルも湯布院のダンジョンに向かって貰っている。
そう遠い所では無いが、多少の時間は掛かるので俺は一人寂しくお布団で休憩中だ。
アバターが無いと何がトリガーとなって怠惰の業 (自身が勤勉だと自身の全能力無効化)が発動するか分からないので、休憩しているのが一番だ。
怠惰ダンジョンの最高戦力であるベルの肉体が外へ出ているので、今日だけは怠惰の業は発動させてはならない。
だから大人しく昼寝をするに限るのだ、決してサボっている訳では無い。
誰かに体を揺さぶられ、目を開ける。
「ご主人様、ベル様がダンジョンに到着したみたいですよ」
「ありがとう……」
起こしてくれた英美里に礼を述べながら、ベルに念話を掛ける。
『ベル、着いたのか?』
『はい!マスター!アバターもダンジョン内に置きましたよ!それよりも、外の世界は凄いですね!テレビで見るよりも何倍も凄いです!車も人も多いので少し鬱陶しいのが残念です!』
『そっか……良かったな!帰りは何か食べ物を買うか、食べるかして来い!千尋か純に言えば大丈夫だから!』
『はいマスター!』
念話を切って、アバターの操作を開始する。
洞窟の入り口に置かれた体を起こしながら周りを確認した、洞窟の外では3人がソフトクリームを食べながらこちらを見ていた。
「……ご当地ソフトクリームかな?」
既にベルは外の世界での食べ物を食べていたようだ。
「あぁ。道の駅で見つけて買っておいたんだ、焼き芋ソフトだ!」
「だ!」
「美味しい!」
わざわざ見せつけるようにソフトクリームを持ちながら腕を突き出してくるお嫁ーずに軽くイラついてしまった。
「アイテムボックスに入れてわざわざ持ってきた甲斐があるな!ほら、まこちゃんの分だぞ受け取れ!」
千尋がアイテムボックスからもう1つ焼き芋ソフトを取り出し、俺に渡してくる。
「おぉ!ありがとう!」
今までデートらしい事なんて出来ていなかったので嫁の気遣いがとても嬉しい。
今後も怠惰ダンジョンから俺が出る事はほとんど無い。それは仕方の無い事ではあるし俺自身それで良いと思っていたけど、偶には外でデートとかしたいなと思わせられた。
「とりあえずソフトクリーム食べてからダンジョン攻略しようか!」
皆でソフトクリームを食べながらも一応、敵に備えて周囲を確認している。
「そうだ!写真撮ろう!写真!ベルの初外出記念に!」
「それは良いな!」
「嬉しいです!」
「……ダンジョン攻略してからで良くないか?」
純の提案に女子二人は乗るが、今はそれどころじゃないと思ってやんわりと反対する。
「大丈夫だよ!ベルが居れば万が一も起きないから!」
「そうだな!」
「マスター!写真撮りましょう!皆で!」
「……急げよ」
やや不服ではあるが、純が言った通りベルさえ居れば万が一も起きないので渋々だが写真を撮る事にする。
純が自分のスマホを取り出してインカメラで撮影を始めた、満面の笑みを浮かべる三人に釣られるように俺も自然と笑顔になった。
良い歳してはしゃいでいる自分が少し気恥ずかしいが、偶にはこういうのも良いのかも知れない。
焼き芋ソフトも食べ終わり、俺が先頭になってダンジョンを進んで行く。
道中敵はゴブリンのみで数も少ない、群れていても最大で3匹。
ベルも居るので危な気も無く、コアルーム前まで辿り着いた。
時間にして大体1時間程度だろうか、前回の九重ダンジョンよりも小規模だったので楽に攻略は終わった。
「良し、コアルームに行って攻略終了しますかね」
「誰がコアを取るんだ?」
ベルがコアを入手するとどうなるのかが気にはなる。
「ベルがコアを取得したらどうなる?」
「はいマスター!恐らくですが、何も起きないかG-SHOPが解禁されるかだと思います!元々ダンジョンはダンジョン同士で潰し合うものですから、不都合は無いと思います!」
ベル本人が言うのだから間違いは無いだろう。
だが、リスクが無い訳では無いので何とも判断が付け辛い。
「……ベルはどうしたい?」
「はいマスター!私は攻略者になりたいです!この体でG-SHOPが解禁すれば怠惰ダンジョンは更に盤石ですからね!」
ここはベルの判断に全てを委ねよう。
もしもの事が起きても、最悪本体が無事であれば大丈夫だという保険もある。
「じゃあ、ベル!頼む!」
「はい!」
ベルがコアへと近付き、コアへと手を触れた。
いつもの様にコアは砕け、ベルの体に吸い込まれるように消えていった。
「……無事みたいだな」
「はい!マスター!」




