夢を追うもの笑うもの13
手土産に期待しながら、再び体内気功の練度を上げるべく時間を掛けて少しずつ気の操作の練習を行っていった。
「マスター!そろそろ体内気功を維持しながらスライム討伐を行う、実戦訓練に移りましょう!戦闘中に体内気功を維持出来なければ何も意味がありませんから!ここからが本番ですよ!頑張ってください!」
「あぁ!」
体内気功は一度感覚を掴んでしまえば結構維持できるようにはなってきたのだが、戦闘しながら維持出来なければ何の意味も無い。
「では!行きますよー!」
「来い!」
掛け声と同時に普段相手にするスライムより大分弱い色付きスライムが現れる、今回の色は緑なのでグリーンスライムだろう。
「体内気功を維持……体の中で気を回す……そしてそのまま……動く!」
拙いながらも体内気功を維持しながらスライムにゆっくりと近付いて行く。気を抜けば気の操作が疎かになり、体内気功も回せなくなるので今はまだゆっくりにしか動けない。
「そうです!マスター!今はゆっくりでも良いので、維持しながら動くことが大事ですよ!そしてそのままスライムに攻撃です!とにかく反復練習あるのみです!」
ベルの声援は俺の耳に確実に届いてはいるのだが、如何せん体内気功を維持するのに精一杯で返事をする余裕すら無いのが現状だ。
ゆっくりと確実にスライムに向かって行き、そのまま槍で核を目掛けて突きを繰り出す。
突きは見事にスライムの核に命中しスライムは宙へと消えていった、気を抜かないように意識しながら体内気功は維持し続ける。
「マスター!こっちで様子を見ながらスライムを追加で出していくので、マスターは体内気功の維持をしながらどんどんスライム狩りしちゃってくださいね!次行きまーす!」
「あぁ、頼む!……気をしっかりと回せ……気の操作を止めるな……」
それから何度もスライムを討伐した。
途中何度か休憩を挟んだり、ベルから足りなくなった気を貰って回復したりしながらも、何度も何度も繰り返しスライムを討伐した事で幾分かは気の操作自体に慣れる事が出来た。
「にしても英美里は凄いな……ここまで休憩一切無し、魔力も体力もスライムから吸収出来るとはいえ、流石に頑張り過ぎじゃな無いか?」
休憩しながら英美里のレベリングの様子を見ていると俺ももっと頑張らなければと思わせられる。
「英美里もちーちゃんにもう負けたくないんですよ。命ある者が頑張る姿は本当に美しいですね!成長を止めない事がどれだけ大変で、大切なのかを英美里が私達に教えてくれているようで、私はとても誇らしいです!」
英美里は元々真面目で勤勉だった。
けれどちーちゃん最強計画の為に一時的に成長する機会を俺達が奪っていた。その分の遅れを取り戻すかのようにここ最近は鬼気迫る勢いでレベリングに取り組んでいる。それは千尋という好敵手に負けたくないという思いも少なからず影響していると思う。
「俺達の大事な娘が頑張ってるんだ……俺も負けてられないよな!」
気合を入れ直して再び立ち上がる。
人というのは誰かが頑張る姿に触発される。
良い意味でも悪い意味でも。
「その意気です!マスター!英美里が頑張ってるなら親である、わ、わ、わ、わたちたちも、頑張らなきゃですよ!」
「おぅ!次のスライムを頼むぞ!ベル!」
勝敗とか優劣とかそういうのは大事だ。
でもそれが全てじゃないというのも事実だ。
努力は自分を裏切らないとは俺は思わない、頑張ったからといって必ずしも報われる訳でも無い、歩いた分だけ自信を持てるとも限らない、才能という壁に打ちのめされる事も知っている。
「それでも……俺はやる」
努力の先に何も無かったとしても頑張れる存在に憧れた。
報われない努力の毎日に悩む人に嫉妬した。
努力という言葉も行為も嫌いだった。
同時に現実を直視している気になっている自分も嫌いだった。
努力したって報われない事も多いのは事実だ、それでも努力し続けた人にしか得られない何かも必ずある。
努力が報われ無かったとしても、努力した自分が居れば人はそれだけで生きる為の気力と希望が持てる。
「マスター!目指すは打倒ちーちゃんですよ!ちーちゃんはまだ気の操作が出来ないんですから!気の操作を覚える事が出来れば、今ならまだちーちゃんにも勝てる筈です!」
「いや、千尋に勝つ気は更々無いけど……でもまぁ、折角頑張るんなら何かしら目標は有った方が良いかもな」
子供の頃に諦めた夢がある。
「そうですマスター!忙しくて最近鍛錬不足なちーちゃんの鼻を明かしてやりましょう!そうすれば一夜ぐらい共に出来るかもしれませんよ!」
「かもな!」
気に関してのアドバンテージはこちらにある。体内気功と体外気功を習得すれば開いてしまった千尋との差が縮まるかもしれない、そうなれば俺が千尋に勝つ事も出来るかもしれない。
勝ってどうこうというつもりは無いが、俺が千尋に勝てば千尋はもっと強くなる。
千尋は世界レベルの負けず嫌いだ、なんやかんや言いながらもベルにだっていつかは勝つつもりでいるのが千尋だ。
そんな負けず嫌いな千尋が俺に負けでもすれば、きっと面白い事になるに違いない。
俺が頑張る理由はそれで良い。
頑張った結果、体内気功は戦闘しながら少しだけ扱えるようにはなってきたが、体外気功は明日以降覚える事になった。
「マスターはちーちゃんや純にゃんに比べて、戦闘に関しては才能があまり無いのでひたすら訓練あるのみですよ!」
「知ってるよ」
才能なんて無くても良い。
強がる事で開ける道もきっとあるから。




