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英雄も事件が無ければただの人30


 千尋対英美里の決戦の舞台はいつもと変わらず地下広場だ。

 昨日は引き分けで終わったが、今日は順当にいけば千尋が勝つだろうというのは怠惰ダンジョンの皆が思っている事ではあるが英美里ならもしかして、とも思ってしまう。そう思わせるだけの信頼が英美里にはある。

 怠惰ダンジョンで初めて生成されたユニーク個体であるメイドラキュラの英美里にはこの場に居る全員がお世話になっている。強く、優しく、可愛く、世話焼きな彼女への信頼はこの先も揺らぐ事は無いだろう。

 そんな英美里を超える為に日々精進し、質実剛健を地で行く未来の英雄千尋。剣精の強化も現状可能な最大迄行っており、見た目から既に最初期とは全く違う。無骨さのあるシンプルなデザインなのは変わりないのだが、サイズがただただデカい。鉄の塊のような剣。長さも重さも到底人が扱えるものでは無い大きさの剣が千尋の背後で浮いているのだ、その異様さと異常さは相手にとてつもない威圧感を与える事だろう。千尋よりも大きい鉄塊の剣、それを敢えて攻撃では無く防御に使用する千尋。操作性も向上し、絶対防御を誇る剣精と千尋本人の防御を捨てた捨て身の強力な攻撃が合わさる事であの英美里さえも超えようとしている。



「準備は良い?」

「いつでも構わん!」

「私も大丈夫です」


「じゃあ!始め!」


 ベルの開始の合図とともにまずはお互いが急接近して肉薄する。英美里の獲物は素手、武器は自身の爪を用いた攻撃と影を使っての攻撃だ。


 千尋がミスリル製の刀で斬りかかる、防御を捨てた渾身の一振り。上段から振り下ろされる力任せの一撃。それを英美里は影を腕に纏わせながら受けた、力任せの千尋の攻撃を類稀な膂力で受け止めてから影を地面から槍のように伸ばして反撃するが、剣精の絶対防御に容易く防がれる。


 お互いが譲らず一進一退の攻防が繰り返される。

 消耗戦に持ち込まれれば不利なのは英美里だ、単純なレベル差で種族の性能差は千尋に追い越されている。能力値で英美里が千尋に勝っている部分は力と魔力ぐらいしか無いだろう。

 英美里には莫大な魔力がある。近距離戦闘は千尋に分があると見た英美里が千尋の攻撃の隙間を突いて影へと潜った。

「くっ!何処へ行った!」

 周囲をぐるりと見回す千尋。

「そこか!」

 千尋が背後に移動していた英美里を見つけて猛追。

 英美里も距離を詰められないように影槍を千尋にぶつけまくるが、剣精を盾に我武者羅に前へ進む千尋。背後から迫る影槍の攻撃すらも剣精に弾かれ、再び両者の距離が詰まる。


 千尋の悪鬼羅刹の如き怒涛の攻め、再び影移動で距離を離す英美里。


 再び繰り返される攻防。

 英美里には剣精の絶対防御を突破する程の火力が無く、千尋には英美里の様な特殊移動が無い。

 単純な速度ならば千尋に軍配が上がるのだが、英美里には影移動があるのでお互いがミス待ちの状況に陥っていた。


 しかしスタミナには限界がある。

 これが一対一の勝負で無ければ回復手段を持っていて、継戦能力の高い英美里が有利なのだが、英美里の回復を千尋が許す筈も無い。英美里の吸血は相手に血を流させなければならず、吸魔も相手に直接触れていなければ発動できない。

 種が分かれば対処も可能な為、千尋は英美里に直接は触れず、英美里は何とか触れようと手を伸ばす。

 だが、無情にも伸ばした手は剣精によって阻まれ、千尋の剣戟が何度も襲ってくる。


 英美里の呼吸が荒い。

 攻撃にも防御にも影を使用するのが英美里の戦闘スタイルではあるが、影を操るには魔力が必要であり燃費が良い物では無い。本来であれば相手からエネルギーを回収しながら戦う事が出来るので相手が倒れるまで魔力の心配はしなくても良い。けれど回復する為の手段がバレている状態なのでそろそろ魔力の心配もしなければならない。肉体のスタミナも魔力のスタミナも消耗させられている英美里にはこの状況はマズイ。昨日は千尋の攻撃に合わせてカウンターを決めた英美里だが、今日は千尋もカウンターを常に警戒しているのでカウンター狙いは中々決まらないだろう。


「はぁはぁ……流石に疲れました」

「私はまだまだ平気だがな」

「なので……そろそろ決着に致しましょう」

「ほぅ……この状況を覆す秘策でも思いついたのか?」

「ふぅ……秘策では無く、全身全霊を込めた全力の一撃ですよ……これで剣精を破れ無ければ私の負けです。では、お覚悟!」

「来い!英美里!」


 英美里が影を全身に纏う。今までは腕や足といった体の一部分にしか纏う事の無かった影。これが英美里の文字通り、全身全霊の構えなのだろう。

 ただただ、前へ突っ込む英美里。

 拳を振り上げ、そのまま千尋へ右拳を叩き込んだ。


 直後、凄まじい爆発音と強烈な爆風が観戦していた者を襲った。

 爆風から身を守るように皆が顔を手で覆い隠していた。

 決着は着いたのか、どちらが勝ったのか、地下広場に広がる土煙をリーダーが魔法で排除してくれる。

 土煙が晴れ、怠惰ダンジョンの皆が英美里と千尋に目を向ける。


 立っていたのは千尋。

 英美里は千尋の足元で跪いている。

 英美里の首元には千尋の刀が軽く添えられていた。



 勝ったのは千尋。

 怠惰ダンジョンで初めて生成された者でありユニーク個体であるメイドラキュラの英美里を今日、千尋が超えた。

 嬉しいような、寂しいような、何とも言えない感情。

 英美里は強い。

 けれど戦闘向きではない。

 後方支援型なのは間違いない。

 それでも今日まで奮闘してきた。

 ベルという規格外を除けば、誰よりも強かった。

 誰もが憧れた。

 強く、優しく、可愛く、世話焼きな英美里は俺の精神的支柱でもあった。

 英美里が側に居てくれるから、外部の敵に怯える事も無く日々を過ごせて来た。

 英美里が居るから、美味しいご飯が食べられる。

 英美里が居たから、怠惰ダンジョンはここまで発展した。




 俺は二人に近付いた。

 一歩ずつこれまでを振り返りながら歩いて行った。


「二人ともお疲れ様。英美里ありがとう、千尋と全力で戦ってくれて。千尋、おめでとう明日から忙しくなるな」


 二人が今、何を想っているのか、何を考えているのか、俺には分からない。

 けれど少しだけ、ほんの少しだけ察する事は出来た気がした。二人が涙を溢しながらも笑う顔を見れば少しだけ。

 

「良し!今日はパーティにしよう!ざんねん会と祝勝会だな!英美里も千尋も今日は準備しなくて良いからな!俺達が準備するから!さぁ!風呂にでも行ってくるといい!主役が汚れたままじゃ盛り上がらないからな!」


 無言で頷きながら、二人は地下広場を後にした。


「今日は英美里の助力無しでパーティだ!大変かもしれないが頑張ろう!陣頭指揮は番長!頼んだぞ!」


「りょーかいっす!」


 怠惰ダンジョンの皆が我が家へと戻る中、俺は一人で地下広場へと残った。

 

「はぁ……俺も年取ったのかなぁ」


 落ち着くまで地下広場で物思いに耽る。

 これでちーちゃん最強計画の第一段階が終了。

 遂に世界に英雄が解き放たれる。






























 千尋と英美里。

 良き友であり、良き好敵手でもある二人の関係は俺には少し羨ましい。

 二人が切磋琢磨している姿はとても眩しくて、とても綺麗で、とても愛おしい。

 今日の勝負で二人の関係性は変わったのだろうか。

 追いかける者と追いかけられる者が入れ替わっただけでしかないのであまり大きな変化は無い気もする。

「明日から、英美里もレベリング解禁だな」


 英美里が強くなればなるほど、千尋もまた強くなる。

 逆もまた然り。

 お互いがお互いを超えようと高みを目指し続けるのだから。





他サイトでも投稿しています。


小説家になろう 勝手にランキング

というのが下部にありますので良ければ押して頂けるとありがたいです。



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