英雄も事件が無ければただの人24
一馬さんと雅さんが初日という事もあり想定よりも長い時間朝稽古を行ってしまったので、一馬さんと雅さんも誘って昼食を食べた。エルフ米は雅さんの口にも合うようで絶賛してくれたのでお土産としてエルフ米を2袋分プレゼントした。
米袋の重さは一袋で大体30kg程あるのだが、雅さんが2袋を同時に抱えて、嬉々として車に積み込んでいる様は少しシュールだった。今日だけでレベルが15まで上昇した事により可能な事ではあるのだが、細身の女性が60kg程の物を嬉しそうに運ぶ姿は何とも言えない感情になる。
千尋と俺で運転席に乗り込んだ一馬さんと助手席で満足げな顔をした雅さんに別れの挨拶と見送りをする。
「じゃあ、また明日。気を付けて帰ってな」
「お父さん、お母さん、もう良い年なんだから……明日からは今日みたいにはしゃがないでね?バイバイ」
「そうね……あんまり無理しない程度に頑張るわ!たっくん!お米ありがとうね!じゃあまた明日!」
「拓美!精進しろよ!じゃあな!」
千尋家の大きな車が出発し、俺達は軽く手を振りながら車が見えなくなるまで玄関前に佇んだ。
「さて……午後からは純のダンジョン攻略だな」
「あぁ、だが純先輩もアバター関連のスキルは取得出来ない可能性の方が高い……私の剣精系スキルと一緒で何か強力なスキルがあれば良いんだがな」
「まぁ……最悪先輩には魔法があるからな」
純は武器を使っての近接戦闘は俺以下なので、取得可能になるスキルは出来れば戦闘に役立つスキルの方が喜ばしい。だがそうで無かったとしてもあまり問題にはならない程には魔法適正は高いのでダンジョン攻略では戦闘もこなせる筈だ。
☆ ☆ ☆
俺達は千尋が攻略した株分けダンジョン跡地に来ていた。
株分けダンジョンは攻略された事で機能を失い、その場所はベルによって再び株分けされてダンジョン化している。
「純!心の準備は良いか?今日は検証は無しだから、そのままコアに触れれば良いからな」
「おっけーおっけー!じゃあいくよー!えいっ!」
俺と千尋の時と同様に純がダンジョンコアに触れた瞬間ダンジョンコアは砕け散り、その破片は純の体に吸い込まれるように消えていった。
数瞬の間を置いてから純が口を開いた。
「……良し!G-SHOPも確認出来たし!帰ろう!」
なんとも緊張感の無い純の姿に軽く呆れながらも俺達は我が家へと無事に帰還を果たした。
帰宅後、皆が一番気になっている純のG-SHOPで取得可能なスキルについて説明を受ける事になった。
最近ではすっかり我が家に馴染んだ面々と居間で純からの説明を待つ。
「ふむふむ」
暫く中空を眺めている純を見ながら英美里の入れてくれたコーヒーを飲みながら待っていると、確認を終えたのかようやく純が口を開いた。
「結論から言うね!やっぱりアバター関連スキルは無し!代わりに、拓美君と千尋ちゃんと似たような特殊スキルが1つ!後は誰でも取得出来そうな一般スキルが沢山って感じだね!」
「特殊スキルと一般スキルか……なるほど」
今までスキルを区分する単語が無かったので妙にしっくりとくる説明だった。
「それで、純先輩の特殊スキルとはなんなんだ?」
「それはとりあえず見て貰おうかな!ここじゃ危ないかもしれないから地下広場でお披露目するよ!皆の者、着いて参れ!くふふふふっ!」
笑いながら一人で歩いて行く純に置いて行かれないように俺達もその後を追う。
「テンション高いなぁ……よっぽど良いスキルだったのか?」
「さぁ……」
☆ ☆ ☆
純に遅れて地下広場へと向かった俺達はスポナーの前で待っている純の元へと向かった。
「くふっ!来たね!じゃあ英美里、スライムをお願い!念の為に弱い奴で!」
「畏まりました。では!いきます!」
スライムが生成されるというもはや見慣れた光景。
いつものようにレッドスライムが生成されると、純が少し離れた場所から片手を額に当てて顔を覆い隠すようにしながら、もう片手を開いたまま自分の胸の高さで前に突き出した状態で叫ぶ。
「<水龍召喚>出でよ!ブルードラゴン!」
叫び声と共にレッドスライムの前に何かが現れた、叫び声から察するに恐らく純の新スキルは水龍を召喚するスキルのようだ。
「……」
「……」
新スキルにより召喚された水龍を見て皆が声を失い、ただただ水龍を見つめる。誰もが目を奪われるだろうその容姿に
召喚した本人さえも言葉を発する事が出来ない。水龍は皆が見守る中、空中に浮いたままスライムに向かって行く。見た目は正に龍そのものだ、色は全体的に蒼い。快晴の空のように綺麗な蒼色の鱗を纏う一匹の龍。蛇のような細長い胴体と前後で合計4本の手足、長く悠然とたなびく髭。威厳と畏怖を感じさせる顔つきだがどこか憎めない可愛らしい顔にも見えるのは召喚主が純という事も関係しているのかもしれない。
辺りに漂う重苦しい空気。
水龍はスライムという敵を目の前にしながら泰然自若としており、スライムに格の違いを分からせるかのようにゆっくりと近付いて行く。
どれ程の時間が経ったのか。水龍の放つ重圧のせいで体感時間と現実時間が乖離しているかのような感覚。それはまるで水の中でゆっくりと死を待つかのように重く苦しい。
俺が黙って水龍を見守っていると、不意に両隣に居たベルと千尋が肘で俺の事を突いてくる。
ここで俺が大きな声を出して水龍の邪魔をするわけにもいかないので純と水龍には聞こえないように小声で話す。
「なんだ、今良い所だぞ。静かに見守ろうぜ」
「いや……まぁ、うん」
珍しく歯切れの悪い千尋に困惑してしまう。
「マスター。このままでは純にゃんが水龍の重圧に耐えられないかもしれません。顔もあんなに赤くなって……必死で耐えているんだと思います」
ベルも水龍からは決して目を離さずに何時になく真剣な声音で語り掛けてくる
「そうか……じゃあ仕方ないな。ちょっと純の所に行ってくる」
コワイ。
だが俺は勇気を振りしぼってゆっくりと純に近づいて行った。
「純……その、なんだ……ドンマイ!これからこれから!頑張って行こうぜ!なっ!」
「……うん」
羞恥心なのか、それとも俺の優しい言葉に胸を打たれたのか赤い顔をした純は微かに頷いた。
水龍も俺のアバターや千尋の剣精と同じように、成長型のスキルという事が分かったので収穫はあったのだ。
例え水龍のサイズが猫程しか無かったとしても。
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