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英雄も事件が無ければただの人13


 今日の予定を全て消化して居間で疲弊した精神力を回復する為に千尋の膝枕で癒されながらステータスを開く。

「昨日アバター関連のスキルは全て取り終わったからなぁ……」



 G-SHOP 残SP85000


 スキル


・槍術 消費SP30000

・魔力操作 消費SP50000



「アバター関連に追加項目は無し、とりあえず取れるだけ取るかなぁ……」


「新しいスキルを取るのか?」


「もうアバター関連で取れるものが無くなったからな、仕方なくって感じではあるけどな」


「そうか……私からすればG-SHOPが使えるだけ羨ましいよ」


 未だダンジョンを攻略出来ていない千尋からすればスキルが取れるだけでも羨ましいのだろう。

 ベルによって怠惰ダンジョンの株分け作業は順調に進められてはいるが、如何せん消費DPが多いようで株分けはまだ出来ていない。

 優先度的には千尋の方が純よりも高い、これは役割が違うので仕方ない事とはいえ千尋を贔屓しているようで少しだけ純には悪いと思っている。


「まぁ……時間はもう少し掛かるけど、確実かつ安全にダンジョン攻略者には成れるからもう少しだけ我慢してくれ」


「わかっているさ。それでも少しだけ焦りがあるのも理解してくれ、国を救う英雄になるというのは存外プレッシャーなんだぞ」

 俺の鼻を軽く指先で叩きながら微笑む千尋から、子供を産んだ訳でも無いのに母性を感じてしまった。これではまるで俺が子供みたいで少しだけ恥ずかしくなり顔を横に背けた。


「ふふふ!何だか今とても幸せを感じているよ……良いものだなこういう風にゆっくりとした時間を夫婦二人きりで過ごすというのも」


 ヒキニートの旦那が働き者の嫁に膝枕されて甘えているというのは世間体的に見れば相当ヤバイとは思うが、お互いが幸せならそれで良い筈だ。


「……二人っきりでは無いけどね!私も居るし!ベルも英美里も居るんだからね!いちゃいちゃは許すけど、居ない者扱いは流石に看過出来ないよ!私も混ぜろぉ!」


 仲間外れにしたつもりは無かったが、今まで空気を読んでいてくれた純も千尋の二人っきり発言には流石に我慢出来なかったようだ。


「じゃあ純は俺の上だな、サイズ的に」

「任せなさぁい!」

 ふわりと優しく純が俺の上に抱き着くように寝転がる。

 正直に言えば少し苦しいが我慢できない程でも無いのでそのまま純が落ちないように両腕で包み込むように抱き止めた。 

「なんだこの背徳感は……だが幸せだ!」

 嫁二人に癒されながら英美里が作る夕食を待った。



「いや、重いんだけど……」

 千尋は少し不満そうだった。



 ☆ ☆ ☆



 ダンジョン豚を使った生姜焼きを食べて純と一緒に俺の部屋へと向かった。

 今日は純と夜を過ごす。

 緊張しているのはもうどうしようもない、期待感で胸が一杯なのだから。

 今夜俺は純と初めての夜を過ごすのだから。

 


「まだ寝るには早いし、ゲームでもするか?」

「そうだね……そうしよう……うん……それが良いよ」

 俺以上に緊張している純はとても可愛い。

 これで俺よりも年上というのが謎だ、人体の神秘という奴なのかもしれない。


「そういえば……昔一緒にやってたカードゲームありますけどやります?デッキは俺の組んでるのしか無いんで、純が使ってたようなコンボ系のデッキは無いですけど」


「うん……うん?昔私に散々負けたあげく、先輩とはもうやりません!と言っていた君がデュエルスターズで私に挑むなんて、拓美君も中々成長したようだね!くふふっ!これは楽しくなってきたね!デッキと余りのカードを少しだけ見せて貰っても良いかい?即席で私好みのデッキを作って昔みたいにまたコテンパンにしてあげるよ!」


 俺と純が高校の時にやっていたデュエルスターズというトレーディングカードゲームはシンプルなルールだがそこにカードの効果が複雑に絡み合う事で、シンプルでありながらも読み合い、戦略、運、これらが上手い具合に合わさる事でカードゲームとしての面白さを際立たせている今でも人気のトレーディングカードゲームだ。

 オセロ、チェス、将棋でフルボッコにされた俺が唯一純に勝てると思って挑んだのが全ての始まりだった。

 最初はお互いに同じスターターと呼ばれる構築済みのデッキで勝負して俺が初めて純に勝利した事は今でも覚えている。



「絶対に負けねぇからな!」

 俺が勝てていたのは最初だけだった。

 純はいつの間にかカードを揃えてデッキを組んでいて、俺にリベンジマッチを仕掛けてきたのだ。

 最初は平等に同じデッキを使っての勝負だったので昔からデュエルスターズをやっていた俺が勝利する事ができたが、それぞれが作成したデッキで勝負をしてからというもの、俺は負け越している。

 俺の勝率は良くて二割だろう、つまり八割近く負けていた、そんなに負け越せばそりゃ誰だって勝負したく無くなるさ。


「くふふっ!私の龍脈大噴火デッキが使えないのは少し残念だけど、デッキを組ませて貰えれば私が拓美君に負け越す事は絶対に無い!なんせ頭の出来が違うからね!」


 俺に向かって指を差しながら笑う純に軽くイラつきながらも俺のお気に入りのデッキ達から一つ選び手元に置いておく。


「俺だって昔は店舗大会で優勝したこともあるんだからな!」


「それはおめでとう!その大会に私が参加して無くて良かったね!」


 純は昔からこうだ。

 人を散々煽り散らして判断力の低下を狙ってくるのだ。

 こういう盤外戦術も平気で仕掛けてくるのだから侮れない。


「大会に純が参加してたとしても大会の緊張感に飲まれて何も出来なかったと思うけど?」


 俺も負けじと煽り返す。

 こういうやりとりが正直一番楽しい。


「くふふっ!言ってくれるねぇ!そもそも参加者の八割が小中学生しかいない大会なんて私が出る訳無いんだよね!恥ずかしくて!そんな大会で優勝した事を自慢げに話してるのは、大人としてどうかと思うなぁ」


 確かに。


「……返す言葉もありません」


「くふっ!じゃあデッキも完成したし、いざ尋常に勝負だ!」


「泣いても知らないからな!」

「それはこちらのセリフだよ拓美君!」


「「デュエルスタート!」」




 この熱き一戦を制したのは純のランデスデッキだった。




「……参りました」

「くふふっ!いやぁ泣かなかっただけマシだね!どんまい!」

 時代錯誤のランデスデッキに負けたのが非常に悔しい。

「……今度はコイツで勝負だ!最強のドラゴンデッキで絶対に泣かす!」


「良いだろう!では私はドラゴンに環境を奪われたワイバーンデッキでお相手しよう!」



「「デュエルスタート!」」



 ☆ ☆ ☆



 何度もデッキを作り替えながらお互い色々なデッキで勝負を続けたが勝率は15対5で俺のボロ負けに終わった。


「いやぁ久々にやってみたけど面白いね!拓美君も意外と頑張ってたしね!くふふ!」


「正直勝ち越せるとは思って無かったから結果はどうでも良いんだけど……勝った試合が純が事故った時だけってのが納得いかない」


「くふふ!私に勝つにはまだまだ遠いようだね!さて……もう良い時間だし……そろそろ寝ようか?」


「そうだな……じゃあカード片付けるか」


「うん……楽しかったね」


「あぁ……高校生の時を思い出したよ」


「そうだね……君は昔から変わらないね」


「大分変わってるよお互いな……」



 カードを片付けてから二人で床に入る。

 電気を暗くして寝る準備は直ぐに整った。


「「……」」


 互いの息遣いだけが聞こえる距離。

 静かに見つめ合いながら言葉を紡いだ。





「愛してる」

「私も愛してるぞ……旦那様」




 静かに夜が始まった。








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