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小さな発見は大きな事件8


 人は何故、ゲームを身にならないと分かっているのに辞める事が出来ないのだろう。

 人生において決して必要では無い時間。

 無価値といっても良いだろう。

 中にはゲームをする事で金銭を得ている人も居る。

 だがそんな人達はゲーム人口から見ても少数派だ。

 むしろ大半の人は自分のお金を使ってゲームをやっている。

 ゲームをする時間ははっきり言って無駄だ、非効率的で生産性に欠ける。

 ゲームをしている人は大体その事に気付いているだろう。

 でも辞めない、辞められない。

 辞めてしまった人も多く居るだろう、だが何かしらのタイミングで再びゲームというものに触れている人は多い。

 自分ではゲームをやらなくなったがゲーム実況を見ている人や、人に勧められてだったり人に頼まれたりして自分もゲームを再開する人、様々な形でゲームに接しているだろう。

 だがここで今一度冷静に考えて欲しい。

 お金もかかる、時間もかかる、何も生み出さない、むしろ人生に置いて足を引っ張っていると。

 中毒性が高い事もマイナス要素だろう。

 それでも何故人はゲームを辞められないのか。


 ゲームというコンテンツが好き、楽しい、面白い、趣味、習慣、人生の一部、色々な意見がある。

 そういう熱がある内は辞めないし、辞められないんだろうとも思う。


 それでも俺はゲームを辞めない、何故なら。

 ゲーム最高!

 めっちゃ楽しい!

 面白い!

 ゲームは人生!

 ストレス発散に丁度良い!


 薬、ダメ、絶対!

 薬物で脳を蕩けさせるぐらいならゲームで脳を蕩けさせよう!



「世界がヤバイ!でも俺ネトゲ辞められないんだけど!」

 しょうも無い薬物依存の啓発を考えながらネトゲに興じる、控え目に言って最高です。


 ネトゲの日課をこなしているとぴこんと音が鳴り、普段は音が鳴らない多機能時計と化している俺の携帯がメッセージが届いた事を知らせてくる。

「誰だ?俺の携帯に連絡が来るなんて珍しいな……」

 メッセージの送り主の名前を見て、心臓が高鳴った。

「店長からメッセなんて珍しいな、何かあったのかな……」

 普段はメッセージを送って来ない絶賛片思いの人からのメッセージに嬉しさと一抹の不安を覚えながらメッセージを開いた。


『急にすみません、喫茶なごみを辞める事になりました。なのでオーナーもこの機会になごみを閉店するそうです。詳しい事を伝えておきたいので電話でも良いから話がしたいです。連絡お待ちしています』


 鈍器で頭を殴られたような衝撃に記憶と意識が吹き飛びそうになる。

 あんなにも愛していた店を何故辞めてしまうのか、天職だと言っていた先輩が何故。

 オーナーが高齢だからと閉店しようとした時に雇われ店長を務めると言って閉店するのを辞めさせた程の人が何故。

 分からない、頭が混乱している。

 だが考えられる理由が一つだけ思い浮かんだ。

 まさかとは思う、だがそれ以外にあのコーヒー馬鹿の先輩が仕事を辞める理由が思いつかなかった。



「結婚……するのか?」


 もしかしたら子供がお腹の中に居る可能性もある。

 だが相手は誰だ、そんな浮いた話など聞いたことが無い。

 もしかして俺にだけ言って無かったのか。

 過去振った相手には言い辛い事だろうし。

 コーヒー一筋だと思っていた先輩。

 裏表の無い人だと思い込んでいたのか。

 コーヒー豆をわざわざ現地に行って買い付けたり、契約しに行くほどのコーヒー馬鹿の先輩がカフェを辞める理由なんてそれぐらいしか思いつかない。

 俺はどうすれば良い。

 この思いを何処にぶつければ良い。

 だが思い人が幸せならそれで良いんじゃないか。

 自分に言い聞かせる。

 そうだ、先輩が幸せなら俺が祝福してやらないと。

 受けた恩はまだ返しきれてはいないが、精一杯の祝福をしてあげたい。


 頬を伝う暖かくも冷たくもあるそれを拭いながら、返信ボタンに指をかける。

 メッセージは短く簡潔に。


『今、電話できますか?』


 送信する事を躊躇う自分が居た。

 このメッセージを送ってしまえば、先輩が何処か遠くに行ってしまう気がして。


 震える指先に信号を送ってなんとかメッセージを送った。

「ふぅ……落ち着け、大丈夫だ……明るく元気に……いつも通りで良い」

 自分に暗示を掛けながら先輩からの返事を待つ。


 手の中で携帯が震えた。

 電話が店長から掛かってきた。

 画面を軽く見つめてから通話ボタンを押した。


「はい!もしもし!店長、突然どうしたんですか?なごみ辞めるなんて何かあったんですか?俺にできる事あるなら言ってください、俺じゃ力になれないかも知れないですけど、店長にはかなりお世話になってるし、恩も感じてるんで、いや、本当に、何が……なんだかわかりませんよ」

 先輩と喋りたいのに声を聞きたいのに、聞きたくない。

 矢継ぎ早に言葉を吐いて少しでも時間を伸ばそうとするが、途中から声が震えて言葉が出なくなった。


「あはは……今日は良く喋るね……突然ごめんね?」

 いつもよりも沈んだ声、それでもこちらを気遣ってくれる優しい先輩。

「拓美君に長期休暇にしとくからなんて言っておいてこんな事になっちゃって本当にごめんね、でもだからこそ拓美君にはきちんと私の口から説明したくてさ……」


「先輩が、気にする事じゃ無いっすよ……」


「あはは……先輩って久々に言われた気がする……店長と呼びなさい!ってもう言えなくなっちゃうね……ごめん、ちょっと落ち着いてから話すから、少し待っててくれないかな」

「はい」


 お互い無言の時間が訪れる。

 先輩との思い出が走馬灯のように蘇る。


 高校生なのにコーヒーが大好きでなごみの店長の煎れるコーヒーに惚れ込んでバイトしたと言っていた先輩。

 バイトの休憩中や時間外に店長に頼み込んでコーヒーについて勉強していた先輩。

 美人で可愛いのにコーヒーの事になると熱が入り過ぎて高校では不気味がられていた先輩。

 大学行くんですかと尋ねたら「行く時間が勿体ないから行かない!」とコーヒーに全力投球な先輩。

 コーヒーの飲み過ぎなのか「胃の調子悪いから、今日はコーヒーは飲めない……」と言いながらコーヒーに牛乳を入れて飲んでいた先輩。

 何処から仕入れてきたのか分からないがメイド服とコーヒー豆の擬人化キャラクターの着ぐるみを持ってきて「これを着て宣伝に行けばもっとなごみのコーヒーを知ってもらえるから!」と言って自分でコーヒー豆の着ぐるみを着て俺にメイド服を着させて駅まで宣伝の為に連れて行った先輩。

 珍しく携帯機のゲームを見せてきて「バリスタが出てくるって友達に聞いて借りたんだけど……全然出てこないからそこまで進めてくれないかな?拓美君ゲーム好きだよね?」と狩りゲーを渡してきた先輩。

 答えは知っていたけど揶揄うつもりでそこまで進めて「これがバリスタです」と据え置き式の大型弩砲を見せると「人じゃなくて機械の方だったのか……でもこれってどうやってコーヒー入れるんだろ?」と不思議そうに据え置き式の大型弩砲を見ていた先輩。

 貴方にはコーヒーに対する愛が足りないと説教をかまして俺をバイトに誘ってくれた同級生を辞めさせた先輩。

 告白した俺を「今はコーヒー以外愛せない」と真顔で振った先輩。

 就職を期にバイトを辞める俺に「拓美君はコーヒーの知識が無いし味もあんまり理解してくれないけど、拓美君みたいにコーヒーが好きな人が辞めるのは仕方ないことだけど寂しいね」と言ってくれた先輩。

 就職して仕事にも慣れてきた頃に久々に先輩から電話がかかってきて「店長になりました!なごみの味は私が守っていきます!」と閉店を免れて嬉しくなりすぎて、地元を離れていた俺に訳の分からない報告を入れてくれた先輩。

 俺が地元に帰ってきて腐っていたのを見兼ねて「暇ならなごみで働かない?」と俺の社会復帰を支援してくれた先輩。

 いざバイトを始めたら「建築系の会社に居たんだよね?改装?とかリフォーム?って出来る?」と無茶ぶりをしてきた先輩。

 良い所を魅せたくて「多少は自分でも出来ますし、改装業者に交渉して多少安くさせるぐらいなら出来ますけど、予算はどのくらいですか?」と聞くと「予算は10万円で!」と満面の笑みで返してきた先輩。

 匠が聞いても裸足で逃げ出すような低予算を提示してきて「予算が足りません、一人分の賃金分も出ませんから無理です」と即答したら「バイトの時間を全部使っても良いから、出来ない?」と懇願してきた先輩。

 惚れた弱みで「外装は専門外なんで無理ですけど、内装なら多少は出来ると思います」と言うと「じゃあ!若い子が入ってくれそうなカフェみたいな感じで!」と昔ながらの渋い店内を今風のカフェにしてくれと予算10万で頼んできた先輩。

 内心無理だと思いながらも「出来る限りの事はやりますけど、文句はつけないでくださいね?」と答えると「わかってるよ!ありがとう!」と言った先輩。

 どんな風に改装するか話し合って決めて、予算内で出来る最大限で作成した改装案を元にいざ作業を始めたら「ここのライトを明るいのに変えて欲しい……この壁紙をもっと可愛いのにして欲しい……照明をここにも増やして欲しい……机と椅子も新しく綺麗にしたい……映えスペースも欲しい……」とか色々無理な注文をしてきた先輩。

 もはやバイトじゃなくてただの格安で使える業者になっていた俺に「今日もお疲れ様!」といって毎回コーヒーを煎れてくれた先輩。

 なんだかんだ色々修正しながら毎日のように作業して3カ月も掛けてやっと終わった改装を終えて達成感と充実感で色々な事が吹っ切れた俺に「はいこれ!」と手書きでボーナスと書かれた封筒を何気なく渡してきた先輩。

 昔の会社で貰っていた額には及ばないけど、ただのバイトに「あらためて言うのは違うかもしれないけど……おかえり!拓美君!」と今まで貰っていたボーナスよりもよっぽど価値のある真心の籠ったボーナスをくれた先輩。

 

 本当に色々な事があった、理不尽な事も沢山言われた、でも俺の事を考えて俺が活躍する機会を与えようとしてくれていた事も今の俺は理解していた。

 俺をいつも気遣って明るく声を掛けてくれた。

 俺が仕事以外の事を深く考えないで良いようにしてくれた。

 俺が大好きなコーヒーをいつも何も言わずに煎れてくれた。

 事情も聞かずに俺を雇ってくれた。

 優しく接するだけが優しさでは無いと教えてくれた。


 何か一つの事を突き詰めようとする先輩の姿は俺にはいつも眩しく映っていた。

 尊敬、憧憬、羨望、嫉妬、恋慕、諦念、感銘、色々な感情を俺に齎せてくれた先輩に感謝をしながら先輩の言葉を待った。


 先輩との縁が無くなるぐらいなら永遠に続けば良いと思っていた長い沈黙が先輩が大きく深呼吸した音で終わる事を悟ってしまった。



















「私ね、<水神の加護>を授かったから<超常現象対策本部>に行くことにしたんだ……これも運命かもしれないと思ってさ……ごめんね拓美君……」

「……おめでとうございます先輩!」

(いやいやいや!そっちの事かーい!てっきり結婚の話かと思ってたわ!)


「ありがとう!私……美味しいコーヒーの為に世界救ってみせるから!」





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