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小さな発見は大きな事件2


 玄関を開けると目の前に6人のメイドが居た。

 その内5人は分かる。

 英美里とエルフルズの面々だ、だが俺の正面に居る腰まである長い黒髪の大和撫子を体現したかのような美の女神は見たことが無かった。

 急な出来事に頭が追い付かない。


「「「「「「おかえりなさいませご主人様!」」」」」」

 

「ただいま……です」

 挨拶されたのでもはや反射でただいまを返す。

 不意に右腕を掴まれそのまま玄関の外へと引っ張り出される。

「これなんなんっ!どういうこと?訳わからんけん!いつからメイドさん雇っとん?しかも6人も!流石に説明してくれん?」

 玄関先でひそひそと耳元でメイドについての説明を要求される、だが俺にも一人見覚えのないメイドが混じっていた。


「いや……5人は知っちょるんやけど一人は俺も見た事無いけんわからんのやけんど……とりあえず家ん中入って説明するけん!」


 俺も混乱状態ではあるがこのままでは話が進まないので強引に千尋の腕を引っ張って家の中へと招き入れた。


「応接室にご案内致しますか?」

 二人で再び玄関に入ると英美里が何処へ招き入れるか尋ねてきた。

「いや、とりあえず居間に行こう。居間なら全員座って話が出来るから、俺も色々と皆に聞きたいことがあるし」

「はい!では居間へご案内致します!」


 英美里が来客用のスリッパを千尋の足元に差し出てから、半身になりながら右手を居間の方学を差しながら頭を下げた。

 まるで本物のメイドのような振る舞いに猫被ってんなコイツという感想を胸に仕舞いながら千尋を居間へと連れて行った。


 居間に入ると居間の大きな机を囲むように座布団が8席分既に用意されていたので、俺はいつもの席へと腰を降ろす。

 続いて俺の右隣には千尋が座り、左隣には見覚えの無い黒髪の美女が座った。

 俺達三人が席に着いたのを見計らって英美里とエルフルズで人数分のお茶と何種類もの木の実が入ったパウンドケーキが置かれていく。

 お茶とお茶菓子が配られるまでの間に小声で千尋に話しかける。

「こういう時って普通さ、俺の正面に座るんやないん?」

「知らん人多すぎて怖いけん……しょうがないやん!」

 意外と人見知りするタイプの千尋なら仕方無いかと肩を竦める。


 お茶とお茶菓子を配り終えたタイミングで英美里とエルフルズが席へと着く、俺の正面には英美里が、千尋の正面にはリーダーが、黒髪の美女の正面には風エルフが座り、俺から見て右側の辺に土エルフ、反対側に光エルフが座った。


「ではまずは自己紹介からはじめませんか?」

 進行役は英美里がやるようで自己紹介を促してくる。

「そうだな、その方が色々と説明もしやすいしな。じゃあここは一応俺からやらせてもらうぞ。名前は児玉拓美、LVは18でスキルは怠惰とアバター系と念話、加護は娯楽神の加護を持ってる。あと<怠惰ダンジョン>のマスターもやってる」


 俺は体ごと千尋の方を向けて包み隠さず俺の事を伝えた。

 千尋は俺の話を聞きながら目を見開き、驚愕の表情を浮かべた、言いたい事も聞きたいこともあるだろうがまずは自己紹介を優先させる。

 ここには来れないベルの事も紹介しようかと考えたが、ベルには直接自己紹介して貰った方が良いと思ってわざと説明を省いた。


「次は英美里頼む」

「はい!」

 返事をして一礼してから立ち上がり再度礼をした。

 どこまで猫を被り続けるのか、それと結構作法を間違えてると伝えた方が良いのかとか考えてしまう。


「私はメイドの英美里と申します。生まれは<怠惰ダンジョン>で、種族は<メイドラキュラ>です。得意な事はメイドです。宜しくお願い致します!」

 メイド推しの英美里の自己紹介はどこか残念臭がした。


「次は……」

 俺が言い淀むとリーダーが手を挙げた、まあ妥当かと思い手で合図してリーダーに自己紹介を促すとリーダーが立ち上がり自己紹介を始めた。

「私は皆さんからはリーダーと呼ばれておりますが正式な名前はありません、ですので呼びたいように呼んで頂いて構いません!種族はエルフです、得意な事は水魔法です!よろしくお願いいたします!」


 当たり障りのない良い自己紹介をしてくれたリーダーに続いて残りのエルフルズもリーダーに倣って自己紹介をしていった。



 残ったのは千尋と黒髪の美女だけ、黒髪の美女の正体についてはなんとなく察しは付いている。

 恐らく昨日話していた鬼人の事だろうと思うので、千尋を最後に回した方が良いと判断して黒髪の美女に手で自己紹介を促した。


「では!」

 黒髪の美女が立ち上がり俺と千尋を交互に見てから口を開いた。






「私の名前は<ベル>です!元々は意思の無い石ころだったダンジョンコアの<ベル>です!」


 ベルが万感の思いを込めた表情で、口調で、今にも泣きそうになりながらも大きな、とても大きな、聞いたものを虜にするような綺麗で力強い声で本当の意味で初めて自己紹介をした。

 あぁそうかやっとお前は<ベル>は自分の体を手に入れる事が出来たんだな。


「私の意思をこの世界に発現させてくれたのはマスターです!マスターが私に声を掛けてくれたから私は生まれました!」


 もう良い、もう良いんだベル。

 綺麗な顔が涙でぐしゃぐしゃじゃないか。


「私はマスターの為にここに居ます!例えマスターが許そうともマスターと、この<怠惰ダンジョン>が不利益を被る事態が起きれば私がこの手で貴方を殺します!私は恐いです!外の世界が!貴方が!」


 叫び、咽び、嗚咽しながらもベルは言葉を吐き続ける。

 ベルが何を感じて何を思って言葉を紡いでいるのかは俺には理解出来ない、だがこれだけは分かる。

 ベルは俺のパートナーで本当の意味で俺の隣に立ってくれている、俺の代わりに<怠惰ダンジョン>を守ろうとしてくれている。

 俺は気付けてやれなかった、俺が幼馴染だからと気軽に千尋を招待したことの重さとベル達の本心を。

 心の奥では嫌だったのだろう、恐かったのだろう、でも俺の本心が透けてしまっていたから、気を使わせてしまった。


「いつの日か私達のマスターを奪って行ってしまうかもしれない貴方が!私は恐い!こんな思いになるなら……貴方を<怠惰ダンジョン>なんかに入れなければ良かったと思ってしまう!でもそれはマスターの想いとは違うから……それが分かってしまうから……だから仕方なく貴方を受け入れました!」


 俺のせいなんだ、だからもう泣くなベル。

 俺が甘いから悪いんだ、だから全部俺のせいにしても良いんだ。

 断るのが正解だったと俺も思う、この状況でこのタイミングで千尋をここに招き入れるメリットなんか本当は一つも無い事ぐらい分かってたよ。

 それでも俺は千尋を拒絶したく無かった。

 それがお前には分かってしまうから、千尋を招待するように俺を誘導してくれたんだろ?

 だからもう辞めろ、お前がわざわざ憎まれ役なんてする必要なんて無いんだ。


「ベル、ありがとう。ここからは俺の役目だ」


 俺の想いを優先してくれて。

 俺の我儘に付き合ってくれて。

 ありがとう。


「さて!」


 出来るだけ場の空気を明るくする為に大きな声で仕切り直す。


 悪気があったのか無かったのかそんな事は後回しにして、

なるべく笑顔を心掛けて優しく、ただの事実確認をする為に。

 怒りとか悲しみとかそういう感情は一切無い、本当に確認する為だけの質問を優しさと慈しみを込めて千尋にぶつける。




「どういうつもりだ?千尋?何がとは言わない……俺はお前の事を信じてるから、だから本当の事を話して欲しい。別にお前の事を傷付けようって訳じゃない。でも俺も腹を割って話しをしたし、俺の能力についても嘘偽り無く伝えた。だから教えてくれ千尋、どういうつもりだ?」



 千尋が下を向いていた顔を上げて口を開く。


「私の名前は佐々木千尋」


 千尋が自己紹介を始めた。

 俺達は静かに彼女の言葉の続きを待った。

 彼女も怖いのだろう、膝の上で重ねた手は微かに震えていた。



「まこちゃんの幼馴染です」


 覚悟を決めたのか彼女の震えは次第に収まっていった。

 彼女は強い、肉体的にも精神的にも。

 出来る事なら穏便に事を済ませたい。

 彼女がどんな事を語ろうとも。



「LVは5、スキルは<剣術>と<抜刀術>」



 彼女は自身のパーソナルデータを語っていく。



「加護は<剣神の加護>能力は鑑定、同類言語理解、アイテムボックス、それと<剣神の研鑽>効果は剣術を行っている場合、経験値を取得し、能力値、成長値上昇効果」



 どこか落ち着き払った様子で言葉を続ける。



「私は剣の鍛錬をするだけでレベルが上昇しました、加護については動画や政府の会見を見て他言はマズイと思って他人には隠していました。鑑定は両親と門下生の数人に試しに使った事があります、そして今日もこの席に着いてから何度も使おうとしました」



 ベルが彼女を睨み続けている。

 獲物を見つけた猛獣のように。

 彼女の一挙手一動見逃さないように。



「まこちゃんの言っている事が本当か確かめる為に、でも鑑定は不発に終わりました。英美里さんがメイドラキュラだと言った時に、まこちゃんを守ろうとして咄嗟に机の下でアイテムボックスから刀を取り出そうとしましたがこれも不発でした。不審に思い何度も試しましたが出来ませんでした」



 訥々と喋り続ける千尋を見て俺はこの時点で千尋が嘘を言っておらず、俺達に敵意は無いと判断を下した。

 エルフルズも英美里も最初から敵意は無かった。

 だがベルは今も尚千尋を疑っているようだった、本当に頭が下がる。



「私は焦りました、今まで使えていた筈の力が使えなくなっていたので。そしてベルさんが自己紹介を始めました、本気の殺意というものを初めて体感して私は恐怖で震えが止まりませんでした。ですがベルさんが本気でまこちゃんを想って守ろうとしていたのは痛いほどに分かりました、私だって同じ気持ちだから」



 誰を見るでも無く一点を見つめながら語る千尋の横顔はとても凛々しくて、昔から変わらず真っ直ぐで正義感が強くて不器用なままの俺の憧れた千尋のままだった。



「まこちゃんが優しく私に語り掛けてくれた時に私の持っている能力を語ろうと決めました、まこちゃんを裏切らない為に、ベルさんと向き合う為に。謝罪はしません、私の行動で不快な思いをさせてしまったのかもしれませんが私は私に出来る全てを掛けてでもまこちゃんを守る為に能力を使おうとしただけですから、結果は不発に終わりましたがね。ベルさん同様、私の幼馴染を傷付けるなら私も貴方達を許しません!何があっても!絶対に!」


 言い切ってすっきりしたのか笑顔を浮かべた千尋に見惚れてしまうのは初恋の相手だからだろうか。



「良し!許す!ありがとう千尋!」


 誰かが何かを言う前に俺が独断で俺の我儘で千尋を許した。


「こんなに千尋が俺の事想ってるなんて知らなかったよ!……今は返事はしないからな」


 返事など出来る筈も無い、俺にはその資格はまだ無い。

 俺にはベルや千尋みたいな決意も覚悟も無いから。


「ベル!仲直りしろ!」


 ジト目で何か言いたそうなベルを無視して千尋と仲直りの握手を無理やりさせる。

 一方は笑顔で、もう一方はムスッと不満ありげに握手を交わした。














「そういえばベル、お前どうやって肉体を手に入れたんだ?」

「気合と根性と愛ですよ!」

「えぇ……」






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