世界が変わっても人間そんなに変わらない11
家族が作ってくれる料理というものは本当にありがたいし、本当に美味しい物である。
今までは自分で作るか出来合いのお総菜を買ってきて白米を炊いて食べたり、面倒だからと食べなかったりしていた。
健康面を気にするのであれば栄養バランスも考えて食べた方が良いと思うが一人暮らしではどうしても好きな物だけを食べてしまう。
どんどん家の食料事情は良くなっている、エルフ達が作っている作物も少しずつ食卓に並んでいるらしい。
そんな我が家の今日の晩御飯は野菜ましましカレーライスでした。
☆ ☆ ☆
もはや恒例となった食後のコーヒーを飲み終え自室へと戻った俺は1年程ログインしていなかったネトゲのフレンドに誘われてPTを組んでいた。
《暇だし手伝うのも良いけど、1年分の遅れを取り戻すのは結構時間かかるよ?》
久々のフレンドとのチャット、1年程前迄はお互いにPT用のコンテンツを回ったりしていたフレンドだが気が付けばログインするのは俺だけになっていた。
《まこみんが手伝ってくれるならすぐでしょ?》
こいつは相変わらず人使いが荒い、だがそれがなんだが懐かしくて嬉しい。
正直な話、もう戻ってくる事は無いと思っていたし、別にどうでも良いとも思っていた。
ネトゲ内のフレンドなんてそんなものだ、今まで何人も居た中の一人でしか無かった。
《っていうか急に復帰なんかしてどうした?》
《まぁリアルでストレスが多くてストレス発散とダンジョンについて何かヒントになればと思ってね》
彼もまたストレス社会で生きる現代人である。
ダンジョンについてのヒントというのは良くは分からないが、大方変わった世界でダンジョンが出現した時に少しでも予習出来れば良いなとか考えているのだろう。
《今リアルは大変だしね、サクッと新コンテンツやって新装備整えて迷宮行けるようにすれば後は俺が居なくても大丈夫だと思うから》
《ありがとう、まこみんが居なかったら何から手を付ければ良いかも調べないと駄目だったからマジで助かる》
今日はフレンドのお手伝いだけで終わりそうだなと面倒でもあり、これからまた一緒に遊べるかもしれないという期待もあって楽しくチャットしながらフレンドの装備とコンテンツの攻略を開始する。
《ところでさ、良いかげんボイチャとか導入しないの?》
《なんで?チャットで良くない?》
《いや単純にチャット打つの面倒だし、テンポ悪くない?》
《まこみんはそんなに俺と喋りたいの?キモ》
《キモくなーい、一応デスコのコード貼っとくわインして無い時はこっちにチャットして》
正直ネトゲしながらの手打ちチャットが面倒になってきた俺はボイチャに切り替えれるならその方が楽だと思いデスコというボイスチャットアプリのフレコードを貼り付けた。
《しょーがないなーまこみんは、フレ登録送るよ》
《うい》
デスコに通知が届く、デスコには無限迷宮と同じ名前を使っているのか<さひろう>からフレンド登録が届いていた。
《おけフレ登録したよ》
昔はボイチャ自体に抵抗があったがここ一年ぐらいでその抵抗も無くなった、今やネトゲではテキストチャットでは無くボイスチャットが主流となっていた。
《どーも、あんまり気乗りしないけどボイチャに切り替える?》
さひろうからボイチャの許可が出たので、ヘッドセットを付けて通話ボタンを押した。
呼び出し後すぐに通話になるが、マイクの準備でもしているのかガサゴソと雑音がしばらく続く。
「あーあー聞こえてんのこれ?」
声を聞いてまず驚いた、明らかに女性だと分かる声がヘッドセットから聞こえてきたのだ。
「お、おう、聞こえてます……<さひろう>さんって女性だったんですね……」
「なーに畏まってんの、っていうか声聞いて気付かないの?」
声を聞いて一体何に気付けと言うのだろうか。
「いえ……なんのことか良く分かりませんが……」
「私だよ、久しぶりまこちゃん!今まで全く気付いてくれなかったから飽きて無限迷宮辞めちゃったけど流石にボイチャすれば気付くと思ってね!」
俺の事を<まこちゃん>というあだ名で呼ぶ人は一人しか知らない。
かつての幼馴染で俺の初恋で失恋の相手。
「おま!まさか……千尋か?」
「正解!久しぶりだねまこちゃん!元気してた?」
<さひろう>こと、佐々木千尋は相変わらず元気そうな声でなんでも無いように話しかけてきた。
「久しぶり……ってそうじゃねぇ!なんでお前が俺のアカウント知ってんだよ!びっくりしたわ!さひろうってなんだよ言えよ!めっちゃ恥ずかしいんだけど!」
「あっはははは!びっくりしたでしょ?大学の時に一回家に行ったじゃん?その時にまこちゃんも無限迷宮やってるんだーと思って名前覚えて帰って、フレ申請したら気付くかな?と思ってたら全く気付かないからまぁいいかって今まで黙ってた!ごめんね?」
無限迷宮というネトゲがリリースされたばかりの頃に<さひろう>とはフレンドになった、その時は特に何も考えず一緒に遊んだ人だろうと思って申請を許可した記憶がある。
「じゃあ……地元が一緒なのも昔剣道やってたのもわざと教えてたのか?」
今思えば何故かネトゲ界隈ではあまり推奨されない個人情報を言ってきたり、俺と共通点が多かったのも頷ける。
そのおかげもあって仲良くなり、ネトゲ内では一番遊んだプレイヤーがまさかの幼馴染で失恋相手で才能というものを最初に魅せつけられた千尋だったとは。
「そうそう!気付くかなと思って!まぁ全然気づかないからもういいやって思ってね!」
「いや、もうちょっと頑張れよ!リアルでヒント出したりとか……そもそも10年も黙ってるなよ……言うタイミングもっとあっただろ!」
「こっちも意地になっててさ!流石にこんだけ情報出せばまこちゃんなら気付くだろうと思って!なんせ告白した相手なんだしさ!」
中学3年の時に告白して振られた記憶が鮮明に蘇る。
「おまえっ!それは反則だろ!こっちはなけなしの勇気を出して告白したんだぞ!謝れ!純真だった頃の俺に!」
まこちゃんはそういうのじゃ無いからと言われて振られた中学生の俺に謝って欲しい。
「いやー、まぁあの頃はね?身近過ぎてまこちゃんの事全然見えて無くてさ!だから……高校卒業して、一人暮らし始めたまこちゃんに会いに行ったんだよ?それをまこちゃんは……乙女の気持ちに全く気付いてくれないから!やれバイト先の先輩に振られたとかまだ好きで引きずってるだとか!勇気を出して家に行った大学生の私に謝れ!乙女だった頃の私に!」
聞いたことが無い10年程前の話。
「えっ……俺の事好きだったの?」
「うわ……なにその勘違い男みたいなセリフ……まぁ否定は出来ないんだけど!でもそのせいで私は今でも結婚出来ずに職場じゃ針の筵だったんだから!」
「それはごめん?」
「許す!っとそういえば私この間実家に戻ってきたんだけど戻ってきたと思ったら例の声があったじゃない?」
「いやそれは知らんけど……ってかこの時期に実家に戻ってきたってなんでだ?私立の高校教師だっただろ?」
「まぁ……色々あってね!女子剣道部の顧問外されたから辞めちゃった!だから実家の道場を継ごうかなと思ってね……」
千尋の実家は地元じゃ有名な剣道場をやっている、俺も小学生の頃に通い始めてその剣道場で初めて千尋に出会った。
「お前ほどの奴が顧問外されるって……何があったんだよ?」
千尋は昔から強かった、男子にも年上にもあまり負けている姿を見たことが無かったし中学、高校、大学では全国大会で連覇し続けていた。
「まぁ……時代って奴に負けたって感じかな?私の指導法は現代じゃ厳しすぎるみたいでさ!仕方無いとは思うけど、私には剣道しか無いから……」
持たざる者と持っている者では苦悩は分かり合えない事を察した。
剣道しか無いと千尋は言うが千尋には剣道がある、持たざる者である俺からすればそれは贅沢な悩みに思えた。
「なるほどな俺にはお前の悩みが理解は出来んが……お疲れ様!良く頑張ったな!これからは道場で剣道続けるんだろ?良かったな!好きなんだろ?剣道!続けられる環境があるってのは幸せな事だよ!」
「はぁ……昔の自分を殴ってやりたい気分だよ……ありがとう……まこちゃん!……今度お線香をあげに行っても良いかな?おじさんとおばさんに挨拶しておきたいし……まこちゃんとはゆっくり話がしたいしさ!」
ちょっと待って欲しい、今家に来られると非常にマズイ。
この状態の家に妹以外を入れたくないのが本音である。
「いや、それは……ちょっと待とうか!大体葬式には来てくれたんだし!わざわざ家に来て線香なんて上げなくてもお袋と親父は千尋の事見てくれてるだろうし?距離的にちょっとあるじゃん?面倒だろ?車持ってないだろ?落ち着いて車買ってからでも良いよ!うん、そうだ!そうしよう!それが良いよ!わざわざこの大変な時期にこんな山奥に来る必要無いって!話があるなら俺が行くよ!車も……ある……し」
しまったと思ったが既に遅かった、車はあっても今の俺では運転できない。
運転すれば<怠惰の業>が発動してしまう。
「いや、私車持ってるから!……というか何を隠してるの?やましい事があると早口で捲し立てようとするのは変わってないんだね……ちょっと嬉し懐かしい気分だよ!」
流石は幼馴染、俺の完璧な言い訳を見破ってくるとは。
「いや、隠し事があるというか……なんというか。今はあんまり家に来てほしく無いかなーと思って」
「……そんなに私にきて欲しくないの?」
ボイチャ越しに泣きそうな悲しそうな千尋の声を聞くと胸が痛む、だが俺にも守らねばならぬ家族が居る。
心を鬼にして千尋に告げる。
「何時でも来いよ!」
「わーい!明後日は暇だから明後日行くから!」
女の涙には勝てない事を悟りながら、その後もボイチャで楽しく会話しながら<さひろう>の手伝いをしていった。
☆ ☆ ☆
朝目覚めると布団の横に立つ英美里と目が合う。
「おはようございます!ご主人様!昨夜は随分とお楽しみでしたね!……朝食の用意が出来ていますので、召し上がる時は声をかけてくださいね!」
何か言いたげな英美里の後ろ姿を見送ってから、ステータスを開いた。
児玉 拓美 LV15
スキル 怠惰/ダンジョン用アバター作成/アバター操作/念話
加護 娯楽神の加護
G-SHOP
「おっ15まで上がってる」
G-SHOPを開き取得可能スキルを確認するが無し、もはや慣れたもので気にすることも無くアバター項目を開いた。
<アバター> 残 32000SP
アバター修復 消費SP1000
聴覚強化 消費SP15000
視覚強化 消費SP15000
触覚強化 消費SP15000
嗅覚強化 消費SP15000
身体能力強化 消費SP15000
魔力同調 消費SP20000
魔力強化 消費SP20000
魔力量同調 消費SP20000
魔力量強化 消費SP20000
スキル同調 消費SP30000
加護同調 消費SP30000
自動修復機能 消費SP30000
新たな項目が3つ増えていた。
「スキル、加護の同調と自動修復機能か……スキルと加護の同調は気になるが……まずは魔力量同調取得!」
最優先である魔力量同調を取得した。
「これで、俺の魔力が無くなるまでアバターを動かせるぞ!」
アバターの燃料問題が大方解決した事で朝から気分はハイになり頭も覚醒する、朝の支度を整え居間へと向かう。
「おはよう、朝ごはん食べようか!」
「はい!ご主人様!用意しますので座って待っていてください!」
英美里に一声かけてから席に向かい、誰に言うでも無く呟く。
「今日は予定がたくさんあるからな……楽しい一日になりそうだ!」
ランダムスライムスポナーの設置、エルフによる魔法講習、エルフ宅訪問、まるでゲームのイベントのような予定に心躍らせながら朝食を待った。




