しふくの時と言われても16
今日は念願の妹が帰ってくる日。
美奈には何も事情を説明していないので、一旦千尋の家に寄ってもらってから我が家へと帰省する事になっている。
美奈は会社に辞表を提出して有給やら何やらの消化が始まった為、正式な退職日は一カ月先らしい。
とりあえずこの先どうするかはまだ決めかねているが、一旦帰省して俺の結婚を直接祝いに来てくれるみたいだ。
「久々に会うと思うとちょっと緊張するな……」
美奈とは両親が死んでから数回しか会っていない、最後に会ったのも1年以上前だった筈だ。
「美奈とは連絡は取っているんだろう?そこまで緊張するものか?」
千尋の家の居間で今か今かと待機中。
「……久々に会って美奈に何て言えば良いか」
我が家の現状について多少の罪悪感はある。
勝手に家をダンジョンにしている事もそうだが、千尋との結婚、純との関係、その他諸々の俺が美奈に秘密にしていた事を考えると胃が痛い。
「美奈なら大丈夫だろう。あの子は私達より賢い、それにまこちゃんラブだからな……兄妹でシスコンとブラコンだから安心しろ」
美奈からブラコンの要素は感じないが、俺がシスコンというのは間違いない。
「ふぅ……」
お茶が美味しい。
お茶菓子も家では見ない高そうな和菓子が振る舞われていて、ベルも一心不乱に口に詰め込んでいる。
アホ可愛いベルを見て心を落ち着かせる。
「拓美君って好意には鈍いからねぇ……敵意とかには敏感な癖に」
失礼な物言いだ、俺は好意に鈍感では無く好意に関心が無いだけだ。
「拓美……それでは女子から持てぬぞ?俺の様に好意には好意で返さねばな!マメな男が一番モテる!」
「アナタ、少し席を外しましょうか?向こうでゆっくりとお話を聞かせて頂きます」
一馬さんと雅さんが別室に向かったので居間には俺、千尋、純、ベルが残った。
「……お父さんの様にはならないでね?この際相手が増えるのは仕方ない事だと受け入れるけど、私達には報告してね?」
「今後増える事は無いけど、分かった」
千尋と純の二人が居るのにこれ以上相手が増える事は無い。
「はぁ……」
「責任さえ果たしてくれれば私達は大丈夫だから!」
「勿論責任は果たすよ」
スマホが震えて美奈から連絡が入った。
「……もうすぐ着くって」
朝から飛行機で大分に向かっていた美奈、空港まで迎えに行こうと思っていたが千尋に遠慮してか、空港からはバスでこちらに向かって来ている。
「そうか」
「そういえば美奈ちゃんって今借りてる所どうするんだろうね?」
「まだ引っ越すかどうかは決めてないみたいだな。もしかしたらまた向こうで就職するかもしれないしな」
会社自体は退職したが、地元に帰って来るかはまだ決め兼ねている。
「ふーん。冒険者協会に来てくれたら良いのにね!信用出来るし、仕事も出来そうだし!」
「それはそうかもしれないが、無理強いは出来ないからな」
「冒険者協会ってまだ人員不足なの?」
「そうだねぇ……大分増えては居るけど、まだまだ足りないねぇ」
「今後人手はもっと必要だろうからな……」
今はまだダンジョン産の物は販売をしていないのでそこまで大変ではないが、今後ダンジョン産の商品が販売され、冒険者協会所属のダンジョン攻略組が素材やドロップ品を回収しだしたらと思うとぞっとする。
「ダンジョン産の物の販売が出来るようになったら、ダンジョン特需が起きるのは目に見えてるからね!特にエルフポーションは世界中から求められるだろうし!」
冒険者協会が販売する予定の商品の目玉は何といってもエルフ作のポーション類だ。
怪我、病気、美容、全てに置いて効果は実証済みであり、特に病気に関しては現代医療では治療出来ないものもポーションであれば治療が可能になる。
雑談に興じていたら、呼び鈴が鳴った。
一瞬硬直するが、直ぐに気を持ち直し玄関へ向かう。
そして俺は妹と約一年振りの再会を果たす。
☆ ☆ ☆
大きな玄関の戸を開けるとそこにはスーツケースを一つ持った美奈が居た。
私服は相変わらずシンプルなものが好きなようで、黒いパンツに薄茶色のジャケット。
「おかえり……」
「いやここ、千尋さん家だから……兄さん、千尋さん、純さん、結婚おめでとうございます……」
「ありがとう……」
「ありがとう!美奈にそう言って貰えて嬉しいよ」
「ありがとう!美奈ちゃん!」
微妙な空気が漂う。
「とりあえず!休憩がてら上がりなよ!私の家じゃないけど、遠慮はいらないよ!」
「美奈、とりあえず一旦上がってくれ。お茶でも飲んでからまこちゃんと美奈の家に行こう」
「お邪魔します……」
千尋と純の言葉に素直に従って後を着いて行く美奈。
居間に入って和菓子を食べているベルを見て一瞬固まるが、何も言わずに腰を降ろした。
「兄さん、あれ誰?」
隣に座った俺に正面に居るベルの事を小声で聞いてくる美奈。
「まぁその辺の事も家に帰ってから詳しく説明するけど……とりあえず名前はベルだ」
「初めまして!ベルです!」
「どうも……児玉美奈です」
困惑気味の美奈に千尋がお茶を出してくれた。
「ありがとうございます……」
「長旅で疲れてるだろう?少し休憩してから家まで送ろう、父と母を呼んでくるから少し待っていてくれ」
「はい……」
千尋が一馬さん達を呼びに行ってから直ぐに戻って来た。
「美奈!おかえり!」
「美奈ちゃん!おかえりなさい!久しぶりね!元気にしてた?」
「……ただいまです。何とか元気にやってます」
美奈に会えて嬉しいのかスキンシップ激しめな義理の両親。
ちょっと困り顔な美奈に気付いているのかいないのか、雅さんがここぞとばかりに美奈に話しかけている。
俺はその様子を見守りながら茶を啜る。
我が家のお茶も美味しいが、千尋の家の高級なお茶も美味しい。
「お母さん!美奈が困ってるから!長旅で疲れてるんだから少しは遠慮して!もう!これやけんウチん家族は!せちぃわぁ!」
「あら、ごめんなさいね!嬉しくてつい!」
「私は全然大丈夫ですよ……お茶、美味しいですね」
昔から雅さんと美奈は相性が良い、お互いがマイペースだからか波長が合うのだろうか。




