始まりは突然に12
すっかり日も暮れ、涼しいような肌寒いような夜の気温を感じながら記念すべき<怠惰ダンジョン>初のメイドラキュラが家に到着するのを部屋の布団に寝転がりながら待つ間メイドラキュラについて考える。
(メイド、ドラキュラ……ヴァンパイアではなくドラキュラ……まぁこの辺は気にしても仕方ないのかも知れないけどこう……モヤっとはするよな、ドラキュラって俺のイメージでは男だし、メイドは女だし性別的にはどっちなんだろうか?)
自分自身のイメージから来る疑問を抱きつつも名前の候補を考えておくことにした。
(まぁ無難に、男ならヴラド、ノスフェラトゥ、ジル、エルゼベート的な感じかな……女ならカーミラ、モカ、エヴァ、かりん、セラス、アルクとかかな?まぁ見てからじゃないと決めるのは難しいな)
アニメやゲームの知識から候補となる名前を列挙するもあまりピンとはこず、見てから決めようと思いコーヒーでも飲もうと台所に行こうと布団から起き上がる。
「よっこいしょ……ふぅコーヒーいちいち入れるの面倒だな……ってかアバターでやらないと駄目なんだった」
面倒だとぼやきながら立ち上がると自分の影から何かが湧き出るように突然現れた。
「うわっ!」
驚きのあまり声を上げながら後ろに半歩下がる。
「驚かせてしまい申し訳ありませんご主人様、メイドラキュラ只今到着致しました」
突然現れた何かに声を掛けられ、件のメイドラキュラだと分かりほっとする。
「お、おう……心臓に悪いからあまり驚かさないでくれ……」
言いながらメイドラキュラを観察する、ロングのメイド服に黒いメイドシューズ、胸の辺りまである緩くウェーブのかかった金髪、瞳は赤く、身長は自分と同じぐらい、可愛らしくもあり綺麗な西洋風な顔つき、まるで人形のようなある種完成された美をもつメイドラキュラがそこに居た、あまりの綺麗さに見惚れるが再びメイドラキュラに声を掛けられ、はっと我に返る。
「申し訳ありませんご主人様、以後気を付けますので」
「い、いやそんなに気にしなくてもいいけど……とりあえず自己紹介でも……俺は児玉拓美よろしく」
小声でボソボソと返事を返し軽くお辞儀をする。
「本日より<怠惰ダンジョン>にお世話になりますメイドラキュラですご主人様」
メイドラキュラは腕を前に組み綺麗なお辞儀を返す、お互い軽い自己紹介も終え早速名前を付けようと声をかける。
「そ、それで……いきなりなんだけど……名前を付けようと思うんだけど良いかな?」
「是非もありません!名前を頂ける事は最上の喜びですから!」
とても眩しい笑顔を向けられ、只でさえ緊張しているのに余計に緊張して心臓の鼓動が早くなり口調も自然と早くなる。
「そ、そっか、えぇっと、ちょ、ちょっと待ってね、名前を考えるから、いや、考えてなかった訳じゃないんだけどあの、見てから、決めようと思って、見てから、でそれで、その、なんだ、あの、あれです、こ、候補をあげるから、好きなのを、ね、選ぶみたいな、あはは、ね?」
緊張して吃りながらもこちらの意思を伝える。
「ありがとうございますご主人様!わざわざ私の為にこんなにも考えて頂けるとは、とても嬉しく思います!ですが私は是非ご主人様に決めて頂きたいのですが……駄目でしょうか?」
「わ、わかった……ふぅ」
こちらに決めて欲しいと言われ一旦落ち着こうと深呼吸を繰り返す、幾分か落ち着いてきたのでじっくりと思考する。
(出来ればなるべく意味のある名前を付けてあげたいな……綺麗な女の子だし……彼女はモンスターかも知れないけど今日から新しい家族にもなるんだし)
モンスターという事を忘れてしまいそうなほどあまりにも人間染みた笑顔や仕草にアニメやゲームからそのまま名前をつけるのではなく、新しい家族の為に真剣に名前を考える。
☆ ☆ ☆
「あの、ご主人様……そこまでお悩みになるのであれば、候補の中からお決め致しましょうか?」
名前を考えだしてから結構な時間が経ち黙り込む俺を見かねてか、彼女が悲し気な顔でこちらに問いかけてくる。
「いや、大丈夫!もう少し待ってくれ!きっと君も気に入る名前を考えるから!」
緊張もいつの間にか解れ、自然に笑顔で返す。
「わかりました、コーヒーでも入れてお待ちいたしますね」
そう言って彼女が部屋を後にする後ろ姿を眺めながら良く働く子だなと思いながらなんとなくPCで検索する。
(勤勉 名前……アメリア……エミリー……えみり……!いいじゃんえみり!漢字はどうしようか……優秀、美しい、故郷……これだ!)
「決まった!」
ようやく名前が決まり、早速決まった名前を書いてから彼女に見せようアイテムボックスからマジックペンとノートを一冊取り出し、ページを一枚破りそこに大きくなるべく綺麗な字でゆっくりと思いを込めて名前を書いた。
それからすぐに彼女がマグカップを一つ乗せたお盆を手に部屋へと戻ってきた。
「ご主人様コーヒーをお持ち致しました、それで……名前はお決めになられましたか?」
笑顔の彼女がそっとお盆をこちらに差し出してくる、お盆に乗ったマグカップを受け取りお礼を返す。
「ありがとう……決まったよ!名前!」
「ありがとうございますご主人様!」
返事を返す満面の笑みを浮かべた彼女が期待の籠った目でこちらを見てくる。
「今日から君の名前は……これだ!」
<怠惰ダンジョン>初のモンスターであり新しい家族メイドラキュラの名前を書いた紙を彼女に見せる。
「これは……漢字……ご主人様と同じ漢字が含まれていますね!……嬉しいです!とても!」
彼女が名前を気に入ってくれている事が一目で分かるような飛び切りの笑顔で目を閉じ両手を胸の前に組み何度も頷く、名前を自分に刻みこむように、神に祈るようなその姿を見て、ほっと胸を撫でおろす、緊張していたんだと改めて感じる名前を付けるという事の重大さとプレッシャーに。
(喜んでくれて良かった……)
神に祈りを捧げ終わったのか彼女が目を開けこちらの顔を真っすぐに見つめてくる。
「こんなに素敵な名前をありがとうございますご主人様、今日から私は<怠惰ダンジョン>初のモンスターでありダンジョン守護者!ご主人様の忠実なるメイド<英美里>です!この先何があろうと、いつまでもご主人様のお傍で仕える事をお許しください!……これからはずっと一緒ですよ?ご主人様!」
ベル『……』




