しふくの時と言われても6
晩御飯を終えて嫁と共に部屋へ戻る。
「明日の中国行きの飛行機のチケットだけど、パスポートの変更手続きしてないから、拓美君の分は旧姓で取っておいたからね!」
「旧姓……そうか俺ももう佐々木になってるのか」
「そうだ。佐々木拓美だから、今後はもうまこちゃんとは呼べないな……何て呼ぼうか?拓ちゃん?」
千尋が俺の事をまこちゃんと呼ぶのは児玉という苗字から付けたあだ名だから、俺が佐々木の姓になったからあだ名を変えようとしているみたいだ。
「別に今まで通りまこちゃんで良いんじゃないか?そっちの方が俺も慣れてるし、愛着もある。今更違うあだ名で呼ばれても困惑するだけだから」
「それもそうか……じゃあ今後もまこちゃんと呼ばせてもらうよ」
「りょーかい」
「それよりさ!明日はどうするの?大分からは北京の直行便が無いから、一回羽田空港を経由するんだけど……トータルで北京空港まで大体9時間ぐらいかかるから、北京に着くのは夜だけど」
残念な事に我が地元大分は中国行きの便が存在しない。
国際線で行ける国はお隣さんと親日国家で有名な台湾ぐらいだ。
「明日は移動だけで良いんじゃないか?北京で一泊して、翌日ダンジョンに向かえば良いと思うけど……俺達は冒険者協会とPCHと違って独立して動くんだろ?」
冒険者協会とPCHからの中国ダンジョン攻略部隊は俺達とは別行動の予定なので、彼等に合わせる事も無いだろう。
「そうだな……明日は移動して一泊して、翌日から本格的にダンジョン攻略に向かうのが現実的だろう。こちらの予定を純から安相さんに伝えて貰えば、向こうの大使館スタッフが動いてくれるみたいだから詳しい旅程は明日現地に着いてから聞けば良いと思うが……正直、現地の地図さえあれば私達が走って向かった方が早いんだが、そんな事は他国では中々出来ないだろう」
「その辺の事は私が打ち合わせとかしておくから安心して!私が聞きたいのは……北京の夜に何して遊ぶかだよ!折角だから美味しいコーヒーが飲みたいよね!」
旅程や予定は純に丸投げしていれば問題無いみたいだ。
「コーヒーもそうだけど、俺は美味しい本場の中華料理が食べたいなぁ」
「ふむ……私も本場の中華料理が食べてみたいな」
「りょーかい!じゃあ明日は翡翠が買えるお店と、美味しい中華料理が食べられる所に行こうね!」
「おぅ!」
「あぁ!」
「じゃあ!また明日!ちゃんと起きてね?」
「また明日」
「おやすみ!」
嫁と軽い打ち合わせ等を済ませて、嫁が部屋から去って行った。
「ベルの所に顔出しに行こう」
俺の為の装備を作ってくれているベル達の元へ向かう。
☆ ☆ ☆
ベルに念話して居場所を聞くと、やはり研究施設に居るという事だったので俺も研究施設へと向かった。
「おいーっす!どんな感じ?間に合いそう?」
研究施設の一室で待ち構えていたのはベルだけだった。
「お待ちしていましたマスター!槍の蜻蛉切りはもう完成しましたよ!」
「おぉ!早いな!」
「どうぞ!ちなみにリーダー達は別室で具足の開発を急いでいますよ!」
ベル達が俺の為に用意してくれた蜻蛉切りを手渡してくれた。
「意外と軽いな……よっ!はっ!……取り回しも結構しやすいし!ただ、ちょっと長いな……いつもの槍は短槍寄りだからなぁ……」
「ふふん!そういうと思いまして、ギミックを施しているので顎安心を!槍に魔力を流して見てください、マスター!」
「槍に魔力を……!縮んだ!」
ベルに言われた通りに蜻蛉切りに魔力を流すと蜻蛉切りの柄の部分が縮み、俺がいつも使っている槍と同じぐらいの長さになった。
「これはリーダー考案の魔力によって伸縮する槍!名付けて!魔槍蜻蛉切り!どうですかマスター?最短0.5mから最長6mまで自在に伸縮可能ですよ!」
「すげぇ!カッコイイ!」
「ちなみに槍の内部に刻んだ魔術式に長さのイメージと共に魔力を流せば伸縮する仕組みです!」
「ありがとう!ベル!」
「ではでは!次は具足の開発に掛かっているリーダー達の所へ行きましょうか!」
「あぁ!」
魔槍蜻蛉切りがこの出来なら、具足もきっと素晴らしい出来に違いない。
部屋から出て、真向いにある部屋に移動するとリーダー、博士、助手ちゃんが居た。
「おいーっす!どんな感じ?」
てっきり他のドワーフの子やエルフ、マクスウェル、ラプラス何かも居ると思っていたが居ないようだ。
「もうじき完成です拓美様!」
「おぉ!仕事が早いな!」
「ふふふ!ベル様の協力があってこそですよ!」
「私が本気を出せばこのぐらい余裕です!」
博士と助手ちゃんは最終調整中なのかこちらを一瞥する事も無く、机に置かれている具足に何か手を加えている。
「先に搭載したギミックの説明だけしておいた方が良いかもですね……」
「私が説明してあげましょう!」
いつもの如く、テンション高めのベルが説明役を引き受けてくれるらしい。
「頼む」
「はいマスター!今回マスターの為に開発した具足ですが、私達は魔装と呼んでいます!魔装のコンセプトはシンプルで固い、速いです!魔装は元々の頑強さに加えて、魔装表面に常時展開する結界を生成する仕掛けを施しました!使用する魔力は基本的に周囲から、ダンジョン外のように魔力濃度が低い場合はマスター自身の魔力によって結界を生成出来るようにしています!強度は千尋の本気の一撃を数回までなら耐えられる程度です!」
「千尋の攻撃にも耐えられるのか……それは凄いな!」
今や千尋の本気の一撃は比喩でも何でもなく地を砕き、天を割く威力だ。
「そうですマスター!すごいんです!次に速さ、これは着脱の速さとマスターの動きを極力阻害しないように工夫して実現させています!魔装に触れながら装着するイメージで魔力を流せば一瞬で着る事が出来ます!脱ぐ時も同様です!動きを阻害しないというのは、マスターの動きに合わせて魔装自体がある程度稼働してくれる仕掛けを施したからです!マスターの動きに合わせて魔装が稼働する事で魔装を付けていない時とあまり変わらない動きが可能になっているのです!」
「一瞬で着脱……ヒーロースーツみたいだな!俺の動きを阻害しないっていう後半の説明は良く分からんが凄そうだ!ありがとう!ベル!リーダー!博士!助手ちゃん!」
「完成したら試着をお願いしますマスター!」
「あぁ!」
その後、無事に完成した魔装・忠勝型を試着して動作チェックをしてから部屋へと戻った。
「しっかしやばいな魔槍と魔装……」
俺専用の新しい装備は本当に凄かった。
特に魔装・忠勝型。
着脱は一瞬、強度は最硬、甲冑なのに動きやすい。
こんな装備が世に出回れば一般人でもダンジョン攻略が出来る時代が来るかもしれない。
「ハハッ!魔装が量産の暁にはダンジョンなぞあっという間に叩いてみせる!」
コスト的に不可能な事は分かっているが、そんな未来が来る事を願わずにはいられない。




