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しふくの時と言われても


 幸せを感じた瞬間というのは意外と忘れる事はあっても、苦労したり辛い思いをした時というのは結構覚えているものだ。


 人に怒られた事や失敗した事というのは記憶にこびり付いて離れてくれず、偶にその時の事を思い出してもやもやした気持ちになったりする事もある。


 だけど自分が幸福を感じた瞬間や出来事は覚えているのにその時の情景や景色を鮮明に覚えておらず、思い出そうとしても色褪せた記憶が蘇るばかり。


 だから人は記録を撮るのだろうか。


 何年経ってもその時の事を簡単に思い出せるように。


 挫折と後悔だけでは人は幸せにはなれないから。



 ☆ ☆ ☆



 最近は忙しく過ごしていた嫁が我が家に戻ってくる。


 海外の人を受け入れた事により延長していた冒険者協会とPCHの日本組の合宿も今日で終了なのだ。


「はぁ……」


 世界が変わってから約二カ月が経過した、日本は相変わらず平和なものでダンジョンに関する人々の関心も多少は落ち着きを見せつつあったが、それも先日までの話。


 対して海外では中国以外の各国は未だ監視を続けているだけに留まっている。


 これは偏に千尋と純が率いる冒険者協会の呼び掛けがあったからこそだと思う。


 千尋と純によりダンジョンに関する情報を冒険者協会を通じて発信した事により、各国の動きが以前よりも慎重になってくれたのだ。


 流した情報は簡単でダンジョンは成長するものだという事と成長する条件、それによって侵入する人員は極力少数精鋭が望ましい事、日本に出向いてくれるのであれば冒険者協会が管理しているダンジョンを使ってレベルアップの支援と戦闘訓練を行っても良いという事。


 これにより海外の国々から冒険者協会にオファーが殺到したが、俺達はあくまでも民間団体なので冒険者協会だけではオファーを掛けてきた国の機関や団体の人の選定が困難を極めたので、これを丸々PCHに丸投げする事で解決した。


 それと冒険者協会がダンジョンを管理しているのはおかしいと、講義をする人や団体が居たのだがそれらは全て日本の政治のトップにお任せして俺達は好き勝手にやらせてもらってる。


 これは純が直接安相さんに交渉して勝ち取った権利らしいが、詳しい事は怖くて聞いていない。


 日本は案外平和、各国も今後は日本のようにダンジョンを攻略するなり管理するなりする所が増える予定。


 問題は中国だ、中国では遂にスタンピードと呼ばれる現象が発生してしまった。


 中国は以前から一つのダンジョンに軍隊を侵入させては壊滅されてを繰り返した結果、俺達の予想を遥かに超える規模のダンジョンに成っていたのだと思う。


 中国ではスタンピードが発生して色々なモンスターが世に放たれてしまった。


 ゴブリン、ゴブリンエース、ゴブリンクィーン、ゴブリンキング、オーク、オークソルジャー、オークキング等々。


 俺達ですら見た事も聞いたことも無いモンスターがダンジョンから溢れ出た事による人的被害は相当のもので推定では500万人を超えるという未曽有の大災害を引き起こした。


 中国のダンジョン付近の町や都市は壊滅状態で、ダンジョンを攻略するにもこの規模のダンジョンを攻略出来る人が中国には居なかった。


 日本も海外の国々もこの事件を連日連夜報道し、世界の危機をこの時世界中の人々が初めて理解出来た瞬間でもあった。


 中国のダンジョンから出てくるモンスターには特徴があって総じて知能が低いモンスターが多いらしい、これはベルが言っていた事なので間違い無いだろう。


 ベル曰く、ダンジョンを管理運営していく上でもっとも難しいのは活動資金とも言えるDPの確保なので知能が比較的低い動物に近いモンスターを使って数を増やしてから知能の高いモンスターを生成するのが一番効率が良いらしい。


 中国のダンジョンの現状はかなりマズイようで、ダンジョンの規模もそうだがダンジョン内にどのようなモンスターが生成されているかが検討も付かないという。


 もし仮にエルフ、鬼人、ドワーフというような知能の高いモンスターが生成されていてベルのような存在が居たとしたら確実に怠惰ダンジョンよりも大規模なダンジョンになっているのは間違いない。


 日本は島国なので中国のダンジョンが成長しようとも被害は中国の周辺国よりかは心配する事も少ないが、誰かが攻略して止めない限りは無限に成長を続けて世界はモンスターの楽園になってしまう可能性が高いだろう。


 ダンジョンの一番厄介な所はその成長性なのだ、だからこそ攻略出来る可能性の高い今の内に潰す必要が出てきてしまった。


 そしてそんな中国のダンジョンを攻略する為に動いているのがPCHと冒険者協会という日本の組織しか無いというのが現在の状況である。


「嫁が久々に帰ってきたらイベントを開催するとは言ったけど……中国のダンジョン攻略という大規模イベントに巻き込まれるとはな……」


 世の中は結構世知辛い。


 俺は最後まで中国に行くのは反対していたが、お嫁ーずを筆頭に怠惰ダンジョンの皆が中国のダンジョン攻略に賛成するとは思ってもみなかった。


「憂鬱だ……」


 ダンジョン攻略が恐いとかは無い。


 俺が心配なのはリーダーを含めた怠惰ダンジョンで生まれた新たな種族を世界中に発表するという事だ。


「なんでわざわざこのタイミングで明かす必要があるのか……」


 決断を下したのはベルだ。


 ベルはこの大災害を解決し、それを利用して新しい種族がダンジョンにより生まれた事と、人類の味方だという事をアピールするのだという。


 そして冒険者協会が管理している湯布院合宿ダンジョンについてもこの新しい種族の協力によって成されているという事にするらしい。

























 今回の中国ダンジョン攻略に参加するのは怠惰ダンジョンからは俺、千尋、純、一馬さん、リーダー、番長、助手ちゃんの7人。


 冒険者協会からは藤堂、遠藤、御影ちゃん、岩藤の4人。


 PCHからは馬場、加藤、岡本、坂本、清風、火野の6人。


 総勢17人の大所帯だが、ダンジョン内に入るのは怠惰ダンジョンの7人だけ。


 流石に何が出てくるか分からない大規模なダンジョンに足手纏いを10人も連れて行くわけにはいかない。


 冒険者協会とPCHの10人にはダンジョン外のモンスターの討伐に回ってもらう事になっている。


「初めての海外旅行がこんな形になるとは……面倒臭い」








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