夢を追うもの笑うもの33
報告会も終えて、ルゼとベルにも会いに行った。
二人は今後の暴食ダンジョンの方針について色々と考えながら街の構想を練っているようだったので、なるべく二人の邪魔にならないように大人しくしていた。
二人は真剣に会議をしていて種族毎で住む地域を分けた方が良いとか、防衛に関するあれやこれやを話し会っていて俺が会話に入り込む隙があまり無かった。
二人の会話を聞いているだけでは流石に俺も暇だったので段々と眠くなり、今日は早めに部屋へと戻ってきた。
その時に新人の子らへのプレゼントである魔法銃をコアルームに置いてきたので、本来の目的は果たした。
「とりあえず寝よう……新人の子らが魔法銃を気に入ってくれると良いな……」
☆ ☆ ☆
朝起きて、ご飯を食べて、鍛錬して、またご飯を食べて、また鍛錬。
最近一日が早いと思う事が増えてきた。
それは俺がこの生活サイクルに慣れてきたという事なのだろう。
少し前までは仕事が始まる一時間前に起きて、準備して仕事に出掛けるだけの毎日だった。
純が店長を務めていたカフェなごみでは最初こそ色々とカフェ店員がする仕事じゃない事もやっていたが、それも殆ど無くなるとあまり変化も刺激も無い日常になっていった事を思い出す。
人間というのは欲深い生き物で、平穏、平和、安定を望んでいながらも心の中では何かしらの刺激に飢えている者が多いという。
だからこそ人の体感時間は慣れた事よりも慣れていない事をした方が長いのだと俺は思うのだ。
だから今日はいつもとは違う事をして人生に刺激を与えるべく、午後の暇な時間に急遽怠惰メンバーを地下広場に集めた。
「諸君!今日は地下広場に集まって頂き本当にありがとう!」
地下広場に急遽拵えられた、小さなステージ上から俺は皆を眺める。
今日は急遽召集を掛けた事もあって集まったのは各種族から一人すつで合計6人で内訳は、ベル、英美里、リーダー、番長、博士、助手ちゃんの6人だ。
「本日ここに集まって貰ったのは他でもない、今こそ怠惰メンバー最強の座をベルから奪う為だ!今までは正直な話、ベルには誰一人として手も足も出なかった!だがしかし!最近のベルはレベリングも殆ど行っておらず、暇があれば俺の鍛錬に付きあって貰っていた!なので今日こそは、最強のベルに誰かが勝つことが出来るかもしれないのだ!だから今日は……怠惰メンバー最強決定戦#1を開催します!ルールは簡単!トーナメント形式で模擬戦を行って勝ち上がった一人がベルと戦う!それだけだ!何か異論がある者は挙手を!」
見回すと誰も手を挙げていないのでこのまま進行する。
「では!誠に勝手ながら私の独断により対戦カードを決めさせてもらったので発表します!第一回戦Aブロックは……リーダーVS番長!」
「私の初戦は番長とですか……」
「リーダー!下剋上っす!私が勝ったらリーダーには敬語はもう使わないっすからね!」
「それは別に構わないんだど……まぁやるからには負けるつもりは全く無いんだけど、先輩として後輩に戦い方について指導してあげますよ」
「正直、私の方が戦闘では有利っすけど!手加減は無しでフルボッコタイムっす!」
俺の思い付きで突然始めた模擬戦大会だが、中々に盛り上がりそうで良かった。
これからもこういう小さなイベントを開催して、怠惰メンバーの皆と親睦を深めていきたい。
今日はリーダーと番長以外のメンバーとあまり交流の無い博士も助手ちゃんも参加してくれているので、決定戦の終了後には今まで延期していた二人の歓迎会も開催したい。
「模擬戦のルールは基本何でもあり。ただし観客を巻き込む恐れのある大規模な攻撃、対戦相手を過度に傷付ける行為は禁止だ!それでは両者、位置についてください!」
リーダーと番長が位置についた。
互いに武器を手に取り見合っている。
リーダーはいつものようにミスリル製の細剣と盾を。
番長はいつもは素手で戦うのだが今日は手の甲を覆うように籠手のような物を手に着けているのだが、指先は自由に扱えるようなので番長の体術にも制限は掛からなそうだ。
「それでは!第一回戦Aブロック……はじめ!」
俺の開始の合図と共に大きくバックステップで距離を離そうとするリーダーと、距離を詰める為に前へダッシュをする番長。
リーダーは細剣と盾を持ってはいるが基本的には魔法が主体の戦闘方法を得意としている。
これはエルフという種族が魔法を得意としている者が多いのでエルフにとっては結構ベーシックなスタイル。
対する番長は身体能力が高く、気を扱う事が得意な者が多い鬼人族であり、番長は体術に加えて忍術も使える近接戦闘の達人だ。
お互いが得意な距離が違うので、まずは自身の得意距離をどちらが取るかでこの後の展開が大きく変わってくる。
「逃がさないっすよー!」
「……」
リーダーが距離を詰められないように、下がりながら水球を生成しまくって番長へと飛ばしている。
だが、流石は番長と言うべきかリーダーが飛ばしてくる水球を全て撃ち落としながら愚直に真っ直ぐリーダーへと向かっている。
リーダーの魔法をいとも簡単に撃ち落としている番長だが、 あれは番長だから出来る事であって俺が同じ事をしようとすれば俺の腕は下手すれば骨折してしまうだろう。
それ程までにリーダーの放つ魔法というのは強力なのだが、如何せん相手が悪かった。
「その程度の魔法じゃ私は止められないっすよ!」
「知ってるわよ……これでもくらいなさい!」
ここでリーダーが追いすがる番長の頭の上から巨大な水球を落としてきた。
やはり質量というのは正義なのか、さっきまでの水球とは規模が違う学校のプール程の水量はあるだろう巨大水球。
これには堪らず番長も一旦後方へと下がる。
巨大水球により距離が離れた今が好機と見たのか、リーダーが更に追い打ちを掛ける。
「手加減はしませんよ……!」
リーダーが呟くのと同時に現れたのは、空中に浮かんだ無数の槍。
リーダーが普段から良く使う水の槍が、巨大水球により距離を離した番長へと穂先を向けている。
「……行け!」
「ちょっ!これは流石にヤバイっす!」
リーダーの合図により無数の水槍が番長目掛けて降り注ぐ。
水槍が着弾し、地下広場に凄まじい爆音が続く。
正直、これはやり過ぎかもしれないと思ったがベルが満面の笑みで試合を眺めていたので恐らく番長は無事なのだろう。
爆音が止んで降り注ぐ水槍によって地面は抉れていたが、肝心の番長の姿が何処にも無かった。
リーダーは番長の姿が見あたらない事に気付いて周囲を見渡すが、番長の姿は見つけられない。
その時、リーダーの背後の地面が膨らんだ。
リーダーもそれを察知したのか前へと大ジャンプ、空中で体を回転させながら自身がさっきまで居た場所へ水球を一発撃ちこんだ。
「甘いっすよ!」
しかしリーダーの着地地点には待っていましたと言わんばかりの番長が拳を握りしめて待っていた。
「……!」
身軽なエルフでも流石に空中では無力。
「せやっ!」
番長の気合の籠った拳がリーダーを襲う。
「……くっ!」
空中で身動き出来ずに、番長から一撃貰うと思ったリーダーだったが咄嗟に水球を自身の体にぶつけて無理矢理軌道をずらす事に成功した。
追撃しようとした番長だが、リーダーが自身の周囲を水の膜で覆った事で追撃を中止した。
「なるほど……番長も成長しているのですね」
「……今のは流石に決まったと思ったんすけど、やっぱりパイセンは強いっすね!」
水の膜越しに会話を始める両者。
「流石に近接戦闘では私には勝ち目がありませんからね……少々ズルいとは思いますがこれも真剣勝負ですから、このままこの中から延々と魔法を撃つことにします」
「……それは確かにズルいっすね、ちなみにこの膜触るとどうなるっすか?」
「触れば分かるわよ?」
「それは止めとくっす……私の第六感がこれには触るなって言ってるっすからね!……触るのが無理なら忍術で対抗すれば良いだけっす!」
ここで初めて番長が忍術を使う。
番長が口元に手を当て、大きく息を吐きだすと巨大な火球がリーダーの水の膜へと飛んで行った。
これにはリーダーも待避せざるを得なかったのか、水の膜の中から飛び出して回避した。
リーダーが水の膜から飛び出した所を番長が逃す訳も無く、猛追を掛ける。
「どっせい!」
番長渾身の一撃がリーダーに振り下ろされた。
ここで回避は出来ないと判断したリーダーが盾で番長の一撃を防ごうとするが、番長の馬鹿力によってリーダーの体が吹っ飛ばされた。
吹き飛ばされたリーダーは地面で数回跳ねながら止まった。
「まじっすか……これはズルいっすよ」
呆然と立ち尽くし、何事か呟いた番長。
吹き飛んだリーダーは埃を払いながら立ち上がる。
「素直に降参してね」
「参りましたっす……」
ここで番長が降参宣言。
「勝者!エルフルズリーダー、美帆!」
「ありがとうございました」
「ありがとうございましたっす……」
リーダーが番長の体を抱えながら地下広場の隅へと歩いて行った。
「……で、最後は何が起きたんだ?」
俺は隣で一緒に試合を見ていたベルに問いかけた。
「最後というか……最初からリーダーが水に毒を仕込んでたんですよ!番長に気付かれない程度に少しづつ!」
「……毒か」
「はいマスター!最初に水球を躱さずに撃ち落とした時点で、番長の負けは殆ど決まってました!」
「番長は毒に気付かなかったのか……」
「そこは流石リーダーですね!研究施設で色々と薬や毒の研究もしてましたから!研究の成果って事ですね!」
「正直、タイマンなら番長の方が勝つと思ってたけど……流石だな」
「マスター、それは無いですよ。リーダーは近接戦闘だけでも番長に勝てますから……優しい子なんですよ、美帆は」
「……まじか」
「……それだけ名持ちと名無しには差があるという事ですよ、マスター」
階層守護者に任命する為に行う名付けが如何に凄まじいのかを改めて実感した。
「早くダンジョンを大きくしないとな……」
「はい!マスター!」




