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 その光景に狼狽えた葵斗はその場からしばらく動けなかった。


 人が生活していく中でこのような現場に居合わせる確率はどのくらいか。サスペンスドラマや推理小説、探偵もののアニメなどでは短い期間に恐ろしい頻度で起こっている。

 では、現実ではどうか。統計を覗いてみると最近では1年に300件ほど。ペースして約1日に1件発生している。

 

 この世には犯罪が蔓延り、ニュースやテレビ、新聞で報道される事件はごく一部で、人々が気づかない内にこっそり潜んでいる。

 以前はもっと多かったのだからこれでも少ないというのは驚きだ。

 その大半は知り合いの仕業という点に気をつけてもらいたい。些細な言い合い、ちょっとした不満、それらが積もりに積もってある時爆発するのだ。

 これはあくまでデータ上の事実であり、認知された件しか含まれていない。未遂も含めれば実際にはこれより増える。

 もはや、対岸の火事ではなく他人事だと思っているならば危険と言えよう。

 

 でもだ、考えてみて欲しい。事故や事件に巻き込まれた。もしくは、見たことがある人はいるかもしれない。なら、人が殺されるところを見た人はどのくらいいるか。ほとんどが、ない。と答えるだろう。

 何故か。

 見た者は大抵その場で死ぬから。に他ならない。

 運良く逃れたとしても、身体に怪我を負い生死をさまよう。心に深い傷を受けトラウマになる。このどちらかで話せるようになるには長い時間を必要とする。


 ふと、我に返った葵斗は直感的にこの場から一刻もはやく立ち去らなければと思った。

 安全な場所まで行きこの身を守れ!反応がそう訴えてくる。


 そうと決まれば、ドアを開けて葵斗は外に飛び出す。もつれた足を奮い立たせ無様な歩き方で離れる。


「よし、このまま」


 後は必死に走り出来るだけ遠くに逃げて頑丈な小屋なりに駆け込むだけ…………なのだが、葵斗の足は車のすぐそばで止まった。


「待てよ……どうして、俺はそう思ったんだ?」


 転がっている生首に目をむける。見れば見るほど生身の人間の肉片で、どす黒い赤が吐き気を誘う。

 

 間違いなくこれは死体だ。それは確か。


 そのはず。そのばすなのに、葵斗は自分の思考に違和感を感じる。

 

 よくよく考えたら事故の可能性だってある。上に看板やフェンスがあって、そこに誤って人がぶつかり首が切断されたパターンとかだ。なにも視野を狭めて勝手に殺されたことにしなくてもいいわけで、パッと見ただけでは事故か事件かなんてわかるはずもない。葵斗はただの一般人だから。

 こんなことは葵斗自身も頭でわかっている。理解はしているからこそ冷静になるべきだ。いもしない犯人に怯える必要はどこにも存在しない。確かに、最悪の事態に備えることも重要だが、それによって冷静さをかきパニックになった頭で下手な行動を起こし余計にひどくしては元も子もないのだ。

 

 葵斗は深呼吸をして息を整える。突然の事態に困惑していた脳を落ち着かせていく。


「そうだよ。なにびびってんだ。俺は」


 強張っていた筋肉が一気にほぐれ全身の力が抜けて地面に座り込む。

 端末の挙動がおかしいため保安局にすぐ連絡することはできないが、今はそれよりもひと時の余韻を噛みしめる。


 安心し切っていた葵斗は徐々に自由を取り戻してゆっくりと立ち上がる。

 と同時に生暖かい風が吹いた。

 葵斗の身体を通り抜け近くの木々を揺らす。


 それは死の訪ずれ。

 

 警告が鳴り響く。


 草花や建物の影はうごめき葵斗を闇へといざなう。


 葵斗はいかに己の行動が浅はかだったかを思い知ることになる。

 あのとき立ち止まらずに逃げていればよかったなんて後悔しても後の祭り。


 背中の後ろで気配がした。ザッと砂利を踏しめる音がなる。

 まさかとは思いつつも葵斗はおそるおそる振り返った。

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