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プロローグ
それは突然の出来事だった。学校帰りだったのか、はたまた仕事帰りだったのか。
その時の自分が何をしていたのかなんて、そんな基本的な記憶すら曖昧だが一つ確実に覚えていることがある。
ドンッという安っぽい衝撃とグチャッという気持ち悪い音。その後で襲ってきた、言葉などでは言い表せないほどの激痛。腰の辺りを襲う熱。
絞り出すように、枯れた大きな悲鳴を上げながら痛みを感じた個所に手を当てると、ぬるっとした感触と共に冷たい金属が手に触れた。
そこで初めて気づいた。私刺されてる。
頭は思ったよりも冷静だったけれど、身体は思う様に動かない。
最後に耳に入ってきた声は自分の醜い叫び声。涙で歪む視界で最後に見たのは冷たいコンクリートの地面。
死にたくない。そんなことを強く願ったが、それは叶わぬ夢だった。
……たったこれだけが彼女の持って生まれた記憶だったが、それでもそこは確かに異世界だった。