9人と1人の密会
『滅んだはずのドラゴンが出現!?
突如山から現れた黒い巨大な影との関係性は?』
『裏切りの勇者の子孫と名乗る少女。
残虐な手口と狂暴性について』
「なあ、どこもかしこも似たような記事ばっかりでつまらないな。
E3のポーン」
「そうですね。
確かに最初は面白かったですけど、こう毎日だと飽きてきますね。
G7のクイーン」
暗い部屋の中、カツン、カツンと、冷たい音を響かせながら、スミスとヴィーラントはチェスで戯れていた。
「まあ、でも、良かったです。つまらない記事ばかりで。
死亡者一覧にもしノイの名前が入っていたら、たぶん正気を保てなかったでしょうし。
何より、下手すると、あの子と敵対するかもしれなかったですし。
A8のビショップ。チェック」
「だな。
俺も、もしノイが死んでたらきっと今頃、頭の中呆然としているか、あの子を殺すかのどっちかしか浮かんでなかったと思うぜ。
D8のクイーン」
一手、一手、まるで冷静になれと言うかのように駒を動かす二人。
しかし、その声色から漏れ出す怒気は、二人の怒りが耐え切れないほど溜まっている証拠だった。
「そうですね。
そう言う意味では、あの子には感謝しています。経緯はどうであれ、ノイを殺さないでくれましたし。
それに怪我の功名と言うのは不謹慎ですが、ノイはしばらくの間は働かなくてすみますしね。
最近のノイはちょっと心配になるくらいに働いていましたから。
これを機に少し休んでくれると嬉しいですね。
はい、D8のビショップ。チェックメイト」
「だはっ、負けた。
くそっ、今月の小遣い半分かよ」
「ふふふ、惜しかったですね。あなた。
それでは、今月の小遣い頂きました」
うふふと、笑うスミスと、深いため息を吐くヴィーラント。
遊んだおかげで少しは気が紛れたのだろう。その声色からは先ほどまでの怒気が治まっていた。
「スミス・ヴェルンド様、ヴィーラント・ヴェルンド様。
お待たせいたしました。皆様の準備が出来ました」
そして、そんなスミスたちを待っていたのだろう。
ビクビクと怯えながら、現れた老執事は、スミスに一切視線を合わせずに礼をする。
そんな老執事にそうと、冷たい一言を吐いたスミスは、上着を脱ぎ棄て、その肌と同じ黒色のドレスを出した。
「今日は何人出席しましたか?」
「じ、十人全員出席しております」
「十人か。と言うことは、久々の英雄様のご子息様も登場と言うことか?」
「そ、その通りでございます。ヴィーラント様」
震える声で頷く老執事。
その言葉に、夫婦の顔色は一気に険しくなる。
「つ、着きました。それでは、私はここで失礼させていただきます」
そんな二人の様相に耐え切れなかったのか、急ぎ足で扉の前に立った老執事は、扉を開けるや否や、足早で去っていった。
そんな老執事を一瞥した二人は、部屋の中に入り十個ある椅子の内唯一誰も座っていない椅子にスミスが座り、ヴィーラントはその隣にスミスを護るように立った。
「さて、それでは十の勇者の子孫である我らが集まった所で今回の騒動について話し合おう」
そして、それを皮切りに椅子に座る十人の中で最も絢爛豪華な服装を着た金髪の男、帝都の現皇帝であるアーサー・ストックが立ち上がり、場を仕切り始めた。
「……知ってたとは言え、何時もは来ないくせに、今日は来るなんて厚顔無恥にもほどがありますね」
「まあな。
まあ、口ではそれなりのことを言っているが……おこぼれ貰う気満々なの見え見えだなあいつ」
「そうですね。
まあ、他のみんなさんもそれは分かっているようですし、ここは様子見ですね」
意気揚々と大袈裟な素振りをするアーサーにヴィーラントとスミスは呆れたかのような言葉と視線を渡す。
それは、残りの八人も同じようで、気持ちよく仕切りだし時間が経つのと比例するかのように声色が高くなるアーサーとは裏腹に全員がやる気がないと言うかのようにだらけた態度で話を聞いていた。
「では、早速今回の例のドラゴンについてだが、情報を知っているものは居るか?
いるのなら、世界の平和のためにも、知らせて欲しいのだが」
しかし、そんなスミスを入れた九人の様相など知らんと言うかのように、威張るようにアーサーは進行を進める。
「例のドラゴン……ねえ」
そんな男の言葉に、一言スミスの左隣のだらけたスーツを着た伊達男が答え、そこに反応したアーサーは口の端を大きく上げた。
「ほお、何か知っているのか?
知っているのなら――――」
「お前はさっきから何を言っているんだ?
ドラゴンなんて、俺たちのご先祖様が全滅させたはずだろう?」
しかし伊達男が発した言葉は男が希望していたものとは正反対で、そもそもそんなものはいないと決めにかかるかのような台詞だった。
「は? いや、でも実際に――――」
「言われてみれば、そうやな。
新聞だって全てが正しいわけってわけやないし、そもそも、500年ドラゴンは見つかっとらんのやろう?
なら、全滅したと言うのが妥当やろ。
それでもドラゴン討伐したいっちゅうなら、証拠を持ってきてからにしてくれや」
そんな伊達男に賛成の意を唱える虎柄の派手な服を着た男。
そして、それを皮切りに進行を進めていた男以外の全員がそれに賛成する。
「そう言うことだ。
アーサー、残念だが今回の件は真贋がはっきりするまで私を含めた全員が協力しないことが決まった。
と言うことで、次の議題だが――――」
わざとらしいほど、ドラゴンについて、一気に話を終わらせた9人は、進行役をアーサーからエルフの女へと変え、話を進め始めた。
それは、暗に全員がドラゴンについて何かを知っているとアーサーへ伝えているが、当たり前だが心を読むなんてことが出来ないアーサーはただただ歯を噛み、口を閉じた。
しかし、一向に変わらず、アーサーを無視し続ける9人。
そんな9人の様相に一気に苛立ちを顔に表すアーサーは腕を大きく振り上げ、一気に下した。
「次の議題などどうでも良い。
今は可及的速やかにドラゴンを――――」
『黙れ』
怒号と共に9人へ向けて殺意を向けるアーサー。
その殺意が向けられた瞬間、9人全員が一斉に立ち上がり、各々の武器でアーサーを狙った。
「刀すらはじき返す鱗」
「どんな傷さえも治療する血肉」
「死者をも復活させ、不死身にする心臓」
「あらゆるものを砕く牙と、切り裂く爪」
「溶岩すら防ぐ皮」
「そして、現生物で最も巨大だとされるほどの魔石」
「アーサー、お前たちがドラゴンを狙っている本当の理由を俺たちが知らないとでも?」
「そして、俺たちがそれを欲しがっていないと本気で思っているのか?」
「な、なら、僕たちがあなたにその情報を渡すわけないじゃないですか」
「――――ッ」
図星だったのか、9人全員の言葉に一切反論せず、これ以上は何も言わないと言うかのように口を塞ぐアーサー。
その姿に、9人は自身が伝えたことが伝わったと確信し、全員自身の武具をしまう。
「さてと、それじゃあ議題も終わったし、伝えたいことも伝えたことだし今日はこれで終わりにするか」
その言葉に、そうですねと賛同した9人は一斉に立ち上がり、それぞれ全く違う扉を使い部屋から出るのだった。
たった一人、今もなお歯を噛み締め、拳を握るアーサー一人を残して。
カツン、カツンと暗い廊下を歩く二人。
そんな中で、不意にヴィーラントは口を開いた。
「珍しく挑発的な態度を取っていたが、これで良かったのか?」
「はい、もちろん。
そもそも今回の目的は、アーサーの標的をドラゴンから私たち9人に変えさせることですから。
何時の時代も巨大な魔石や不死身の心臓などを持つドラゴンは正に、宝の山ですからね。
けれど、相手はここ500年、影も形も見せなかったドラゴン相手。普通に探すとなるとほぼ不可能です。
けれど、そんなドラゴンの所在を知っている風なことを言えば、誰だって私たちから情報を得ようと行動するはずです。
でなければ、流石にあんな分かりやすい挑発や、重要な情報を持っている風を演じるなんてしませんよ」
そう言って、先ほどの下手な自分の演技を笑うかのように口元を押さえるスミス。
そんなスミスの様相に少し呆れたかのような溜息を吐くヴィーラント。
「なるほど。理解はしたが……たっく、危険なことしやがって」
「それは本当にすみません。
危険なことをしたと言う理解はしていますが、裏切りの勇者の子孫とドラゴンの隠蔽と守護は私たち9人の……いいえ、裏切りの勇者とドラゴンの真実を知るもの全員の総意ですから」
「分かっているよ。
俺もその一人だし、そう思っているからこそ今日、こうしてきているんだしな。
と言うわけで――――」
そう言って、先ほど自分たちが居た部屋の扉を開けたヴィーラント。
その瞬間。
「――――ッ!!」
小さな殺意と一緒に放たれた苦無が暗闇からヴィーラントへ向けて放たれた。
恐らく、何かの魔導兵器の一種なのだろう。
高速で飛翔する苦無は、数を増やしながら、速度を高から音、そして光へと変えていく。
そして、その切っ先がヴィーラントの髪に触れるころには一本の高速の苦無は、もはや光速で移動する鉄の壁となっていた。
殺した(やった)と、自身の目的達成に口元をあげた暗殺者は、本来の自分の目的を果たすために腰に合った小刀を抜いて、スミスへ向けて駆けだし、一歩、地面に足が付くと同時に上半身と下半身をヴィーラントによって砕かれたのだった。
「こいつはどうする?」
「そうですね。上半身がそうなったらもう尋問も意味ないでしょうし、言葉を交わす価値もないので殺すか放置しておけばいいのではないですか?
どっちにしても、あと数分の寿命ですし、どっちを選んでも変わらないと思いますよ」
「――――へ? あ、ごふっ、何で、どうやって……」
血を吐きながらどうやって光速で移動する苦無の壁を抜け出したと呟く暗殺者。
だが、そんな口とは裏腹に、暗殺者の思考はまるで宝石の塊のように結晶化して砕け散った自分の下半身のことで支配していた。
何故、それもどうやって一瞬で自分の体をこのようにしたのか、頭の中で反復する疑問とは別の言葉がそのまま垂れ流れるように口から出てくる。
「まっ、そうだよなっと。
生かしておく意味も意義もないし、殺しとくか」
しかし、そんな男の疑問をつゆに消すかのように男をまるで虫を見るかのような興味の無い視線でそのまま頭に軽く触れるヴィーラント。
その瞬間、まるでペンキでも被ったかのように触れた箇所を中心に、暗殺者の体は下半身と同じく結晶化していき、約5秒経つ頃には上半身全てが結晶となり、その命を終わらせた。
そして、そんな暗殺者の姿を見た二人は、数多の苦無が壁に突き刺さり、ほぼ半壊した部屋に入り、無事だった椅子に深く腰掛ける。
「タイミング的に皇帝が送り込んだ刺客と考えるのが一番楽だが……しばらくはこんな感じの日常になるということか」
「そうですね。少なくとも今回の騒動が治まるまでは、気を抜くのは不味いです」
「なるほどな」
「怖いですか?
逃げたいのでしたら、あなたは逃げても――――」
自身の夫を心配するスミスの言葉にヴィーラントは首を横に振る。
「まさか。これに失敗すれば最悪彼女だけじゃなく、俺の家族にも影響が出る可能性があるんだ。
なら、怖いなんて言葉は口に出る前にかみ砕いてでも、俺はこれに関わらせてもらうぜ」
胸を強くたたきながら宣言するヴィーラント。
そんなヴィーラントに、苦笑しながらスミスは自身の手をヴィーラントへ向ける。
「全く、あなたらしいと言えばらしいですね。
たぶん、私はあなたのそう言う強い精神力に惹かれたんでしょうね。
分かりました。
それでは、ヴィーラント・ヴェルンド。
錬鉄の勇者の子孫であるスミス・ヴェルンドとして、あなたに協力をお願いします。
どうか、私たちの役目と、そして家族のために力を貸してください」
「ああ、スミス・ヴェルンドこちらこそよろしく。
ただの市平の子孫ではあるが、俺の家族のために、お前たちに力を貸すぜ」
そう言って、互いに近づいた二人は互いの目を見つめながら同盟の握手をするのだった。
プロローグも終わり、ようやく物語が動き始めます。
楽しんでいただけたら幸いです。




