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奇跡のないこの世界で  作者: 筆我尾曾井
プロローグ
11/14

シェリアとの戦い 2/2

「私の名前はシェリア・ストック。

 500年前の帝都の皇帝の子孫で――――裏切りの勇者の直系の子孫よ」

「……あっそうかよ」

 血だまりの中、シェリアの驚愕するべき返答に対して、俺は思わず素っ気ない答えを返した。

 そして、そんな俺の言葉に対して、少し驚愕した顔をしたシャリアは次の瞬間に思わず笑みを零した。


「あっそうって……ぷふふふ。

 全く、凄い言葉言うね。あなたって」

「……そうか? 普通、裏切りの勇者の子孫なんて、どうでも良いだろ」

「まあ、そうね。

 普通の倫理観だったらそうかもしれないわね。

 でもね――――」


「あり……えない。

 裏切りの勇者の子孫なんて汚らわしい!!

 ましてや、あの英雄たちを召喚して、世界を救おうとした偉大な皇帝の子孫を語るなんて、恥を知りなさい!!」

 そして、先の衝撃で目が覚めたのだろう。

 例の三人組の一人の聖職者は、残り二人に抑えられながらも必死にシェリアに噛みつこうと暴れていた。


「あなたのような人は、自分の罪を償うためにそこのドラゴンと一緒に自害しなさい!!

 その方が世界は救われるわ!!」


「普通はあの聖職者の彼女みたいな反応が一般的なのよ。

 殺人犯の子は血に染まった手で育てられたのだろうから汚らわしい。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 月並みな言葉だけど、これが一般人の私に対する対応よ」

 そう言って、少し悲し気に肩をすくめるシェリア。

 そして、そんな彼女へ向けて、聖職者は汚らわしい、恥を知れと永遠と同じようなことを言いい続けていた。

 その姿は自身の職とは正反対に歪んで、真っ赤な理性など欠片も残っていないような様相だった。


「……まっ、そうだな。

 人間誰だって自分の都合がいい言葉が好きだし、都合が良いことをした方が楽だからな

 そりゃ、誰だってお前を否定するか」

「そういうこと。それじゃあどう?

 早速私のこと否定してみる?」

「止めとくよ。

 出会って数分程度の付き合いだけど、別にそんなに嫌いじゃないし、裏切りの勇者なんて俺にはどうでも良いからな」

 咳込みながら俺は体魔術を発動しつつ、一本だけ残った腕を横に振って彼女の言葉を否定した。


「そう、それは残念。

 私もあなたのことはそんな嫌いじゃないし、殺しづらいってのもあったからその方が私の方も気兼ねなく殺しやすくなって良いんだけど。

 ()()みたいにね」

 そう言うが早いか、腕を振ると同時に激怒していた聖職者の頭はいつの間にか自分の胴体から、シェリアの手に移っていた。

 恐らく、自分が死んだことに気付いていないのだろう。

 その表情は先と同じ、憤怒の色に染まっていた。


「うそ、いや、いやぁぁぁぁああああ!!」

「な、なんでこんなこと――――」

「別に必要だからに決まってるでしょ?

 良く言うでしょ? 死人に口なしって。

 黒龍(このこ)のことを伝えられたら不味いからこういう感じに口封じているんじゃない。

 じゃなかったら、流石に殺人趣味もないのにこんなことしないわよ」

 死んだことを認めないと言うかのように頭のない胴体だけとなった聖職者の体を抱きしめながら、悲鳴を上げる残りの二人の男女。

 しかし、そんな二人を一瞥した瞬間に、シェリアは同じように男の首を地面に落とした。


「顔に似合わず容赦ないな。シェリア」

「まあ、一瞬が命を無くすってのが戦場だからね。

 温情なんてかける余裕私は無いわよ。

 それにしても……凄いわね。

 まさか、片手だけになった状態で私の攻撃を防ぐなんて思わなかった」

「まあ、こっちも命は失いたくないんでな。

 そりゃ本気にもなるさ」

 そして、銃口から現れた魔力の刀で眼前の糸を切り刻みながら俺は薄ら笑いを浮かべた。


「なるほどね。

 一応こっちとしても苦しまないようにはしているつもりなんだけど。

 生憎と結構時間たったし、これだけの轟音。

 もうそろそろここがバレてもおかしくないわ。

 と言うわけで、ファブ。もう休憩は大丈夫?」

『うん、大分回復したし、一発撃つくらいは問題ないよ』

「そう。それじゃあ、後は頼むわ。

 ここまで削ったんだし水蒸気爆発(さっき)のようなことにはならないでしょ」

 そう言って、今まで体力回復から一転、俺たちを殺すために動き出したドラゴンとは正反対にドラゴンの頭に座り、活動を停止させるシェリア。


「いや、やだ。まだ死にたくない」

 それを意味する(俺たちを殺す)ことを察したのだろう。

 三人の内唯一生き残った女は泣きながら必死にこれから放たれる龍の咆哮(ドラゴンブレス)から逃れようと首を左右に振った。

 しかし、そんなことをしてもどこぞの物語のようなご都合主義的な展開は起こらず、ドラゴンの口から溢れだす炎と轟音が限界点を突破していることを告げていた。

 そして、一瞬の静寂が俺たちを包み――――


『ガァァァアアアアア!!』

 次の瞬間、再び俺を殺す確殺の焔が放たれた。


「いや、熱い。

 いやぁぁぁぁああああ!!」

「う、づ、ぐぅ」

 腕一本すら動かない体を容赦なく燃やしていく龍の焔。

 それは、()()()()()()()()すら触れた瞬間に炭化させ、容赦なく命と意識を奪っていく。

 視界は赤一緒になると同時に一気に白から黒へと変わっていく。


 そして、抵抗できない俺の姿を見たのだろう。

 もう興味がないと言うかのように臨戦態勢を解除するシェリア。

 その姿を残った唯一の視界で確認したと同時に俺は、爆裂の法魔術を背中と隣接している壁へ向けて発射させた。


「なっ――――」

 ほぼゼロ距離で炸裂した爆発はシェリアを驚愕させながら、龍の焔すら超える勢いで俺の体を吹き飛ばし龍の元へと向かわせた。

 その反動だろうか、俺の銃を握っていた片腕は爆風の威力によってあらぬ方向へと曲がり、薄皮一枚で何とか保っている状態だった。


「――――ふッ」

 しかし、驚愕するのも一瞬。

 すぐさま攻勢へと身を転じさせたシェリアは一気に俺の体を再び切り刻もうと糸を放った。

 だが――――


「くっ、ファブ。

 炎をいったん止めて!!」

『わ、分かった』

 人間の肉体すら一瞬で炭化させる炎を前に流石の斬糸も耐え切れなかったのか焼き切れた糸は俺に届く前に地面に落ちた。


「死ね」

 ゆえに、シェリアの斬糸の影響を受けずにそこへ到着した俺は体魔術で復活した腕でシェリアの腕を掴み、もう片方の折れた腕を吹き飛ばされた反動を使い、シェリアの心臓へ照準を向けた。


「な、めるな!!」

 しかし、そのトリガーが引き切ると同時に放たれた糸によって、俺の腕を切り裂き、バラバラに落とした。

 シェリアの頭をかすめながら、飛んでいく銃弾。

 しかし、その一撃は薄皮一枚のみ切っただけで終わり、止めとならなかった。

 対して、そんな俺へ止めを刺すと言うかのように、シェリアは俺の首を掴むと同時に一気にその手に力を入れる。


「……驚いた。治療特化の体魔術を使うことは分かっていたけど。

 まさか、()()()()()()()()()()()()()なんて思わなかった。

 普通は、()()()()()()()()()()()()()()()()なのに」

「あ、がっ」

 そう、俺の体魔術は治療に特化したものだ。

 無論、だからと言ってこれは戦闘ではほとんど役に立たない。

 何故なら、一般的な体魔術による強化の恩恵とは、車と同程度の速度で走ったり、一蹴りで百メートルを超えるほどの跳躍力、拳で岩石を砕く怪力、傷口を一瞬で治すと言う漫画のようなものが普通なのだ。

 そのため、俺のような特化型は一点のみがありえないレベルで強化されているだけで、それ以外の分野では決して他の能力者とは渡り合えないのが常識だ。

 しかし、回復に特化しているものは、ただ生存すると言う一点には他を追随を許さないが、戦闘と言う面では意味はなく、ただのサンドバックになれと言うのとほぼ同じなのだ。


「はぁ、うぐっ」

 ゆえに、今、体魔力によって強化されたシェリアの腕を解くことも出来ず、俺はただ無様に足掻くことしか出来なかった。


「でも、確かに凄い回復力だけど、逆に言えばそれだけね。

 特攻して私に捕まるのはまだしても、振りほどけないなんて。

 冒険者よりも暗殺者の方があっているんじゃない?」

 そう、だからこそ俺は必ず暗殺や奇襲など、相手が行動する前に殺す算段を取らなければ勝てないのだ。

 ましてや、いくら相手が油断していたとは言え、戦闘中の相手に向けて爆発の威力を使って、真正面から特攻するなんて絶対にしてはならないのだ。


 そう、分かっている。

 俺は絶対に特攻なんてするべき人間じゃない。

 だが――――


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 これに」

 普通の人間で、戦闘経験が豊富な奴ほど生きたいと言う生への渇望は大きい。

 そして、そんな人間は相手は自分が生きることを前提に置いてものを考えることが多い。

 ゆえに、太古から自爆や神風特攻は有効でなのだ。

 つまり、俺のある程度の肉体的損傷も治療できるがためのこの行動も大抵は理解されないのだ。

 そして、俺はうっすらと笑った後、親知らずの差し歯代わりに入れていた魔石を取り出し、魔力を流しながら吐き出した。


「……何これ?」

「俺の()()()()()()()()()()()()()させる。

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 つまり……だ」

「ッ!!」

 俺の言葉を理解し、シェリアが防御態勢を取った瞬間、一気に暴走した魔力は乱爆発を起こし、俺たちの周囲を破壊し始めた。


「あがっ、づ、ガァァァアアアアア!!」

「うぐっ、いづっ、づぅぅぅ!!」

 死なない前提と、そしてどんな怪我も肉体的損失もある程度は無視できると言う強みがあるからこそ、出来た爆発。

 そんな、無差別に放たれた爆発は、俺とシェリアの体をさらに破壊し続けながも更にその威力と範囲を広げていく。


 そんな、殺戮の爆撃が繰り返される中。

「づぅ!! そこだッ!!」

 爆撃の嵐の中で、必死の糸を放ったシェリアは、俺の魔石を容赦なく叩き切った。

 無論、術の発生源である魔石を破壊することによる術の解除は緊急時の対処として一般的だ。


「ヅゥゥゥウウ!!」

「あ、がはっ」

 しかし、術式を暴走させた魔石を破壊した結果だろうか。

 まるで鼬の最後っ屁のように、割れると同時に切断面から現れた最後の爆撃が俺たち二人の体を吹き飛ばした。


「うぐ、げほっ!」

 蛇口から出る水のように一気に血を吐き捨てた俺は、すぐさま体魔術を発動し、肉体を再生させる。

 しかし、やはり今までの無茶をしたせいだろう。

 俺の手足は既に指一本すら立てることが出来ず、体を治療できるほどの魔力も既に残っていなかった。


 だが、それはシェリアも同じようで――――

「はぁ、はぁっ、づぅ」

 体の節々にある切り傷の痛みに耐えながら、息を荒げているその姿は暗に自身の限界を告げていた。


「ま、まだだ」

 しかし、体力的にまだ限界を迎えていなかったのか、体の筋肉が悲鳴を上げるのを無視しながらシェリアは立ち上がった。

 ゆえに、死ぬわけにはいかないと、俺もまた立ち上がろうとする。

 しかし――――


『シェス、残念だけどこれ以上は君の命に関わるから駄目だよ。

 撤退しよう』

 シェリアを隠すように立ったドラゴンは、俺たちの戦いを止め、撤退するように進言した。


「……ファブ、それは分かっているけど。

 残念だけどそれは許容できないわ。

 ここでこいつらを見逃したらあなたのこれからに影響が出る」

 確かに、既に絶滅したはずのドラゴンを見つけただけでも、その情報だけで十数年は遊べるくらいの金は手に入る。

 無論、それは俺たちにとっては都合の良いことだが、対してシェリアたちは危険なドラゴンを滅ぼそう言う人間たちの標的にされることはほぼ確実だ。

 それを考えれば、ここで俺たちを殺して口止めをするのは当たり前の選択だ。


『それは分かっているけど。

 ごめんねシェス。

 あの人のためにも君を死なせるわけにはいかないし、それにね。僕は自分よりも君の方が大切なんだ。

 だから――――』

「……分かったよ。ファブ。

 ここは撤退しましょ」

 深くため息を吐いたシェリアは、ドラゴンの背に乗る。


『ありがとう。シェス。

 僕の我儘に従ってくれて』

「別に良いわよ。

 でも、今後は旅がちょっと厳しくなるかもしれないから覚悟してね」

『分かってるよ。それくらいの覚悟くらいしているから大丈夫だよ』

「そう。覚悟しているなら大丈夫ね

 それじゃあ、行きましょう」

『了解』

 気の抜けたような返事をしたドラゴンは、先ほどよりも小さい炎の弾を作り出し、天井へ向けて射出した。


 その瞬間、凄まじい轟音と共に天井に穴が開き、そこからドラゴンが飛び去って行った。

 こうして俺とシェリアの戦いと出会いは終わった。


 その後は、ドラゴンの姿を見た近隣の住人が偶然倒れていた俺と三人組の唯一の生き残りの彼女を発見し、俺たちは帝都へと搬送された。


 その数日後、ドラゴンが現れたと言う情報は帝都から各国へ伝わっていっただった。

 そして、このドラゴン発見を皮切りにこれからの俺の日常は変わっていくのだった。

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