シェリアとの戦い 1/2
戦闘描写って結構難しいですね。
転スラとかリゼロとかの作者さんの凄さを再確認しました。
「ガァァァアアアアア!!」
黒色の龍の口から放たれる灼熱の炎。
それは俺たちを焼き殺すと言うかのように、皮膚を、髪を焼き、周囲の死体を炭にする。
流石にこれを喰らったら俺でも死ぬ可能性がある。
そう判断した俺は、シェリアの斬首によって弱まった心臓を動かし、立ち上がると同時に炎の前に立つ。
たっく、なんてでかい炎だよ。
照準着ける意味ないじゃないかよ。
もはや龍の化身と言っても過言ではないほど巨大な炎を前に俺は苦笑を浮かべた。
「法魔術・発動」
だが、これ程度ならば……そう判断した俺は照準を合わせると同時にその引き金を引いた。
瞬間、銃口から現れた大量の水が眼前の炎を飲み込んだ。
炎に触れるたびに、水が焼けるかのような音が響き、水蒸気が洞窟の中を充満させる。
「づ、ぐっうっ!」
恐らく、洪水レベルの水の噴出によって発生した力を長時間かつ片手で抑えていたからだろう。
ゴム紐が切れるのと似た音が俺の腕の肉から漏れ出し、やがて切れた皮膚から血が零れ出た。
「ガァァァアアアアア!!」
「づ、ガァァァアアアアア!!」
龍と俺の互いの声が洞窟内に響く。
そんな俺と龍との戦いは突如として停止した。
『これは――――まずい、シェス!!』
「ええ、分かってる!! 法魔術・発動!!」
「くそっ! 間に合わない」
「へ?」
ドラゴンの炎と言う灼熱によって温められ、水蒸気が充満した洞窟の中突如走った悪寒。
それを感じた瞬間、逃げようと俺とシェリア、そしてドラゴンは互いに敵でありながら協力したかのように互いの攻撃を止め、防御態勢を取った。
その瞬間。
「きゃぁっ!!」
『ぐ、うぅ!』
「ぐっ、う、がはっ!」
水蒸気爆発。水の温度が急激に上がることによって発生するそれは、突如突風をまき散らし、周囲の石や地面に転がっていた死体を俺たちへとぶつけてきた。
わずか一瞬の爆発。しかし、それでもその威力は凄まじく――――
「がはっ……ぐっ!」
『づ、ぐぅ』
「いづっ、痛いの貰ったわね」
恐らく例の糸で致命傷は避けたのだろう。
シェリアは体の節々に軽度の切り傷程度の負傷にとどまったが、致命傷を腕でガードする程度しか出来なかった俺とドラゴンは互いに目や内臓などが切られ、そこから血が溢れ出だしていた。
「……」
そして、それは俺の背後にいる三人も同じようで俺が運よく盾になったおかげで何とか致命傷は避けてはいるが、三人とも目を覚まさず気絶していた。
「ファブ、ありがとう。
あなたの注意が無かったらちょっと危なかった」
『別に良いよ。シェスは……僕の妹みたいなもんだもの。
自分よりシェスの心配するのは当たり前だよ』
「本当にありがとう。
ゆっくり休んで」
そう言って、眼前の龍の頭からシェリアは離れ、地に足を着ける。
これで互いに痛み分けと言うことで見逃してくれると助かるんだが……などと俺は期待する。
「なんで、首を切ったはずのあなたが平気なのは気になるけど……
まあ、私の邪魔する可能性ありそうだし、元々口封じる予定だったしどうでも良いか」
しかし、その期待はいとも簡単に裏切られ、鈴のような澄んだ音が鳴ると同時に彼女の服の袖から細い糸状のものが現れた。
まあ、俺の首を切ったり、俺を誘導していた時から予測はしていたがやっぱり、彼女の魔導兵器は鋼鉄レベルの硬度を持つ糸、もしくはそれを作るものなのだろう。
演奏のように腕を軽く振る。
指揮者によって、命令された糸はその命令にしたがうように、一直線に俺へと向かう。
触れれば完全に切断される。
それを証明するかのように糸を避けた瞬間、俺の背後にあった岩はまるでバターナイフに斬られたかのように綺麗に切断され地面に落ちた。
無論、これが一本の糸だけ操れる能力なら問題ない。
だが――――
「意外と避けるの上手ね。
普通は20本使えば10秒でバラバラになるのに」
「バラバラって、シェリア。お前、意外とスプラッター趣味があるんだな」
計20本もの糸がまるで意思があるかのように俺に襲い掛かるこの現状で全ての糸を避けるのは難しく、俺の体の節々はその糸によって切られ、血が滲みだした。
「怖い映画とか苦手だし別にそこまでスプラッター趣味は無いわよ。
まあ、映画くらいは好きになった人が見るって言ったら我慢してみるかもしれないけどね」
クスクスと一歩も動かずに笑うシェリア。
しかし、その糸はそんなシェリアとは裏腹に次々と俺の体を切り刻んでいく。
「ああ、そうかよ。
因みに、俺もそんな趣味はねえよ!!」
シェリアの軽口に乗るかのように喋りながら俺もまた両手の銃のトリガーを引き、襲い掛かる糸を打ち落としていく。
「あらそう。あなた結構私の好みのタイプだから安心した。
これで、万が一もしあなたとデートした時に少なくともスプラッター映画は見なくても済みそうだわ」
そして、そんな俺を見ながら苦笑するシェリア。
しかし、その声は次の瞬間、一気に冷ややかなものへと変わり――――
「まあでも、今から死ぬ人に万が一も億が一も無いか」
袖から先の3倍の糸が現れ、計80本の慙糸の奔流がシェリアの殺意の流れに沿いながら俺へと襲い掛かった。
「づぅ、ぢぃっ!!」
塵も積もれば山となるというように、積もり積もった糸は川のように流れ、耳、足、肩、首と少しずつだが、確実に俺の体を切り刻んでいく。
現状は、なんとか体魔術を発動し、自身の肉体を強化しているため、被害はこの程度に済んでいる。
だがしかし、俺の体魔術は脚力と耐久力の強化はそれほどではないうえ、いくら体魔術と言えど体を酷使することで溜まる疲労感は回復されない。
つまり、未だに一歩も動いていないシェリアと全速力で走り、糸を避け続ける俺のどちらが先に体力が切れるかなんて言うまでもなく、そうなった場合の結末なんてたかが知られている。
ゆえに、俺がここから生還する方法はただ一つ。
「そうか。俺も割とお前は好みのタイプなんだが……
お前が俺を殺すって言うなら――――」
俺もお前を殺す。
そう宣言すると同時に、俺は自身が唯一生き残れる方法。
シェリアが俺を殺す前にシェリアを殺すと言う単純な方法の実行に移った。
未だに襲い掛かる糸の嵐から逃れながら、俺は右手の銃のシリンダーを展開し中に入っている弾丸の形状の石を全て入れ替える。
そして、そのまま流れるようにグリップからマガジンを取り出し、腰にあるマガジンを装填した。
「……何しているんだろう?」
そして、そんなノイゲルの動きを見ながらシェリアは思わず疑問を浮かべた。
通常、銃と言うのは弾丸を発射するもので、特殊なものはあるが基本はリボルバー形式はシリンダー、他はマガジンに弾丸を込めるのが一般的だ。
つまり、シリンダーに何かを込めた後に、マガジンを再装填するなんて動作は存在しないのだ。
無論、あれが魔導兵器だと言うことは理解しているし、現に銃口から銃口の大きさ以上の石の嵐が現れるなんてことは現実を凌駕する現象を引き出すことが出来る魔導兵器以外には不可能だ。
ゆえに、ただの銃と言えど、その形状では想像がつかない何かギミックのようなものがあってもおかしくはないのだが――――
「喰らえッ!!」
さっきからずっと同じような速度、威力共に変わらない石弾以外全く同じ行動しかしていない現状から考えるにそれも怪しい。
無論、だからと言って相手の魔導兵器に必ず何かしらの特性が無いとは限らないし、逆を言えばその特性が初見殺しの必殺になるかもしれないから、隠している可能性もある。
つまり、言ってしまえば蓋を開けてみれば分かるが、その蓋が閉じている限りは無限の可能性があると言う、猫の入った黒い箱と同じ質問だ。
無論、これは所謂答えのない問題と言うもので、基本的には答えを出すことよりもそこに至るまでの過程を考えることこそが重要なものだ。
だが、世の中には例外と言うものもあり、この問題もそうだ。
蓋を開けなければ猫の生死が両方とも存在すると言うこの問題。
この問題を確実にかつ、決して間違えない方法はただ一つ。
「蓋を開ける前に、猫を殺せばいい」
だって、死ねばそこで、終わりどんなことがあっても生き返らないのだからと、心を殺意で溢れさせたシェリアは神経全てを糸へと集中させ、自分が現状操れる150の糸の操作を始めた。
「あ、がっ!」
150もの糸を操作した瞬間に、ノイゲルの体から一気に傷が生まれ、肩口に空洞が空き、左手が切り落とされ、脇腹から臓器が零れだした。
口から盛大に血を吐き出すノイゲル。
「くそっ、舐めるな!!」
しかし、その痛みを知らないと言うかのように、怒号と共に再び銃口から石を打ちだす。
しかし――――
「…………」
まるで飛び回る蠅を落すかのように飛び出した石はシェリアには触れずに全て地面に叩き落された。
本当に何なんだ。これはそう思うかのように一切変わり映えしない攻撃を前に、シェリアは一瞬攻撃の手を緩めた。
瞬間。
「なっ!?」
先ほど切り落としたはずの左手に何かを持ちながら大きく振りかぶったノイゲル。
そこから飛んできたのは、先ほどシェリアによって殺され、黒龍によって燃やされた盗賊の上半身だった。
その瞬間、思わず一瞬だけ思考が停止するシェリア。
「邪魔ッ!!」
しかし、この男がノイゲルへの死角となると判断したシェリアはすぐさま盗賊を細切れにし、視界をクリアにする。
男の上半身の死骸から、一気に全体が見えるようになったシェリアの視界。
そこには走りながらもこちらに照準を向けているノイゲルの姿があり、その指は今にも弾丸を発射せんとするほど押し込まれていた。
不味い。そう判断したシェリアは、反射の域で伸ばしていた糸の大半を自分の周囲を防御させるために呼び戻させた。
もちろん、指を引いた時点では間に合わないだろう。
しかし、神速の一撃でも撃たない限りは発射から着弾までの間に防御態勢を取ることは可能だ。
そう判断した瞬間、シェリアの体は無意識化で全ての糸の制御を取りやめ、全力の体魔術を発動した。
筋力、脚力、回復力ともに全てが高純度で強化される言わば万能型のシェリアの体魔術は、ノイゲルが引き金を引くと同時にコンマ1秒すらかからずに触れたその攻撃を少し肉を抉られる程度の負傷で留め、避けきらせた。
微量の血で地面に赤色の絵を書きながら、一気に冷汗をかくシェリア。
何故なら、シェリアの傷口は胸の中央。
心臓がある位置から始まっており、あとコンマ一秒でも遅かった場合、自分の心臓には今風穴があいていたからだ。
「くそっ、攻撃が一瞬遅かったか」
そう言いながら、俺は舌を鳴らし、魔力が切れたマガジンを新しいマガジンへと再装填する。
そんな、俺を見つめながら面白いと言うかのようにシェリアは笑みを浮かべた。
「ああ、なるほど。そう言うことね。
貴方の魔導兵器中々、面白いわね。
まさか、魔道具の原理を使う魔導兵器なんて初めて見たわ」
「へえ、気づいたんだ」
「まあね。色んな所にヒントがあったおかげだけど……凄い技術ね。
さぞ、良い技師が作ったんでしょうね」
「まあな。
少なくとも俺にとっては最高の人たちだよ」
苦笑しながら、俺はシリンダーに新しい魔石を装填した。
魔導兵器とは術式を刻んだ魔石に魔力を流すことによって法魔術を発動する武器のことだ。
しかし、魔導兵器とはあくまで武器として使用すると言う前提があるため、そうなっているだけで、言ってしまえば法魔術を発動するだけならば、術式を刻んだ魔石とそれを流す魔力さえあれば事足りる。
そして、それを実用化させたのが魔力を内蔵させ、内蔵した魔力を魔石に流すことで法魔術を発動できる魔道具だ。
そして、俺のこの二丁の魔導兵器も同じ原理を使用している。
魔力をあらかじめ内蔵させたマガジンと、術式を刻んだ魔石をシリンダーに入れることでトリガーを引いた際に、マガジンから排出した魔力が魔石へと流れ法魔術を発動させる。
それが俺の持つ魔導兵器の特性だ。
無論、こんなものは所謂無駄に等しく、わざわざマガジンを交換することで魔力を補充し、法魔術を発動するよりも直に魔導兵器に魔力を流し法魔術を発動した方がまだ効率的だ。
だがしかし、俺にはどうしてもそうせざるを得ない理由があるのだ。
「なるほど、あなた反動現象しやすい体質なのね」
シェリアの小さな呟き。
俺はその言葉を否定も肯定もせず、ただトリガーを引くだけの返答をした。
魔石に刻んだ術式と、魔石の属性、そして魔力の属性が一致しなければ引き起こされる術式の暴発、暴走する反動現象。
無論、それは魔力を内蔵する魔道具においても例外ではない。
しかし、人の体内に存在する魔力は多くて二属性が通常なため、基本は魔石に合うように魔力の属性を抽出し魔力を流すよりも、自身の魔力の属性にあった魔石を用意することで、属性抽出の手間を外している。
だが、しかし、俺のように稀有な例だが、全属性に適正持ちに至っては話が別になる。
俺のような全属性の適正持ちは魔石に合った属性の魔力を抽出しなければ、確実に反動現象が発生する属性の魔力を流してしまうからだ。
分かりやすく言えば、目玉焼きを作る際に、卵の入ったフライパンに水、油、ガソリンを一緒に入れるようなものだ。
そのため、俺は常に法魔術を発動する際は属性抽出をしなければいけない体質なのだ。
しかし、戦闘中にそのようなことなど出来る訳がないうえ、俺はその属性抽出が全くと言っていいほど出来ないのだ。
そのため、そんな俺のために作られた魔力内蔵機能と、スイッチで属性のあった魔力の抽出、排出機能のあるマガジンが作られたのだ。
加えて――――
「喰らえ!!」
トリガーを引くたびに、銃弾の如くシェリアの元へと魔力の塊が飛翔する。
しかし、その銃弾はトリガーを引くたびに、炎、木、岩、水弾と変わっていき接触した箇所を容赦なく破壊する。
そして、その光景からシェリアは更にノイゲルの銃のもう一つの特性を理解した。
「なるほど、その魔導兵器リボルバーを回転させることで、発動する術を変えているのね」
「ちっ、良く分かったな。正解だよ」
どんなに高性能の魔導兵器であっても、魔石に刻んだ術式を元に発動すると言う特性上、魔導兵器の優秀さはあくまで魔石の評価が大半となる。
ゆえに、魔石が大きければ大きいほど複雑な術式が刻めるため、優秀な魔導兵器は全て巨大な魔石を使用している。
無論、それだけ大きければ当然戦闘中に魔導兵器の魔石を取り外すことも、ましてや魔導兵器を付け加えるなど技術者たちは考えない。
しかし、そこに目を付けたのが、ヴィーラント夫婦であり二人は、強い一つの術式を組んだ魔導兵器よりも、多彩な術式を容易に発動できる魔導兵器を作ると考え、その結果この銃が出来上がった。
仕組みは単純であり、例えばゴブリンから取れるような小石程度の魔石を弾丸型に形成しなおし、その魔石に比較的刻みやすい術式を刻む。これを複数パターンかつ、全属性の魔石に対して行う。
そして、使用者はシリンダーの中にその魔石を装填する。
後は、装填した魔石の配置を覚え、術式を変更するときは自分が発動したい魔石に魔力が通るようにシリンダーを回転させ、トリガーを引く。
これだけで、通常の魔導兵器にはない一つの魔導兵器で複数の術式が展開できるのだ。
加えて、この銃にはもう一つ特性がある。
「閃光だ――いづぅっ!!」
『シェス!!』
「クソっ、喉を狙ったのに」
銃弾から突如放たれた閃光に思わず目を瞑るシェリアだが、その瞬間、肩口に走る激痛と共に木片が痛みの周辺の肉を抉った。
「あと何種類、攻撃パターンがあるのよ!?」
「残念ながら企業秘密だよッ!!」
そう言ってしまえば蓋を開けなければ猫の生死が両方とも存在すると言う問題と同じだ。
既にこの目で確認しているだけで既に8パターンの攻撃はしている。
つまり、最低でも8個の魔石をノイゲルは保有していると言うことだが、弾丸程度と言う大きさの魔石のため、隠そうと思えば何個でも隠せるため、上限が8個と言うわけではないのだ。
もしたら10個かもしれない、いいや、20、30、100個だと言う可能性もある。
そう、これこそがノイゲルの魔導兵器の最大の優位性。
手数が多いがゆえに、相手は常に万が一こういうことが発生する可能性があると言うことを常に考慮して戦闘をしなければいけないのだ。
そして、それは一瞬の気の迷いや本来必要のないことを考慮することが死につながる戦闘においては最もやってはいけないことであるのだ。
現に、今まで100%攻勢に移っていたシェリアの糸は、今や90%が防御に移り、残り10%で戦闘を行っている状態だ。
どうする。どうする。どうする。
そんな思考が渦巻く中でシェリアは必死に弾丸を避けながらひたすら戦い続けていた。
もしかして、次は爆発する銃弾を発射するかもしれない。
次は、雷弾を打つかもしれない。
それともさっきと同じ先の閃光弾を撃った後、別の弾で殺しに来るかもしれない。
そんな堂々巡りする思考の中、深く息を吐いたシェリアは答えを導き出すと同時に頭を真っ白にした。
「どうかしてたわ。私、そんな頭良くないのに」
何真剣にもの考えて、相手に合わせていたんだろうと、そう言ったシェリアは降り注ぐ銃弾の中を自身の身を削りながら突貫した。
致命傷になりかねない弾丸以外は全て自らの体で受け止めながら、接近するシェリアに焦るかのように弾丸を発射していくノイゲル。
それもそうだろう。
銃弾で、弾を発射する以上、その戦闘は中から遠が最も得意とする距離で、接近戦は苦手なのが基本だ。
ゆえに、どれだけ傷つこうと接近すれば、勝機はあり、それを証明するかのように近づくたびに銃弾の発射間隔は短くなる。
「取った!!」
そして、腕一本分の距離に近づいた瞬間、シェリアは向けられた銃口を糸でずらし、ノイゲルの腕をその反動で天へと向けさせた。
こうなれば、勝ったも当然だ。
何故なら、どんなに素早い銃撃を打てても照準を合わせて、トリガーを引くより自分の糸が相手の四肢を切断する方が早いからだ。
そして、それは正しくノイゲルがトリガーを発射する直前まで引くのと、周囲の糸がノイゲルの体を切り刻み始めるのはほぼ同時でありこのままいけば、ノイゲルは銃口をシェリアの脳天に合わせるとほぼ同時にバラバラにされるだろう。
ゆえに――――
「ああ、取らせてもらったぜ!!」
銃口からまるで刀のように伸びた炎の塊が、私の腕を切り飛ばし、地面へと叩き落とす光景に思わずシェリアの顔が呆然とする顔となった。
何故と言うシェリアの顔を見続けながら俺は残ったもう片方の腕も炎の剣で切り落とした。
そう、シェリアの間違いはそこだった。
確かに俺の銃の持っている魔石の大半は魔力を固めて、飛ばすと言う術式が刻まれているものが大半で、その結果魔力の弾丸での狙撃こそが俺の戦術の基本だ。
だが、戦術=魔石の数と言うこの魔導兵器の特性を前に魔力を刀の形にして維持する。言ってしまえば魔力を刀にする接近用の戦術を用意するのは当然で、現に俺の銃の形状から接近は苦手だと勝手に判断した奴は過去大量にいた。
そして、彼女もその一人らしく、こうして彼女は両手を失った。
ゆえに、あとはこのまま腕と同じく首と胴を永遠に分けさせれば終わりだ。
そう判断した俺は、とどめの一撃を彼女の首へと向けさせる。
迫りくる魔力の刀と彼女の首元。
その刀が彼女の首の薄皮を切った瞬間。
「――――これで私の勝ちね」
口元を吊り上げる彼女は、その言葉を吐くと同時に地面に転がった自分の腕を蹴り上げ俺の視界は彼女の血の滴らない腕でその切断面はまるで精密機械のような糸で――――やばい。彼女の腕はもしかして。
全てを理解した俺は攻撃を止め、一気に後退する。
その瞬間。
『解放』
「い、づぅ!!」
その言葉と共に、魔導兵器の糸で作られた彼女の義手はその姿を元に戻し、俺の体を容赦なく切り刻んだ。
指が切られ、足の肉が削がれ、右目が潰され、耳が落ちる。
死ぬまで切り刻むと言うかのように殺人結界になった糸の集団は蠢きながら俺の体を解体していく。
不味い、このままだと死ぬ。
そう判断した俺は消えかけている意識を総動員して、シリンダーを動かす。
そして――――
「ぐっ、ヅッ!!」
爆発の弾が発射とほぼゼロ秒で爆発する。
その瞬間、俺の両足と右手は胴体から離れる代わりに、俺は殺人結界から逃げることに成功した。
「あ、がはっ!」
無論、左手と胴体と命しか残っているものがない俺の体は爆発の衝撃を止めることは出来ず、一切の防御も出来ず、洞窟の壁にぶつかる。
「よく、逃げられたね」
そして、俺以上の負傷ではないとはいえ、その爆風を喰らったシェリアは口元の血をぬぐう。
しかし、その脇から生えている手は今までの絹のような白い腕ではなく、まるで糸で出来たぬいぐるみの腕のようなものだった。
加えてその腕はまるで手術でも受けたかのように、抉られたかのような傷と継ぎはぎだらけだった。
「まあ、な。
こちとら、妹と合えるまで死ねないんだがな」
「……そう、その気持ちは分かるわ」
「そうかよ。ありがとうな」
などと軽口を吐くが口から血を吐き、息を整えながらも俺の頭の中はクリアになっていた。
自身の魔力を糸にして操る。それが彼女の魔導兵器の法魔術の効果だろう。
無論、それに似た魔導兵器は過去存在するのは聞いたことはある。
しかし、彼女の魔導兵器……いいや、彼女の特性はそこではない。
事故か、それとも自分からかは不明だが、彼女の腕は等に肉体から離れており、今の腕は魔導兵器によって作られた糸の塊によって出来ているという点だ。
何故なら、文字通りの自分の腕である彼女の糸と、普通に操る手足のように動く糸は全く違う。
解除すれば腕が無くなるため、法魔術を常に発動し、魔力を消費していることはもちろん人間の体の中で最も考えて動かすのが手と言う部位だ。
それを数千本の糸との束で何違和感なく操作した上で戦闘をこなす難易度はただの戦場の状況に合わせて操作する糸使いとは訳が違う。
無論、それが出来る人間もいるにはいるだろうが、そんなことが出来る時点で少なくともこの国では名前を知らない程度の有名になっているはずだ。
だが、彼女のことは知らない所か、そもそもそんな魔導兵器があったことすら今まで知らなかったほどだ。
「いったい何者なんだよ。シェリア」
「…………」
まるで水壁から水が零れるかのように、血が地面にどんどん広がっていく。
そんな俺の姿に死ぬことを理解したのか、深いため息を吐きながら口を開いた。
「良いわ。冥途の見上げに教えてあげる。
私の名前はシェリア・ストック。
500年前の帝都の皇帝の子孫で――――裏切りの勇者の直系の子孫よ」
と言ったのだった。




