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奇跡のないこの世界で  作者: 筆我尾曾井
プロローグ
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プロローグ

――――昔々あるところ一人の偉大な皇帝が居ました。

 その国はとてもよく栄え、多くの人々は幸せに暮らしていました。

 そんなある日皇帝の国の近くにたくさんの龍が現れました。

 現れた龍は周囲の村々を襲い、その口から吐く炎や鋭い爪牙によって多くの人々が死んでしまいました。


 しかし、どれだけ多くの人が死のうと、村が滅びようと強大な龍に立ち向かう術を人も国も持っておらず、多くの国がただ龍に怯える日々を過ごしていました。

 でも、たった一人、皇帝だけは諦めず、世界を救うためにありとあらゆる方法を試しました。


 やがて皇帝は、異世界から勇者を呼ぶ方法を知り、四十人の勇者を召喚しました。

 「頼む、我が民たちを救ってくれ!」

 涙を流しながら勇者に首を垂れる皇帝の言葉に胸を打たれた勇者達は、皇帝の手を握り共に世界を護ると約束しました。


 そして、召喚された勇者たちはその約束を守り命をかけながら龍たちと戦い、世界は救われました。

 そして、世界には平穏と平和が溢れ、多くの人々は平穏と平和をもたらした勇者たちを尊敬し、称えました。


 そんなある日、皇帝は生き残った十一人の勇者たちの中から英雄と言われた最も優れた勇者を次の皇帝にすると決めました。

 無論、多くの人が、そのことを喜び、町は祭りのように騒がれました。


 しかし、そのことを許せなかったたった一人の勇者が居ました。

 その勇者は傲慢で、自分こそが優れていて、自分が一番称賛されるべきだと言いました。


 しかし、そんな勇者を他の勇者たちは認めず、やがてその勇者は仲間だけではなく、褒めたたえていた人々からも見捨てられました。

 そして、一人となった勇者はその怒りを胸に秘めながら自らを裏切りの勇者と名乗り、皇帝を裏切り国を滅ぼすと誓い、伝説の悪龍(ファーブニル)を蘇らせました。


 蘇った龍は勇者と共にかつてと同じく街を滅ぼし、人々を傷つけ、皇帝を殺しました。

 偉大なる皇帝の死を前に絶望する人々。

「皆の者、諦めるな。かの皇帝がそうだったように、今度は私がこの命に代えても民と国を護る」

 しかし、たった一人涙を流し絶望の光景を見ながらも、次期国王となった英雄は后となった皇帝の一人娘と手を握りながら仲間と共に立ち上がりました。


 再び武器を握った勇者たちはかつての仲間であった裏切りの勇者と悪龍と戦い、そして、裏切りの勇者と悪龍を倒し、真の平穏が訪れました。

 英雄の尊い命と代償に――――

 しかし、その想いは消えず残った勇者たちは英雄と仲間の意思を継ぎ、英雄と后の間に生まれた子と国を護りましたとさ。


「めでたしめでたし」

「ありがとうお兄ちゃん。それじゃあ……」

「ライア、次は無しだよ」

「えー、もうお終い? お兄ちゃん」

「はいはい、お終いですよ――――と言うかもう何時だと思っているんだよ。

 俺もライアも明日は牛の乳しぼりで朝が早いんだから早く寝ろよ」

「ぶー、ケチ」

「はいはい、ケチですよ。んじゃ、明かり消すぞ」

 と、妹の声を無視しながら俺は、明かりを消した。


「ねえねえ、お兄ちゃん。もう少し話を――――」

「駄目だ。寝るぞ」

「うー、けち」

 暗くなった部屋の中でぶーぶーとまだ文句を言う妹。

 その声を完全に無視しながら、俺は瞳を閉じる。

 そして、それが俺が最後に見た妹の姿で、次に目を開けた時に見えたのはアトラと呼ばれる王国のスラム街だった。


 何があったか分からない。

 端田舎で暮らしていた俺が何故いきなりはるか遠くの王国に居たのかも、隣で一緒に寝た妹があれからどうなったかも。

 そして、俺の故郷が何処にあるのかすらも。

 まるで、夢幻かのごとく、幼いころ過ごしていた俺の故郷はその痕跡も何もかも消えていた。


「必ず見つけ出して見せる」

 あの懐かしい日々を手に入れられるのなら何を対価に捧げても惜しくはない。

 そのためなら例え、自分の命が無くなっても良いし、どんな下劣畜生の道に墜ちても構わない。

 それほど俺は、欠片も存在しないような奇跡を心の底から求めているのだった。


――――何でこうなった。

「ひっ、ひっ、ひっ」

 何でこんなことになった。

 俺はまだ何もしていないのに。

 俺はまだ死にたくないのに。

 何で、何で、なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで

 黄金に輝く鎧と、白銀色の刀を手に男は目に涙を流し、子犬のように体を震わせながらひたすらにそんなことを頭の中で呟いていた。


 周囲に散らばる数多の盗賊の死体。

 その姿は顔がないもの居れば、腕がないもの。果てには足以外の全てがないものさえいた。

 そんな十人十色の死を現した屍山血河の中、3人の仲間は一人残らず気絶していた。

 数刻前に体を交わった女の二人も、今回のギルドの任務で偶然居合わせ、協力してもらった男も。

 誰一人として、立ち上がることが出来ず地面に倒れていた。


「グルルルル」

 だが、そんなことはどうでも良い。

 周りの死体も、自分の全身に走る負傷も、何もかもがどうでも良い。

 何故なら、それ以上の恐怖が目の前にいるからだ。


「ガァァァァアアアアア!!」

「うわぁぁああああああ!! あ、がっ!!」

 黒鱗と翼を生やしたその体から放たれた咆哮。

 一切敵意のないその声は、ただ吠えただけにもかかわらず男の体を宙に浮かせ、遥か先の壁にぶつけた。

 衝撃と共に体内ではじける痛みが気絶と狂うと言う概念を殺し、男を正気に戻させる。


 何でかつて500年以上前に異界の勇者によって滅ぼされた龍がまだ生き残っているのか。

 そして何で、男たちの前に現れたかと、そんな答えの返らない質問が頭の中に巡っていく。


「う、うう、ううう」

 何でこうなった。

 人一倍努力したし、他者よりも優れていると言う自覚はある。

 現に、実力も手加減されたとはいえ、国のトップクラスの人物に勝利を納めた程度には実力は証明されている。

 なのに……なんで、なんで。


 永遠に帰ってこない問いを頭の中で呟く男。

 その表情は一秒経つたびにどんどん歪んでいく。


「……流石にやり過ぎじゃない?」

 その時不意に、龍の背から一人の女が現れた。

 外套コートによって、その体のほとんどを隠れているにもかかわらず、微かに見える肌と黒い髪。そして、豊かに整ったその体から美女と断言できるその女は呆れた声を漏らした。


『そんなこと言っても僕だって余裕なかったんだし、そもそも捕まって僕を不安にさせたシェスが一番悪いんだから少しは多めに見てよ』

「それを言われるとそうなんだけど。

 でも、あなただって私が捕まることは承知したんでしょ?」

『それは、それ。これはこれってやつだよ。

 分かっていても焦るものは焦るし、不安になるものは不安になるんだよ。

 だから、僕は悪くないよ』

「はいはい、分かった分かった。

 ファブは悪くない。これでいいでしょ?」

『うん。それで良いよ。……それで、こいつらはどうする? シェス』

「どうするも何も、普段なら放っておくけど、あなたを見られたからには決まっているでしょ?」

『だね。何時も通りでしょ?』

「ええ、その通りよ」

 まるで日常会話のようにドラゴンと女は男たちの命運を決め、その答えと同時に一気に殺意の気配が当たりを充満する。


「う、う、うわぁぁああああああ!!」

 逃げられない。戦わなければ殺される。そう判断した男の本能なのか絶望の絶叫と共に男は自分の剣を構え、体内の魔力を流れさせ自身の体魔術を発動した。

 まるで芋虫が蝶に生まれ変わるかのように男の体が一気に強化される。

 そして、地面をけると同時に驚異的な速度で眼前のドラゴンへと近づいた男は今度は自身の持つ剣に魔力を通す。


 刹那、刃から轟々という音が漏れだし、そこから溢れる炎が周囲の温度を上げていく。

 本来、鉱物のみで構成された武器に炎を出す現象は生まれない。

 しかし、世界を改変する魔力の結晶体である魔石を道具と融合させることで作られた魔導兵器と呼ばれる武器に自身の体魔力を流すことで発現される術。

 通称、法魔術によってその常識は一気に崩れる。


 炎を放出すると言う改変内容を刻まれた魔石と融合した兵器に魔力を流すことによって発動する術はその内容通り剣から溢れんばかりの炎を生成する。

 無論、流す魔力の性質とその改変内容が合わなければその術は満足な出力を出すことは出来ない。

 しかし、男の魔力の性質は炎と内容が完璧に合致しているがゆえに、その出力は通常の二倍の出力で現れる。


「うわぁぁああああああ!! 死ねぇぇえええええ!!」

「――――ッ!?」

 恐怖の絶叫とは正反対の太陽の如く光り輝く男の剣から放出される絶死の炎。

 その炎は術者である男以外の――――背後にいる仲間たちすら軽く燃やしながら眼前のドラゴンと驚愕の声色を漏らした女を飲み込んだ。


 勝った。

 そう呟き、安堵しながら男は眼前の猛り狂う炎を見る。

 まるで王城の石柱のように燃え盛る炎は天井の石の天井を溶かすほどの熱量を放出しながらもその勢いをさらに上げていく。

 これだけの熱量ならばもはや女は当然としてドラゴンも肉片一つすら残さず燃やし尽くすだろう。


「ははは、どうやら見掛け倒しだったみたいだな。

 つまらないな」

 先ほどまで怯え切っていたうえに、死ぬとまで考えていたことを忘れたかのように頬に笑みを浮かべる男。

 それもそうだろう。

 何故なら、既に絶滅したはずの龍を見つけただけでも、十数年。

 殺したなら一生を遊べるほどの金額を国から貰えるのだ。

 即ち、このまま死体が残ろうと、残らなかろうとこのまま何事も無ければ、自分の人生は安泰だとにやけた笑みを男は浮かべ、全身の力を抜く。


 そして、その瞬間を狙うかのように――――

「炎を返すわね」

「あ、が、ギャァァァァアアアアア!!」

 猛り狂う炎の中から小さく漏れた女の声が耳に届くと同時にまるで自分が女によって操られたかの如く、突如として動き出した炎の柱が男の体を包み込んだ。


「ファブ、大丈夫?」

『うん、これくらいの炎なら僕は大丈夫だよ。

 それよりもシェスの方こそ少し長く炎の中に居たけど大丈夫?』

「そうね。コートが少し焦げたけど火傷も火ぶくれもないし大丈夫よ」

 一体何をされたか分からない。などと言う陳腐な言葉が男の脳裏を支配する。

 通常、法魔術は術者がその術式によって自爆しないように安全装置となる術式を編んでいるのが一般的であり、男が発動した法魔術にもその術式は編まれている。

 ゆえに、いくら操作されようと男が発動した法魔術によって生み出された炎の柱もまた男には一切の悪影響を与えないはずだ。

 しかし、そんな常識を嘲笑うかのように今、全身を炭にするほどの業火は燃え尽きろ、死ねと言わんばかりに、その術者である男を燃やし尽くそうと轟々とその火力を加速度的に上げていく。


「……ひっ、はっ、はっ」

「へー、やっぱり炎の魔術の適性がある人は耐性値も結構高いのね」

 女はのんきな言葉が漏れると、術式の効果が切れ、男の体が煙の中から現れる。

 地獄の如き業火を耐えきったその体は一部は既に炭化しており、もはや生きていることが奇跡のような様相だった。


「まっ、でも流石にこれで死ぬでしょ。ファブ、お願い」

『りょうかーい』

 ドラゴンののんきな言葉と同時にその口調とは正反対の殺意に満ち溢れた莫大な魔力と先ほどの何十倍もの熱量が生成されていく。

 通称、龍の咆哮(ドラゴンブレス)と呼ばれるドラゴンのみが行うことが出来る攻撃。


 それは、過去の歴史上通りならば一匹のみで小さな集落を跡形もなく消すほどの威力を持っている。

 そして、それは即ちあの一撃が放たれれば男とその仲間である女二人と、俺は確実に殺されると言うことになるのだ。


「……全く頭が痛くなる」

 何で俺の人生は何時もこんな風になるんだ。

 どれだけ綿密に計画を立てても積み木の城を見ず知らずの子供が一気に壊すかのように崩れ去るんだ。

 などと、心の中で文句を付きながら俺はほぼ停止に近い状態に維持させていた心臓を体魔術によって動かし始める。


 他人がどれだけ傷つこうと、死のうとどうでも良い。

 だが、俺が死ぬこと。それだけは許容できない。

 少なくとも、妹と再び出会うまでは――――


 ゆえに――――

「法魔術・発動」

 生きるために、かつて500年前に現れた異世界人が考案したとされる二丁銃を手にした俺はそのまま引き金を引いたのだった。

文章力を向上させるために書き始めました。

楽しんでもらえたら幸いです。

ps.作者名で色々察してください

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